????

睡眠・休息・メンタルケア

心が疲れやすくて生きづらい…それは「HSP」かもしれません

印刷する

監修/田中 遥先生(ベスリクリニック院長)

「いろいろなことが気になって落ち着かない」「ちょっとしたことで落ち込みやすい」と感じることはありませんか。それは、あなたが「HSP」だからかもしれません。HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン/Highly Sensitive Person)とは、視覚や聴覚などの感覚が敏感で、刺激を受けやすいという特性を生まれつき持っている人のこと。HSPの特性や心を労わる方法などについて、ベスリクリニック院長の田中遥先生に伺いました。

HSPってどんな人?

HSPは、米国の心理学者であるエレイン・N・アーロン博士が提唱した心理学的概念で、神経が細やかで感受性が強い性質を生まれ持った人のことです。全人口の15~20%、約5人に1人はHSPと考えられています。

HSPには、特徴的な4つの性質「DOES(ダズ)」があります。

■ D:Depth of Processing/深く処理をする
  簡単に結論の出るような物事であっても、深くさまざまな思考をめぐらせる
■ O:Overstimulation/過剰に刺激を受けやすい
  刺激に対する反応が強く表れやすく、疲れやすい
■ E:Emotional response and empathy/全体的に感情の反応が強く、共感力が強い
  他人との心の境界線が薄く、相手の感情の影響を受けやすい
■ S:Sensitivity to Subtleties/些細な刺激を察知する
  他の人が気づかないような音や光、匂いなど、些細な刺激にすぐ気づく

HSPの人は、感覚的な刺激に対して無意識的・反射的に対応する脳の部位、「扁桃体」の機能が過剰に働きがちで、HSPではない人と比べて刺激に強く反応し、不安や恐怖を感じやすいことが分かっています。相手の気持ちを察知して行動したり、物事を深く探究できる半面、ささいなことで動揺したり、ストレスをためてしまうこともあります。

HSPが注目されるようになった背景には、インターネットの普及などで社会環境が変化し、誰もがSNSで自由に発言できる機会などが増えるようになって、刺激に影響を受けやすいHSPの人が気疲れや生きづらさを感じるようになったことが考えられます。複数の著名人がSNSなどで「自分もHSPである」と告白したことも、広く知られるきっかけになったと言えます。

もしかして私もHSP? HSPの特徴を知ろう

HSPの人は、以下のようなことを感じたり、悩んだりすることが多いようです。同じような悩みを持っているのであれば、あなたもHSPの傾向があるのかもしれません。

【HSPの人が抱えやすい悩み】

  • 周りの人に「敏感」「内気」と言われることが多い
  • 生活の急な変化に弱く、動揺してしまう
  • たくさんのタスクをこなさなければならなくなると、混乱してしまう
  • 大きな音や強い光が苦手
  • 些細なことでも、深く考えすぎてしまう
  • 芸術に触れると大きく心を動かされる
  • 忙しくなると、一人で静かに過ごせる刺激の少ない場所にこもりたくなる
  • 他人の気分に振り回されやすく、対人関係に疲れがち
  • 小さな音や匂いも気になってしまう
  • 映画やドラマの暴力的なシーンが苦手

※出典:エレイン・N. アーロン著、冨田香里訳『ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ。』(講談社)を参考に一部改変

行動や環境を変えて、HSPとうまく付き合おう

HSPは病気や障害ではなく、生まれ持った特性(気質)ですので、「治療する」ことはできませんし、その対象でもありません。しかし、自分の行動や環境を変えることで対処することが可能です。

HSPは、刺激に対して扁桃体が過剰に反応してしまう状態ですので、まず刺激の少ない環境に身を置き、刺激そのものを避けることが考えられます。例えば、共感力が高く、相手がしてほしいことを敏感に受け止めて疲れてしまいがちなら、周りと少し距離をとってみましょう。聞きたくない話を聞く必要もなければ、苦手だと感じる人と仲良くする必要もありません。負担を感じる相手とは距離を置き、自然体でいられる人間関係を大切にするようにしましょう。

光や音など、外からの刺激に敏感すぎる場合は、アイテムを活用して、刺激を和らげてみましょう。

  • 視覚→周りが見えすぎないようにメガネをかける、メガネの度を下げる、寝るときにはアイマスクをする
  • 聴覚→イヤホンをして好きな音楽を聴く、耳栓を付けて雑音をシャットアウトする
  • 触覚→肌触りのいい素材の服、締め付けすぎず、心地よいと感じるものを身に付ける
  • 嗅覚→マスクで鼻を覆って隠す、お気に入りの香りのアイテムを持ち歩いて時々香りをかぐ

さらに、刺激を受けた後の行動は、自分で決められることを知っておくのも大事なことです。例えば、空気を読んで周りの人の気持ちを察知したとしても、先回りして行動するかどうかは自由です。過去に大きく傷つく出来事を経験した場合は、トラウマを癒やしたり、とらえ方を変えるリフレーミングが有効です。

<HSPの対処法>

他にも、HSPに関する書籍や記事を読んで理解を深める、同じ状態で苦しんでいる人の存在を励みにする、HSPの人がどのように生きづらさを解消していたかを知ることなどで、心が楽になることもあるでしょう。

HSP自体は病気ではありませんが、HSPの特性によって心が刺激を受けすぎた結果、仕事や日常生活に影響が及んだり、ストレスによるうつ病や胃腸炎などの疾患に移行してしまったりなど、マイナスに作用することはあります。日常に支障が出て、自分一人では対処できないようであれば、カウンセリングを受けたり、病院で適切な診療と治療を受けましょう。症状に応じた治療を受けることで、つらい状態を緩和することができます。

HSPは欠点ではありませんし、自分自身を制限するラベルでもありません。むしろ長所となる部分もたくさんあります。「HSPだから……」とネガティブに考えるのではなく、生まれつき持っている才能としてとらえるとよいでしょう。そして、もし繊細であることで生きづらさを感じるなら、まずは「HSPであることによって自分は何に困っているか?」を知ることが大事です。その困りごとやつらさを取り除くために行動や環境を工夫し、自分の特性に合わせた対処法を考えて、人生を豊かにしていきましょう。

監修者プロフィール
田中遥先生(ベスリクリニック院長)

【田中遥(たなか はるか)先生プロフィール】】

ベスリクリニック院長
産業医。東京慈恵会医科大学医学部卒。2018年4月よりベスリクリニックに勤務し、HSPの悩みにも多数対応。自律神経の研究を行いながら、単に病気が治る医療ではなく、どのように生きるかを追求する医療を目指す。約40人の臨床心理士、保健師、臨床工学技士、臨床検査技師、カウンセラーとともに、よりよい未来をつくりあげるために、日々診療に従事している。

この記事はお役に立ちましたか?

関連記事はこちら 関連記事はこちら

クリップ一覧に保存しました。

  翻译: