北野武監督の映画「首」を観ました。
1579年、天下統一を目前にした織田信長(加瀬亮)は、羽柴秀吉(ビートたけし)、明智光秀(西島秀俊)といった家臣を集め、謀反を起こした家臣荒木村重(遠藤憲一)を捕らえた者に自らの跡目を継がせると宣言する。村重は敗戦のどさくさに紛れて逃げようとしていたところを、千利休(岸部一徳)配下の曽呂利新左衛門(木村祐一)に捕らえられる。利休は密かに村重を光秀に引き渡すが、光秀は恋仲であった村重を匿ってしまう。
話芸で人を楽しませる芸人を目指していた新左衛門は、芸人の職を求めて毛利軍と戦っていた秀吉の陣地へ向かうが、道中で侍大将を夢見る農民の難波茂助(中村獅童)を拾う。新左衛門が元忍者である事を知った秀吉は、新左衛門を使って情報を集め、村重が光秀に匿われている事、信長は跡目を息子の信忠(中島広稀)に継がせるつもりである事を知る。秀吉は情報を元に、弟の秀長(大森南朋)と軍師の黒田官兵衛(浅野忠信)と共に策を練り、信長に替わって天下人と成る事を目指す、といったあらすじです。
私は北野映画の大ファンで、全作一応観ている(一応というのは映画館で観たのは極僅かだからです)のですが、私の影響か妻もファンで、妻の希望で昨年映画館で観てきました(筆不精で記事公開に時間が掛かりました)。
本作は数年前に撮影が終わっていたものの、編集の段階で配給会社と揉めて、お蔵入りしそうだという情報があったので、無事観る事が出来て、まず安心しました。そして、その出来は、北野の代表作とまではいわなくとも、集大成というべき作品でした。
北野映画には大きく分けて、バイオレンスものとコメディものの2種類があると思うのですが、本作はどちらの要素も大きいのです。あえていえば、超お金を掛けた豪華なコント、といった趣向です。
冒頭から戦のむごたらしさが伝わるグロテスクなシーン満載で、相変わらずバイオレンス描写も凄まじく、さらには男同士の性愛シーンまで盛り込まれているのですが、お笑い芸人ビートたけしとしての即興性の高い笑いが基本にあるのです。
秀吉が登場すると、笑いの裏に毒がありそうな雰囲気もあるのですが、純粋にコメディなパートを担当(?)する徳川家康を、北野映画初参加の小林薫が演じているのが最高です。全くコントには縁の無さそうな名優小林がコメディをやる、というギャップが堪りません。また、同じく去年NHKで放送していた大河ドラマ「どうする家康」にも出演していた柴田理恵が、役柄は全然違いますが、同じく家康に絡む役で登場したのにも笑いました。
また、同じNHKで放送している「チコちゃんに叱られる!」ファンには、木村と大竹まことの絡みも楽しい(コメディ・パートではありませんが)でしょう。
日本人にしか解らなそうな笑い満載で、キタノブルーと呼ばれた、これまでの作品とは違って、湿度の無いカラッとしたビビッドな映像に仕上がっている本作が、海外で受けるのだろうかと心配にはなりました。しかし、引退の心配すらした前監督作「アウトレイジ 最終章」と違って、意欲に満ちた本作を観て、まだまだ北野は映画を作ってくれそうだと安心しました。