「遊びたいゲームを作るだけ」「1ヶ月音信不通」「仕事の意識はまったくない」……「メゾン・ド・魔王」のプチデポットが語る“チームでのインディーゲーム開発術”、新作「グノーシア(仮)」への意気込みも

「自分たちがやったことのないゲーム」を作る人たち。

「遊びたいゲームを作るだけ」「1ヶ月音信不通」「仕事の意識はまったくない」……「メゾン・ド・魔王」のプチデポットが語る“チームでのインディーゲーム開発術”、新作「グノーシア(仮)」への意気込みも
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2012年に発売された「メゾン・ド・魔王」というゲームをご存知だろうか。プレイヤーはアパートの大家である魔王となり、モンスターたちを住人として住まわせつつ襲いかかる冒険者たちを退けるという、アパート経営シミュレーションとタワーディフェンスが合体したかのような不思議でおもしろいゲームである。

もともと本作は、Xbox 360で展開されていたXbox LIVE Indie Gamesという市場向けに作られたゲームであった。この場所は日本ではかなり知名度が低く、一作に対してはそれこそ数十人、いや数人くらいが注目すれば御の字とも言える程度の存在。しかし「メゾン・ド・魔王」はそこでみるみるうちに人気を集め、PC、PS Vita、PS4、ニンテンドー3DS、Nintendo Switchと大きく羽ばたいて行った。しかも、PHP研究所からはライトノベルも出版されているのである。

「メゾン・ド・魔王」を作り上げたのは、名古屋に住む独立系ゲーム開発集団「プチデポット」の4人。いわゆるインディーデベロッパーなわけだが、彼らの雰囲気は独特だ。私の印象からすればプチデポットのメンバーはひょうひょうとした人々であり、“自分の考えたおもしろそうなゲーム”を淡々と形にしているように見える。ギラギラとした存在というよりは、のんびりとゲームを遊び、かつ作り続けるような人たちと言えよう。

そんなプチデポットは現在、PS Vita向けの新作「GNOSIA(仮題)」(以下、[グノーシア(仮)と表記)を開発中である。本作は「汝は人狼なりや?」(以下、人狼ゲーム)をベースにしたSF人狼RPGアドベンチャーゲーム。未来の宇宙船を舞台に、船員の中に紛れ込んだ人類の敵「グノーシア」を見つけることが目的となっている。1プレイは3分~15分程度で、手軽に何度もグノーシア探しの議論と推理を楽しめるようなスタイルだ。

それぞれの発言や役割を考慮しグノーシアを探し当てる……という基本的なルールは人狼ゲームと同じだが、キャラクターにはカリスマや演技力といった各種パラメーターが存在しており、それによって展開は大きく変化する。鋭い人物はすかさずグノーシアを見つけるかもしれないが狙われやすく、ロジックが低ければウソをついたときに論理的に破綻しやすい。主人公は経験を積んでレベルアップすることができ、パラメーターを強化することも可能だ。このRPG的な作りによってプレイスタイルも変化する。

また、場合によってはイベントが発生しキャラクターの過去や背景を知ることにもなる。そして最終的には、なぜ世界がループして何度もグノーシア探しを行うことになるのか……、といった大きな謎にも行き着く予定なのだそうだ。なお、IGN JAPANでは「A 5th of BitSummit」で出展された体験版のプレビューが掲載されているほか、コミックマーケット92出展時にもピックアップして紹介されているので、そちらもぜひ見てほしい。

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私も「グノーシア(仮)」を少しプレイさせてもらったが、一刻も早く製品版を遊びたいという気持ちになった。試遊版を遊んだ人の中には2時間くらい無言で遊び続ける方もいるそうで、プチデポットもその出来栄えには手応えを感じているようだ。

そんなゲームタイトルをたった4人で、かつ楽しく作り上げるプチデポットはどのように活動しているのだろうか? 「グノーシア(仮)」の持つ魅力についてと同時に伺った。

インタビューの登場人物について

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めづかれ(本名:川勝徹):
プチデポットのリーダー。ゲームを発売するまでの全工程における開発以外のすべて、つまり宣伝・マネージメント・パブリッシャーとの契約などを総括して行っている。プチデポットの苦労人でもある。
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しごと:
開発担当。シナリオも手がけている。一見すると変なゲームが好きでやる気のない人に見えるが、実はかなりすごい人物。
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ことり:
キャラクターデザインやUIなどイメージに関するものはすべて担当。シナリオの協力のほかデバッグも行っており、しごと氏と同じく優秀なメンバーのはずなのだが、忙しいときほど乙女ゲーを遊ぶ傾向にある。
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Q flavor:
BGM・効果音などサウンド全般を手がける。本人曰く「ゲームを遊んで感想を言うこともあるんですが、そっちのほうが開発に関わってる感じがします」とのことで、かなり謙虚な人。

「みんなで集まってゲームを作っている」だけの人たち

――本日はよろしくお願いします。プチデポットの皆さんは、インディーデベロッパーというか同人ゲームサークルというか……。どういう呼称がよろしいですか?

プチデポットのリーダー、めづかれ氏こと川勝徹氏。ほかのメンバーは顔出しNGなのでおひとりでの写真を撮らせていただいたが、インタビュー中はもちろんほかの方々もそばにいた。なお、撮影・インタビュー場所はしごと氏の自宅をお借りした。
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めづかれ:
そうですね……。“独立系ゲーム開発集団”ですかね?(笑)
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しごと:
「みんなで集まってゲームを作っている」以上は別にないですからね。
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めづかれ:
どこかからお金をもらってゲームを作るということもないですし、やはり独立系ゲーム開発集団という呼び方がしっくりきます。
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しごと:
そもそもプチデポットの名前も「メゾン・ド・魔王」が完成したときに場当たり的につけたものですから。
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めづかれ:
2日前だったかな(笑) あそこにある冷蔵庫(※1)からつけたという。

※1 あそこにある冷蔵庫
しごと氏のお宅にある冷蔵庫には「Petit Depot」とブランド名らしきものが描かれている。ちなみに、プチデポットの各メンバーの名前も割と大雑把に決めてしまったらしい。

――では、独立系ゲーム開発集団として集まったのはどのような経緯があったのでしょう?

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しごと:
一番最初のきっかけは、めづかれさんと僕が同じ会社で働いてたことですよね。
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めづかれ:
それで趣味とかコミケの話とかして「自分たちだけでゲームを作るとかできるのかな?」となって、仕事をやめたあとでQ flavorくんを誘い、しごとくんからことりちゃんを誘ってもらって集まって……。
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ことり:
3ヶ月くらいかな? 短期間でガッと作りましたね。
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めづかれ:
そうやってコミケなどでゲーム作りを趣味で細々とやっていて、後々の「メゾン・ド・魔王」に繋がるという。
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しごと:
「メゾン・ド・魔王」はXbox LIVE Indie Gamesでゲームを出したいということで作りはじめました。とりあえず作りたいという気持ちが先行してたので、ことりと一緒に作り始めた感じです。
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ことり:
7割くらいできたらあとはリーダーに見せて、音楽をつけて……完成という感じですね。

――こう言ってはなんですが、勝手に作ってしまったということですか。

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Q flavor:
曲に関しては、事前にしごとさんのほうから「こういう曲が必要かも?」という相談を受けてはいたので作ってはいました。なので、概要からイメージして自分なりに作曲しておいて、ゲームに乗せてもらう形でしたね。

――普段の活動からもうゲームを作り上げているような感じなんですね。

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Q flavor:
そうなんです。なので、僕が「メゾン・ド・魔王」を明確に意識したのはプレイヤーとして触れたときですね。テストプレイとして遊んでいると「うわー、すごくおもしろい!」となって、しばらくすると急に「ああ、このゲームの曲は自分が作ってるんだ」と思うという。いつも自然体にやっていて、遊ぶころになってようやく作っている意識が芽生える感じです。

――そんな家庭内制作ゲームとでも言うべきタイトルですが、今やすっかりいろいろなハードで出ていますね。その途中には苦労もあったのではないでしょうか?

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めづかれ:
そうですね、知名度も何もない状態からのスタートでしたし、当時はインディーゲームをたくさんのプラットフォームに出すというのも珍しかったですからね。「一番最初にやってやろうか!」という気持ちで挑みました。結果として成功して自信になりましたし、新作「グノーシア(仮)」の制作費に回せているので何よりです。

「遊びたいゲームを作る」という単純な目的

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――では「グノーシア(仮)」も、しごとさんが人狼ゲーを作りたいと思って手が進んでしまったという感じでしょうか。

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しごと:
これは工作員さん(※2)にとあるゲームを教えてもらいまして……(笑) それは人狼ゲームをモチーフにしたスマートフォン向けタイトルだったんですよ。遊んだら結構おもしろかったんですが、不具合があったり「こうしたらいいのにな」というところがあったりして。

※2 工作員さん
未来のゲームレビューSF小説「ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム」を手がける小説家、赤野工作氏のこと。IGN JAPANではその小説に関する書評のようなコラムも掲載中。

――そのゲーム、ここでは名前を出せませんが倫理的にも問題があって世を騒がせましたよね。

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ことり:
あれが私の初人狼でした(笑) そこから人狼ゲームというものに興味が湧いたんです。
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しごと:
そのときちょうど、PlayStation Mobile(※3)で何かゲームを作ろうと思っていたころだったので、人狼ゲームを題材にしたものを制作しようと思いました。もっと簡単に言えば、ことりが人狼ゲームを遊びたいと言ったので単純にそのために作ったゲームでしたね。

※3 PlayStation Mobile
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(当時はソニー・コンピュータエンタテインメント)が提供していたPS VitaおよびPS Vita TV、そしてAndroid端末向けのプラットフォーム。この市場では、ソニーと契約を行っていない開発者も割と自由にゲームタイトルを配信することができた。良いタイトルもいろいろあるが、難解すぎる格闘ゲームなど奇妙なタイトルも多かった。

――具体的に人狼ゲームのどういった部分に惹かれたのでしょうか?

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「グノーシア(仮)」の議論シーンの一部分。夜の間に誰かひとりの素性を調べることができるエンジニアという役割が存在するが、グノーシア側の人物がウソをついてエンジニアであると主張することもある。
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ことり:
ああいう考えるゲーム自体が好きで、推理したり論理的に人狼を確定したりというのが特に好みでした。ただ、リアルでやるにはちょっとためらいが……。
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めづかれ:
一応は実際にやってみたんだっけ?
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しごと:
僕は一回だけ友達に誘われてリアルの人狼ゲームに参加してみたんですが、感想は「まあいいや」でした(笑)
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ことり:
速攻で吊られて排除されて楽しめなかったらしいです。なんかプロっぽく見えるらしくて(笑)
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しごと:
「カードをめくる手つきがプロっぽい」とか(笑) あとはまあ、人間関係がめんどくさいというのもあって。別にほかの人と仲良くなるためにゲームをやりたいわけではないですから。

――ボードゲームとかアナログゲームは他人とのコミュニケーションツールとしての側面もありますからね。

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しごと:
それに人狼ゲームは大人数のほうが楽しそうなんですが、仲の良い人を十数人も集めるのは無理じゃないですか。それならビデオゲームとして、シングルプレイで同じような楽しみを表現できそうだなと思ったんです。

――ただ、PlayStation Mobileは2015年3月に終わってしまったんですよね。

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めづかれ:
結局のところ、そのあたりの問題があって、ふたりはグズグズしてて出しそびれたんですよね。それはそれで僕にとってはラッキーで(笑)、もう少しじっくり作ってPS Vita向けに出そうという話になりました。……そこから2年半くらいですかね。
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しごと:
PlayStation Mobileが終わるころの段階だと、人狼ゲームとしては一応完成していたんですよ。ただそのクオリティだと、出来はいいけど無料で出すしかない内容でしたね。今のRPG要素はないし、単純に繰り返して人狼ゲームを遊ぶ感じでした。
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Q flavor:
僕はPlayStation Mobileのころはノータッチだったんですが、音楽は作っていました。キャラクターのイメージイラストを頂いて「こういう要素があったほうがいいな」と考えて、それを曲に入れていた感じです。

のびのびと開発できる環境を「あえてありがたいと思わない」

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人狼ゲームでは毎日誰かひとりを吊って殺すが、「グノーシア(仮)」では疑わしい人物をコールドスリープさせることになる。人類側はグノーシアを探してコールドスリープさせれば勝利、グノーシア側はコールドスリープから逃げ切り過半数の状態になれば勝利。

――では皆さん「人狼ゲームが大好き!」というわけではないんですね。

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めづかれ:
最初に概要を聞いたときに言われたのが「人狼ゲームを使ってキャラクターを活かすものにしたい」ということだったんですよ。人狼ゲームはあくまでもシステムであって、それでことりちゃんの描くキャラクターを表現するという。
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ことり:
イメージ的には「サガ」みたいな感じに、ですね。

――そういえば、パラメーターの要素はすごく「サガ」っぽいですよね。あのゲームはパラメーターからキャラクターの肉付けをした作品もあるそうで、数値がキャラクターを表すというか。

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前述のように「グノーシア(仮)」には各種パラメーターが存在する。それにより疑われやすさ、ウソに気づきやすいかなどが決定されるほか、独自のスキルも使用可能。そのため、プレイを続けていると各キャラクターのパラメーターによる特徴(コールドスリープされやすい、リーダーシップを発揮しやすいなど)もわかりやすくなっている。
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しごと:
基本の人狼ゲーム部分が完成したあと各キャラクターに特徴付けをして遊んでみたんですが、するとそれぞれの行動から「あのキャラはこういう性格をしてるんだな」と思えるようになってくるので、それを設定やセリフにも反映していきましたね。
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Q flavor:
先ほどのように僕は絵だけ見て曲を作ったんですけど、実際にプレイできるようになってから人狼ゲーム的な性格とかを知ると「こんなに一致してるんだな」とビックリしましたね。
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ことり:
やっぱりそういうところは伝わるんだなあと思いましたねー。
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しごと:
そういう伝わるところもあるんですが、めづかれさんにはできるだけ客観的に見てほしいというのはありましたね。
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めづかれ:
僕がプレイしたら思った以上に訳がわからないところがありましたね。最初に僕が遊んだときは、しごとくんとことりちゃんのふたりが僕のプレイ結果を見てニヤニヤしているんですよ! でも、こっちからは何をおもしろがっているのかわからないんです。なので「そこの差を埋めるために、人狼ゲームとしてのルール説明や、おもしろさに至るバックボーンをきちんと整備してほしい」と指摘している感じになっています。
しごと氏のお宅にいた猫。猫たちも大事なチームメンバーらしく、デバッグ(虫取り)を手伝ってくれるのだとか。

――チームとしてうまく行っているように見えますが、別にこれといって役割分担を意識しているわけではないですよね。

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ことり:
自然にこうなってる感じかな?
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しごと:
僕らのほうは特に……。でも、めづかれさんはもしかすると意識してますよね。
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めづかれ:
してますよ!(笑) いろいろ気をつけてますが、僕は特に開発のメンバーに余計なストレスを与えないことが大事だと思っています。僕も開発経験が長いので、気持ちがよくわかりますし……。なので契約周りをやったり、指摘する場合は直接本人に言ったほうがいいのか間接的に言ったほうがいいのかなど、ストレスになってしまうかもしれないことは気を使ってますね。

――開発担当のしごとさんから見て、その点は何か感じることはありますか?

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しごと:
あまり「ありがたいと思わない」ようにしています(笑)

(一同笑い)

――ど、どういうことですか!?

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めづかれ:
僕が作ってきた環境を楽しむというか、自然体でいることが大事なんだと思います。そのあたりを意識しすぎちゃうとそれはそれで気を使ってストレスになっちゃうので、それがいいのかな。
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しごと:
今は各ハードで出ている「メゾン・ド・魔王」の収入があるので、めづかれさんに食わせてもらっているような状況なんですよね。そこを恩だと感じてしまうと「彼のためになんとかしなければ」と思ってしまうんですが、それはなんか違うかな~と。なので、気にしないほうがいいなという判断です(笑)
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めづかれ:
最終的には恩を返してもらいますよ!(笑) そうそう、3人が言ってくることはけっこう無茶が多いのですが「そんなのできるわけねーじゃん」とは言わないようにしています。今回も販売のことを考えるならスマートフォン向けにしようとか進めがちじゃないですか。でもそこを曲げないで、彼らのやる気を維持しつつ、逆に無茶を楽しみに変えていくつもりでやっています。なのでやりがいはありますね。

――そして苦労でもあるという。

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めづかれ:
そうですね(苦笑) でも、このメンバーなら「こんなゲームを作りたい、そして多くの人に遊んでもらいたい!」という難しいことができると思ってるんですよね。あとは個人的に、今回の「グノーシア(仮)」は「おもしろいから遊んだほうがいいに決まっている」と思っています。少なくとも興味を持った人たちにはすごく刺さるはずですからね。
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ことり:
少なくとも私たちは「これは超楽しい!」と思ってますね。
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めづかれ:
だってことりちゃんたち、800ループくらいプレイしてたよね!?
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しごと:
そうですね、最近は「スプラトゥーン2」に押されちゃってますけど(笑)
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ことり:
そうそう、そっちも「延々とできちゃう!」ってね(笑)

人狼ゲームとストーリーを自然に混ぜ合わせる“哭きの竜システム”

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「グノーシア(仮)」に搭載されている航海日誌システム。誰が誰を疑ったか、どんなことを明かしたかなどが記録される。単に状況を判断するのみならず、グノーシアを見つけるための大きなヒントにもなる。

――それまで特に興味のなかった人狼ゲーム系タイトルを作るということで苦労されたことはありましたか?

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しごと:
確率計算のところで問題はありましたが、さほど苦しく思ったことはないです。ゲーム開発自体は問題を出されてそれを淡々と解いている感じに近いと思います。苦労があるとしたらストーリーでしょうか?
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ことり:
ストーリーというか、今だね(笑)
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しごと:
うん、苦労してるとしたらだいたい“今”だよね(笑) 「グノーシア(仮)」はストーリーだけをおもしろくしたいわけではなくて、人狼ゲームの状況に合わせたストーリーを入れたいんです。

――あくまでストーリーが従であると。

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しごと:
そうですね。ストーリーがおもしろすぎるとその続きが気になって人狼ゲームがないがしろになっちゃうというか。そういうゲームがいいなら「レイジングループ」(※4)とかが圧倒的におもしろいですからね。それとは違うので、自分が参考にできるゲームがあまりなくて困っています。

※4 「レイジングループ」
ケムコから発売されているアドベンチャーゲーム。人狼ゲームをベースにした和風ホラー系ノベルゲームとなっており、主人公は殺人儀式が行われている山奥の村で「死に戻り」を繰り返し、怪奇事件の謎を解くことになる。筆者およびしごと氏、ことり氏のイチオシタイトル。

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ことり:
ストーリー推しならそれだけガーッとやったほうがよくて、それこそ人狼ゲームはなくても伝わりますからね。
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しごと:
そこで悩んでいるところに「スプラトゥーン2」が来て困っている感じですね(笑)
「スプラトゥーン2」。しごと氏はこのゲームに対して「それにしてもスプラトゥーンはヤバいですよ……。」とコメントしており、家族皆でプレイしまくっているのだという。
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めづかれ:
1プレイ自体は短いけど何度も遊んでしまうとか、そういう細かな作りは「スプラトゥーン2」が参考になっているかもしれませんね。
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しごと:
そうそう。たとえばローラーに轢かれてやられたとして、その人が「どんな性格をしていて何回くらいプレイしている」とかバックボーンがわかるときっとおもしろいと思うんですよね。でも対戦ゲームである「スプラトゥーン2」のシステムからするとそれは余計なので、「グノーシア(仮)」みたいな相性の良いタイトルで実現させると楽しく機能するだろうなあとか考えています。
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めづかれ:
人狼ゲームを遊ぶうえで、と考えて要素を組み込むというのはありますね。「グノーシア(仮)」は普通のアドベンチャーゲームのように見えるかもしれませんが、選択肢を選んでお話を読むゲームではないですし、人狼ゲームにおける固有のシチュエーションによってはじめてイベントが発動するなんてこともあったりします。

――人狼ゲームを楽しむことによって、キャラクターの裏や世界をもっと深く知れるという形なんですね。ゲームをプレイしているうちにストーリーが馴染んでくる……、ナラティブ(※5)というか。


※5 ナラティブ
非常に解釈が面倒な言葉なのだが、ここでは「ゲームを構成する要素からプレイヤーが自然に物語を感じ取る」という意味になる(ただしこの使い方は狭義的となるようである)。ちなみに「メゾン・ド・魔王」は「INDIE STREAM AWARD 2014」という賞で「BEST OF NARRATIVE」を獲得しているが、そのときにしごと氏は「ナラティブってなんですか?」と言った。

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めづかれ:
雀荘で麻雀を遊んでいると、常連と何度もやるようになってその人のことがわかっていく感じですかね?
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しごと:
麻雀といえば、実は「グノーシア(仮)」は“哭きの竜システム”というのを採用しているんですよ(笑) 麻雀漫画に「麻雀飛翔伝 哭きの竜」(※6)というのがあるんですが、あれは麻雀をやりつつその背後でヤクザの組長が撃たれたりと物語が同時展開していくという内容で、ああいう別々のものが一体化してるのが好きなんです。

※6 「麻雀飛翔伝 哭きの竜」
1985年より「別冊近代麻雀」で連載が行われた能條純一による漫画作品。鳴くと必ず和了る男「竜」とそれを狙うヤクザたちの物語が描かれる麻雀漫画。ちなみにしごと氏は中学時代に本作から影響を受け、三者面談の進路相談で「雀士になります」と言ってしまったそうである。

――まさか本作のゲームシステムに「哭きの竜」が関係しているとは(笑)

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めづかれ:
人間と遊ぶ人狼ゲームだと「こういうときにああいう発言をするのはあのセオリーに従っているんだな」とルールの部分について考える感じになるんですけど、ゲーム内だとキャラクターは人狼ゲームを遊んでいるわけではないので「ああ、あのキャラはこういう性格なんだな」と受け入れられるところも大きいですね。そのおかげで“哭きの竜システム”としてストーリーが語れる感じになるという。

――とはいえ、そこで苦労してるんですね。

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めづかれ:
そうそう、それで悩んでいるしごとくんに以前「1ヶ月放っておいてくれ」と言われたんですよ(笑) 1ヶ月も音信不通ですよ! さすがにほかのメンバーとは話ができましたけど。

――それは「ちゃんと書けるのか?」と不安になりませんでした?

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めづかれ:
設定ノートを見ていたので大丈夫でした。気になるところも事前に突っ込んでおきましたからね。
「グノーシア(仮)」の設定ノート。主にしごと氏が自分の考えをまとめるために書いているため、本人にしかわからない内容も多い(ただし本人によると「自分でも何を書いたかわからないときがある」そうだ)。3年間で4冊ほど使用している。

――できることは確信していたわけですね。

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めづかれ:
そうですね、本人が言うなら静かにしておいたほうがいいかなと思いまして。あとは出てきたものに指摘をすればいいですし。

ゲーム開発をしていても「仕事をしている意識はまったくない」

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「グノーシア(仮)」では議論の合間にいくつかの場所へ移動することが可能。誰かに遭遇して話をすることができるほか、イベントが起こることもある。

――「メゾン・ド・魔王」のときも思ったのですが、プチデポットの作るゲームは独創的ですよね。既存のゲームのエッセンスは感じるんですが、物珍しいものを組み合わせるという。

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めづかれ:
「グノーシア(仮)」もほかのプレイヤーがコンピューターのひとりプレイ専用の人狼で、展開が毎回変わって、RPG的な要素もあって、そこからストーリーが見えてきて……、と珍しいゲームじゃないですか。それはやはり「やったことのないゲーム」を作りたいという思いがあるんですよね。その気持ちを持ったまま2年半か3年くらいですかね、よくここまで出来たなと思います。ただ、まだ完成ではないので妥協せずに続けていきたいですね。
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しごと:
内部的には変なことをしていても、プレイヤーからすると今までに触ったことがあるような感じにしたいなあとは思っていますね。
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ことり:
「メゾン・ド・魔王」のときは人から言われて「あ、これタワーディフェンスでもあるんだね!」ってなりました(笑) 砲台(タワー)はモンスターと違ってお出かけとかしないですけどね。

――「何か新しいものを作ってやる!」という野心に燃えているという感じではないんですか?

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しごと:
純粋に「自分が新しいゲームを遊びたい」というのがモチベーションのすべてだと思います。
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めづかれ:
既存のゲームのようなものを作るとなるとここまでやってられないと思います。
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Q flavor:
外的要因だと意外と頑張れないし折れやすいかもしれません。「お金がもらえてやったー!」となってもそれは一瞬の喜びなんですよねー。持続的にやるなら“作ること=快楽”みたいな状態にしたほうがやりやすそうです。

――申し訳ないんですが、すごいことをしている意識も特になさそうですね。

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しごと:
ぜんぜんないです。
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めづかれ:
そういう状態だからこそうまく行くところもあるでしょうね。
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しごと:
本当に、仕事をしている意識はまったくないですね。
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ことり:
うん。「これも仕事のうちだから許される……!」とか言って「スプラトゥーン2」をやってます。

(一同笑い)


プチデポットの皆さんとは何度かお会いしたことがあるのだが、やはり彼らは楽しげにゲーム開発をしているように見える。もちろん開発が佳境に差し掛かればピリピリすることもあるのだろうが、それでも愚痴はあまり聞かないし、むしろおもしろかったゲームのことを教えてくれたり(当然ながら変なゲームの話が多い)、今作っているゲームに関することを無邪気に話してくれるのである。

しごと氏たちがのびのびとやっている反面、リーダーは特に苦労をしているのだろうが、それでもうまく行っているのは同じ目標に向かって楽しく歩むことができているからだろう。“熱い友情”だとか“固い信頼”なんて言葉とは縁遠そうな人たちだが、おもしろいゲームを作りたいという気持ちは同じなのだ。

PS Vita向けSF人狼RPGアドベンチャー「グノーシア(仮)」は2017年内の発売を目指して開発中。楽しくゲーム開発を続けている彼らは、おそらく人狼ゲームの新たな可能性を見せてくれることだろう。

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グノーシア

2019年6月20日
  • Platform / Topic
  • NintendoSwitch
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