昭和にデビュー、「令和」でも最前線! 高橋留美子作品が全世代に愛される理由
「変わり者」を日常に溶け込ませる軽やかさ
アングレーム国際漫画祭の主催者コメントには、もうひとつ「出る杭は打たれる日本社会にありながら、はみ出し者や変人をマンガに登場させ、彼らにもチャンスがあることを表現してきた」という印象的な賛辞があります。
高橋留美子作品のなかでは、今日のように社会のダイバーシティ(多様性)がうたわれるずっと前から、いわゆる「社会の常識」に収まらない人びとが物語の中で重要な役割を担ってきました。
例えば、父親に男として育てられ、学ラン姿で「オレは女だ!」と叫ぶ『うる星やつら』の藤波竜之介や、水をかぶると男性から女性になってしまう『らんま1/2』の早乙女乱馬などは、性自認やジェンダーの問題に鋭く切り込んだキャラクターだといえるでしょう。
「はみだし者」「変人」のキャラクターは他にも数えきれないほど登場しますが、高橋さんが彼ら、彼女らを描く筆さばきは常に軽妙で、説教じみたり、読者を嫌な気持ちにさせたりすることがありません。「普通じゃない」存在が、するりと日常に入りこんでくる、その風景が高橋作品の醍醐味です。
かつて高橋さんは、インタビューで「週刊少年サンデー」で描き続けることについて次のように述べています。
「自分が女なのに『少年サンデー』を読んでワクワクした思い、みたいなのがあって。それはずっと忘れていないんです。だからもしもね、女の子で、『サンデー』買うのははずかしいけど、私のマンガを読みたいなと思ってくれるのであれば、それはすっごく嬉しいことなんですよ」(「QuickJapan vol.71」太田出版)
高橋さんが『うる星やつら』で連載をスタートしてから41年を経て、女性が「少年サンデー』や「少年ジャンプ』のような少年誌を手に取ることは普通のことになっています。それどころか、男性以上に女性ファンの支持を集める作品も少なくありません。
少年誌でヒットマンガを描き続けることで、「こうあるべき」というような社会の息苦しさを軽やかに乗り越えてきた高橋留美子さんの作品の魅力は、私たちを勇気づけてくれる、エンターテイメントが持つパワーそのものだと言えるのではないでしょうか。
(平岩真輔)