義足から見た世界

2023年08月11日

月曜日、病院へ足を運んで、かねてから依頼していた新しいライナーに交換してもらった。
それは細長い箱に入れられていて、可笑しく思えるほど無駄に長かった。装具士さんは早速新品を取り出すと、僕が脱いだ古いライナーから先端のピンを外し、手早く新しいライナーへ付け替えた。
それが終わると、シリコン製の生地を裏返しにめくって、断端の先から被せていく。僕がいつもやる作業ではあるが、新品のため、締め付けがきつくてするするとはいかない。ふたりがかりで太腿まで被せ、位置を確認して生地の折り目にペンで印をする。
あとはライナーを外してハサミでカットするだけ。そう思っていたら、カット部分にも何かの処置を施していて、意外と時間がかかった。
全ての作業が終わったら、僕が自身の手で新品を履き、それまで使っていた断端袋も被せてソケットに嵌めてみる。やや窮屈な気もするが、肌に密着するこの感じは確かに一番最初に感じたものだ。絶対的な安心感。
立っても歩いても、もちろん不具合はない。だから装具士さんから今後のメンテナンスの話を聞いて、そのまま退室した。伸び伸びになった古いライナーは装具士さんに引き取ってもらった。
一年半も使うと色々まずいことが起きてしまうらしい。今後は一年くらいで早めに交換することにした。その際に先端のピンやソケットの部品も合わせて交換するよう、装具士さんが助言をくれた。
この先も義足は生活に欠かせないから、こうした助言はとてもありがたい。

今回は最初に相談をしてから一ヶ月で交換が実現した。これは僕も装具士さんも思ったよりも早いな、と感じた。
装具士さんによれば、ピンの交換をしなかったからではないか、とのこと。
当然のことだが、義足は高い。消耗品のライナーでさえ、1本8万円もする。その費用負担は健康保険や市の税金で賄われることになり、高額であればあるほど審査が長くなる、という理屈。
なるほど。
僕の場合は支払いがなかったが、そんな超優遇がいつまで続くかは正直、分からない。義足を取り巻く情勢は明らかに悪化している。
ロシアによる隣国への侵略戦争は、夥しい数の死者とともに、腕や足を失う人を毎日のように生み出している。彼らの人生を支えるはずの義手、義足が世界的に不足しているのが現在の状況だ。
世界の義足供給はドイツ、アイルランドの2大産地に集中している。それは義足、装具の価格を抑えるのが目的で、僕の義足もドイツで制作されたもの。国内メーカーだとかなり割高になってしまう。
地理的にウクライナに近いドイツでの義足制作に、戦争の影響がないわけがない。日本との取引はまだ通常のようだが、もし供給量が大幅に減らされてしまったら、国内の義足ユーザーにも何らかの不都合が生じるかもしれない。費用負担の増額ならまだしも、適時に修理、交換ができないとなると一大事だ。
あまりに無意味で無慈悲なあの戦争が長引けば長引くほど、リスクが高くなる。社会的弱者である我々には特に大きな皺寄せが来てしまう。
今のこの義足は、医療費負担ゼロだから安心して使えている、というのが現状だ。世界情勢の悪化により少しでも費用の負担が増えたら、と考えると怖い。
世界には僕を含め、義足を必要としている人が無数にいる。それらの人全員に義足が行き届き、なおかつ安心して使用できる世の中でなくてはならない。
鎮魂の8月だから、特にそう願わずにはいられない。
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Posted by くろねこ  at 09:42 │Comments(0)義足で歩く命と健康、再生の物語
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