日本初!嚥下機能が衰えた人も安心「とろみ付き」飲料を選べる自販機
飲食物を飲み込む嚥下機能が低下した人が液体を飲むとき、「とろみ」をつけるとうまくいくことが知られている。介護現場ではとろみ付けの作業に時間と人手が取られてしまうことがあるが、これをワンタッチで可能にする「とろみボタン付きカップ式自動販売機」がこのほど開発された。10月から病院や介護施設などに順次導入されていくという。
ボタン1つでとろみの濃度も簡単に
嚥下障害は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害や神経系の病気、加齢による筋力の低下などが大きな原因とされている。また、歯や入れ歯でうまく噛めない、唾液の出が悪いなども一因となる。
これにより引き起こされる病気として問題視されているのが、誤嚥性肺炎。食べ物や口腔内の菌が気道から肺に入ることで発症する肺炎で、高齢者は重症化しやすい。
こうした誤嚥を防止する一つの方法が、飲料などの液体に「とろみ」を付けることだ。
介護施設などでよく行われているこの「とろみ付け」作業を簡単にする「とろみボタン付きカップ式自動販売機」は、ニュートリー株式会社と株式会社アペックスの共同開発によって生まれた。
ニュートリーは、通常の食事から十分に栄養素を摂取できない人のために、栄養療法食品や嚥下障害対応食品などの開発・製造を行っている企業。特に嚥下補助食品ではパイオニアで、とろみ材・ゼリー化材の「ソフティアシリーズ」や、嚥下が困難な人のための食品「アイソトニックゼリー」、「プロッカZn」などを発売している。
アペックスは、自動販売機の設置から運営管理まで行う企業として半世紀以上の歴史があり、北海道から鹿児島まで全国7万4000台を設置している。そのうちカップ式は4万5000台だ。
「とろみボタン付きカップ式自動販売機」では、ニュートリーが嚥下補助食品の開発で培ったノウハウを活用し、カップ式自動販売機から抽出される飲料にとろみをつけるための技術や「ソフティアS」の提供を行う。一方アペックスは「とろみボタン」を搭載した、カップ式自動販売機の開発と導入後の品質管理、衛生管理などのトータルサポートを受け持つ。
ここで使われているとろみ材「ソフティアS」が優れているのは、片栗粉とは大きく違う点だ。でんぷん由来である片栗粉で作ったとろみ飲料は、口の中に入れると唾液中のアミラーゼの働きで分解され、サラサラの液体に戻ってしまう。しかし、とろみ材ではそうした現象は起こらず、とろみのある状態のままで喉を通っていく。その性質のため、「ソフティアS」は医療機関でも実際に使われている。
「とろみボタン付きカップ式自動販売機」の操作方法は、一般的なカップ式自販機と変わらない。違いは「とろみあり」ボタンが付けられていることだ。飲料を選ぶ前にボタンを押すと、とろみのある飲料を作成するようになっている。さらに、とろみの濃さを調節するボタンもあるため、好みや嚥下障害の程度によって変えることも可能となっている。
現在あるメニューはコーヒー、カフェオレ、ココア、緑茶で、いずれもホットとアイスが用意されている。
嚥下機能が低下した人増える社会の問題解決に
開発の背景には、高齢化社会に対する2社の問題意識があった。とろみ付き飲料は、飲み込みが難しい人の誤嚥や窒息を予防する目的で医療機関や介護保険施設、サービス付き高齢者住宅や有料老人ホームなどで提供されている。通常は専用の「とろみ材」を飲料に加え、スプーン等でかき混ぜ、とろみの程度を調整して作るため、どうしても手間と時間が必要となる。
ニュートリーでは、医療・介護現場での深刻な人手不足を解決するため、とろみ作りに人手を必要としない方法を模索していた。またアペックスは、高齢化が進む日本で嚥下障害者が増えている動向に着目し、嚥下機能が低下した人にも飲み込みやすい飲料をどう提供していくかを検討していた。こうした状況を改善したいという願いが、新型自販機につながった。
「とろみボタン付きカップ式自動販売機」は、日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニックなどへの導入を皮切りに、サービス付き高齢者住宅や有料老人ホームなどの高齢者施設への導入を目指し、2021年には2万台の設置を考えているという。