読書感想:宮本輝 様 『異国の窓から』西ドイツ

 このエッセイは、宮本輝様が、昭和58年(1983)11月から昭和60年5月まで朝日新聞に掲載された新聞小説『ドナウの旅人』のために取材旅行のエッセイである。

 それが、面白すぎて、なんと一晩で読み切ってしまった。正直、日本で言えばバブル崩壊前、共産圏で言えば1989年ベルリンの壁崩壊前、そして2022年のロシアのウクライナ侵攻前の40年前の共産圏の描写の長い事に、辟易して『ドナウの旅人』下巻は読むのが辛かったのだ。しかし、このエッセイは、とにかくも面白い。

 仮に、長編小説をいかに書くべきかとお悩みの方、あるいは宮本輝様の文章が大好きで仕方ない方は、この『ドナウの旅人』と『異国の窓から』を、前後して読むのをお勧めする。長編小説を読む前にエッセイを読んでおけば、どんな実際の経験が、小説作中、誰のどんな描写になっているかがわかり退屈しない。作中人物の心象を映す風景として描かれているのかが、本当に比べられて、極上の読書体験になりえるだろう。

 

 西ドイツ、ニューデンベルク

 観光地に一切、興味のない宮本輝様は、街中の一瞬見た風景を描き出す。不安神経症の発症を薬でコントロールしながら、1か月という強行軍でドナウ川の取材旅行に出ている。体力が落ちれば神経もたかぶり、それが発症の引き金になる。そんな体で街を歩いていた作家は、レーゲンブルグで花売りの母子を見かける。鮮やかな花と幼い子の描写が、雨がそぼ降る石造りの街に華やぎと心の安らぎを与えている。

【ニュルンベルク】現地の人が案内するニュルンベルク観光スポット巡り - YouTube

  教会広場に警官の多さから、ネオナチスの集会にたむろする若者が今も存在し、テロの起こる街でもあると知る。歴史的な思想の葛藤がまだ残る街だった。ホテルで寝ているとすさまじい教会の鐘の音で起こされたとあり、鐘の音が石に反響して、慣れぬ旅や食事で疲れた体には神経に触ったに違いない。

 

 ヴァルハラ神殿

  作中人物が、内面を吐露する場所は、西ドイツのWalhallaである。おそらく場所が花絵れているので、弾丸ツアーであれば組み込まれていない場所である。取材旅行で立ち寄ったのであろうか、その場所が作者一番のお気に入りの場所となった。ドナウ川を眺めながら、いかなる心境になったのだろうかとお考えの方は、以下のYouTubeを音を消して見ていただきたい。3:30以降当たりの階段や、その前の回廊でたたずみ同行者にせかされる出立しなければならないのが残念で仕方なかった宮本様が目にしたであろう、ドナウ川の景色を見る事ができる。国家の体制が変わろうが、戦争が起ころうが、今も昔も川の流れは変わらない。

 

youtu.be

 個人的には、この柱の横で大学ノートに何か書きつけている宮本様の写真がツボでした。(『異国の窓から』、p37)

 

 バイエルンの村で喉が渇き井戸水をいただいた一家の主人の描写は、そのまま、作中でも使われている。

 

 パッサウではホテルがなく探すのに往生していると、目の前の看板さえ出してないレストランの主人が、ここだここだと手招きをしていた。パッサウにつくと、作家自身がしきりに家族に手紙が書きたくなった。小説中でも手紙が大事な種明かしになっている。教会の街を散策しながら、路地でゴミを見つけながら歩いていると、避妊具が落ちている。それが、いかに作中で化けたか、誰と誰の会話に転用されているかも非常に面白く読んだ。

 下記のYouTubeは車で街に入るのが作中人物と同じでなぜか嬉しい。0:45 橋からの眺め 3:35 鐘の音

 

www.youtube.com

 

 知らない街で食べ物にありつく際の当たりはずれもわかる。まずいイタリア料理の所で、思わず、わかる~とつぶやいてしまう。1か月と余裕のない日程のため、今回はおいしそうな食べ物の記述がない。残念。

 

『異国の窓から』ウィーン編は明日以降に続きます。。。

 

 

ーーーー『ドナウの旅人』 上巻は、まだ読みやすかったです。ーーー

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