速さとドライビングプレジャーだけを追求? ドライバーの技量が試された車3選
現在、販売されている高性能車には数多くの電子デバイスが搭載され、安全性が高く安定したスポーティな走りを実現しています。しかし、かつてはそうした電子デバイスに頼らないスポーツカーも存在。そこで、ドライバーの腕が試されたクルマを、3車種ピックアップして紹介します。
電子デバイスに頼らなかったスポーツカーを振り返る
最新のクルマには、衝突被害軽減ブレーキの搭載や車体姿勢の制御、駆動力制御にサスペンションなど、車体の各部にわたって電子制御化され、高い安全性と安定した走りを実現しています。
とくに、スポーツカーに代表される高性能車では、高度な電子デバイスを搭載することで、安全に速い走りが可能となりました。
そうした電子デバイスが普及し始めたのは1980年代からで、当初は4輪アンチロックブレーキから搭載車が拡大し、今ではエンジンと駆動系、サスペンションやブレーキまで、統合して制御するのが一般的です。
一方、電子デバイスが登場していたにも関わらず、あえて搭載しないことで、スポーツカーらしさを追求したクルマも存在。
そこで、1990年代に登場したピュアなスポーツカーを、3車種ピックアップして紹介します。
●ホンダ「シビック タイプR」
ホンダは1992年に、それまでのスポーツカーの概念を大きく変えた「NSX タイプR」を発売しました。すでに国内で最高峰に位置する走行性能を誇ったNSXをさらにチューンナップし、サーキット走行に対応したというもので、街なかでの快適性は無視されたほどストイックなモデルでした。
その後、1995年に同様のコンセプトの「インテグラ タイプR」が登場し、1997年には6代目「シビック」のマイナーチェンジの際に、「シビック タイプR」が発売されました。
3ドアハッチバックの「SiR」グレードをベースに、やはりサーキット走行に対応するチューンナップを実施。
エンジンはハイコンプピストンに、ハイリフトで広開角のカムシャフト、軽量吸気バルブ、軽量・高強度のコンロッドなどが組み込まれ、吸排気ポートの研磨と自然吸気エンジンの王道チューニングがおこなわれた結果、1.6リッター直列4気筒の「B16B型」は最高出力185馬力を発揮。
また、シャシまわりも大きく手が入れられ、パフォーマンスロッドの追加によるボディ剛性アップ、ローダウンに加えスプリングレートを上げたサスペンション、ヘリカルLSD、専用チューニングのブレーキ、タイプR専用の「ポテンザRE010」ハイグリップタイヤなどが装着され、運動性能が飛躍的に向上。もちろん、乗り心地は考慮されていません。
外観では専用のエアロパーツに加え、専用のボディカラー「チャンピオンシップホワイト」をイメージカラーとし(他の色も設定)、赤地のホンダエンブレムがタイプRの証です。
内装ではエアバッグを内蔵したMOMO社製直径368mmの小径ステアリング、ホールド性を高めるレカロ社製バケットシートと、シートに合わせてコーディネイトしたインテリア素材、ショートストロークのシフトノブはチタン削り出し品とされるなど、従来のタイプRの作法に則って仕立てられています。
ほかにも、エアコンとハイマウントストップランプはオプションとし、軽量フライホイールや小型バッテリーの搭載、リアワイパーなどを廃止することで、30kgもの軽量化が図られました。
なお、シビック タイプRには電子デバイスというとABSとエアバッグが採用されたくらいで、そのどちらもレスプションが可能でした。
●ポルシェ「911 カレラRS」
世界でもっとも有名なスポーツカーといえばポルシェ「911」です。初代は1964年に誕生して現行モデルは8代目にあたります。
歴代の911は一貫して、ファストバッククーペのボディに、水平対向6気筒エンジンを搭載しRRの駆動方式を基本とする伝統を守ってきました。
これまで911には定期的に特別なモデルが設定されてきましたが、とくに1989年にデビューした第3世代の「964型」では数多くの限定モデルが登場し、そのなかの1台が1992年に発売された「911 カレラRS」です。
911 カレラRSはワンメイクレース用の「カレラ カップカー」をベースに、公道走行用にモデファイしたモデルで、外観はフロントのフォグランプがダミーであったり、リアバンパーのセンター部分の形状が異なるくらいで、スタンダードなカレラ2から大きく変わっていません。
ただし、専用セッティングの強化スプリングとショックアブソーバーによって、車高を40mmローダウンしていたことから、低いスタンスなのは明らかでした。
エンジンは最高出力を10馬力向上させた260馬力を発揮する3.6リッター空冷水平対向6気筒SOHCを搭載。フライホイールは振動を吸収するダンパーが無い軽量なソリッドタイプで、トランスミッションは5速MTのみの設定でした。
また、アルミ製フロントフードとマグネシウム製ホイールの採用、アンダーコートやエアコン、オーディオ、パワーステアリング、パワーウインドウ、エアバッグなどが省かれ、2シーター化してリアシートを撤去、サイドとリアはガラスを薄くするなどによって、150kgもの軽量化を実現。
内装では標準でレカロ製フルバケットシートが装着され、ドアの内張りはボックスを廃止した簡素なパネルに変更し、ドアオープナーをナイロン製ストラップとするなど、まさにレーシングカーに近いイメージのロードカーに仕立てられていました。
電子デバイスはABSが搭載されたのみで、快適装備と呼べたのはヒーターくらいでしたが、エアコンなどを搭載した「ツーリング」も設定されました。
●ロータス「エリーゼ シリーズ1」
イギリスを代表するスポーツカーメーカーであるロータスがつくるクルマは、軽量で優れたハンドリングのスポーツカーという共通のコンセプトを守ってきました。
そして1996年には、新時代の2シーターミッドシップオープンスポーツカーの「エリーゼ(シリーズ1)」が誕生。
ボディは全長3726mm×全幅1720mm×全高1200mmと非常にコンパクトなサイズで、曲面を組み合わせたグラマラスなボディは、低いフロントノーズのミッドシップスポーツカーらしさあふれるデザインでした。
また、シャシは新開発されたアルミ製バスタブ型を採用。それまでのスチール製鋼板を組み合わせたバックボーンフレームから大きく進化を果たしました。
シャシは複数のアルミ製押出材をエポキシ樹脂で接着することで形成され、軽量化と高剛性化を両立。なお、初期のモデルではブレーキローターもアルミ製でした。
ボディパネルは伝統的なFRP製を採用し、エアコンやパワーステアリング、パワーウインドウ、エアバッグ、ABS、ブレーキサーボすらも搭載しておらず、車重はわずか690kgを実現しました。
リアミッドシップに搭載されたエンジンはローバー製の1.8リッター直列4気筒DOHCで、最高出力は118馬力とローパワーでしたが、超軽量なボディと4輪ダブルウイッシュボーン・サスペンションとの組み合わせで、優れた加速性能とコーナーリング性能を発揮しました。
その後、ローバー製からトヨタ製にエンジンが換装されパワーアップが図られ、外観もシリーズ2、シリーズ3とデザインを刷新し、安全技術や快適装備も充実しました。
エリーゼはすでに生産を終えていますが、なかでもシリーズ1は、ロータスがつくるライトウエイトスポーツカーの原点を体現したモデルでした。
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ロータスは2021年7月に、新型スポーツカーの「エミーラ」を発表しました。日本でも同年10月から受注が開始されています。
さらに、エミーラは同社で最後の内燃機関搭載車になるとアナウンスされました。
今後、ロータスは電動スポーツカーを開発することになりますが、ロータスがつくるEVがどんな走りを見せてくれるのか、今から大いに楽しみです。
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