やっと巡って来た牧野と会える週末。
珍しく牧野から待ち合わせの時間と場所を指定された。
呼び出されたのはとあるカフェ。
先に来ていた牧野は店の一番端っこの、窓側の席に座ってた。
ざわざわして、落ち着かない店の雰囲気。
牧野から発せられる妙な気配に、俺の心もざわざわする。
「もう西門さんの事好きじゃない。
愛してないの。
別れて下さい。」
なんだ、その安っぽいドラマみたいな台詞は?
全然俺の方見ないし。
言わされてる感満載。
何があったんだよ?
そうは思っても、好きな女にこんな事言われたら、胸にはずきんと痛みが走るし、心臓もギュッと縮み上がる訳で。
必死に冷静を装って、目の前のコーヒーカップに手を伸ばす。
「ふーん。
つくしちゃんは、俺と別れたいと。」
「そう。」
俺の前には牧野の横顔。
車と人が行き交う道路しかない景色の何を見ているのかは定かじゃないけど、ずっと視線は外に向けられてる牧野をじっと見詰める。
「理由は?」
「さっき言った通り。
もう好きじゃないの。」
嘘だ。絶対に嘘だ。
俺がそう信じたいだけか?
いや、そんな筈はないだろ!
「へえ・・・ いやに急な心変わりじゃん。」
「急じゃない。ずっと考えてた。」
それこそ嘘だろ。
お前、この前まで俺の腕の中で笑ってた。
あの時の笑顔は本物だった。
それくらいはこんな事態を招いてしまった俺にだって分かってる。
牧野は頑なに俺を見ない。
そんなに外ばっか見てたら、首痛くなるんじゃねえの?と思う程に、顔を外側に向けている。
怒ってるような、泣かない為に気合を入れているような、硬い表情で。
こんな横顔でも綺麗だな・・・と思ってしまう程に俺はこの女に惚れてる。
「で? 誰に何を言われた?」
「っ・・・!」
一瞬だけ、チラっと俺を盗み見て、また顔を背けた。
どうやら図星らしい。
「お前ね、演技下手過ぎだから。
俺にそんなの見抜けないとでも思ってんのか?」
「・・・・・・・演技じゃない。」
「じゃあ、本気だってのか?
本気で俺のこと嫌いになったのなら、俺の目を見て言ってみろよ。」
出来ないだろ?
目を合わせたら、お前の本当の気持ちが伝わってしまうから。
お前は俺と目を合わせて上手に嘘なんかつける女じゃない。
口を真一文字に引き締めて、大きな目を見開いて。
やっと俺と向かい合った。
でも牧野は口を開かない。
いや、きっと開けない。
俺は怒ってないんだと知らせる為に、表情を和らげて、そっと笑い掛けて見せる。
「なあ、俺ってそんな頼り無いのか?
誰に何を言われたのかは知らないけど。
独りで解決しようとしないで、俺と2人で道を模索しようって、そうは思えないのか?」
そう言ったら、見開いた目から、ぽろりぽろりと涙が零れ落ち始める。
「あー、もー、だからやだったのに・・・」
また顔を背けて、手の甲でぐいぐい顔を拭ってる。
どんだけ化粧が剥げるのか見物だ・・・と思って笑いたくなる自分と。
ほら、やっぱり嘘だったろ・・・とホッとする自分がいた。
牧野は今度は盛大に鼻をすすってる。
だからポケットからハンカチを取り出して、手元にぐいっと押し付けた。
いつかお前が俺にプレゼントしてくれたハンカチ。
ちゃんと大切に使ってる。
これ見たら、お前だってそれに気付くだろ?
「ごめ・・・」
俯きながらそのハンカチを目元や鼻に押し当てて、水分を吸わせてる。
牧野が落ち着くまで、俺はそれを見守ってた。
ウェイトレスを呼んで、冷めきってしまった飲み物の代わりに、温かなミルクティーとコーヒーをもう一杯ずつオーダーする。
それを飲ませると、やっと牧野が話し出した。
「西門さんが今度お見合いするっていう・・・
旧華族の本郷なんちゃらとかいう人の・・・」
あー、そっちか!
西門の方はもう説得済みなのに。
そんな外野から横槍が入るとは。
「見合いはしない!
あっちから勝手に言って来たことで、とっくに断り入れてる!」
「だってあたしはそんなの知らないし!」
「いちいちお前に、どこからの見合いを断った・・・なんて話さないだろ?
お前だって聞きたくないだろうが!」
「聞きたくないけど、知らないと対処のしようもないでしょ!
兎に角、その本郷なんちゃらさんのお家の人ってのがあたしの所に来たのよ。
で、色々捲し立てて帰って行ったの!」
「その時点で俺に言えよ!」
「だって、もう結婚が決まってるような話だったし!」
「だったら余計に俺に話せよ!
俺の事と、その見ず知らずの人間と、どっちを信じるんだよ?
そんなの考えなくたって、分かる事だろ?」
「分かんなくなっちゃったから、こんな事になってるんじゃない・・・」
勢いが途端にダウンし、また泣きそうな風情の牧野。
俺ははあ・・・と溜息を吐く。
「悪かったよ。」
「・・・・・・」
「お前を守り切れなくて悪かった。」
「・・・・・・」
本郷家は政界・財界にも繋がりの多い旧家だ。
あちらから持ち込まれた話を、早々に断ったのも良くなかったのかも知れないし。
俺の事もしっかり身辺調査をして、牧野という存在があると知った上での申し入れは、勝算があっての事だった筈で。
あちらの親の看板なのか、お嬢様のプライドなのかは分からないが、何かに傷が付いたのだろう。
牧野は牧野で、コンプレックスの塊だ。
一般庶民では駄目なのだと、散々道明寺楓にトラウマを植え付けられ、司と別れさせられた過去がある。
そのせいで、西門のように歴史と伝統を重んじる家に嫁ぐ・・・だなんて、道明寺に嫁入りするより無理・・・と思い込んでる。
それを時間掛けて口説いてるところだったのに!
本郷の誰だか知らないが、今すぐ殴り飛ばしてやりたい気分だ。
色々思うところはあるけれど・・・
今日のところは傷付いた牧野のケアをする方が優先だな。
「つーくしちゃん。」
「つくしちゃん言うな。」
こんな時でもそう突っかかって来る牧野にくすりと笑ってしまう。
「ちゃんと話したいから。
ここじゃないところ、行かねえ?
俺達大分好奇の目に晒されてるし。」
「ふえ?」
外を見たり、泣いてばかりいた牧野は気付かなかったらしいが、店の端っことはいえ、女が泣いたり、口喧嘩したりしてるこのテーブルは、ちょーっと注目されている。
騒がしくしてすいませんね・・・の意を込めて、様子を窺ってる2~3人のウェイトレスのお姉ちゃんにちらっと微笑みかけたら、キャーと小さな叫び声が上がった。
オタオタしている牧野を引っ張って店を出て、車に押し込む。
そのままいつも2人で時間を過ごすホテルの部屋に連れ込んだ。
部屋に入ってすることと言えば、話よりも先にキス。
キスの次は、ベッドの上での愛の確かめ合い・・・となるのが自然の摂理で。
夜中に我に返った牧野から、雷が落とされるまで、熱くて幸せな時間を過ごしたんだ。
________________
バレンタインSSなのに、あんまり甘くないなー(苦笑)
最後には甘々な2人になれるように頑張ります!
泣いちゃったつくしにエールを送ってやって下さいね。
続きは明日15日0時に更新予定です。
大きな地震がありましたね。
東北の方は余震も続いているみたいで、不安な夜を過ごされていらっしゃるかと思います。
冬なので停電で暖が取れなくなってしまうのも心配ですね。
これ以上被害が大きくならず、落ち着く事を願っています。
ぽちっと押して頂けたら嬉しいです!
珍しく牧野から待ち合わせの時間と場所を指定された。
呼び出されたのはとあるカフェ。
先に来ていた牧野は店の一番端っこの、窓側の席に座ってた。
ざわざわして、落ち着かない店の雰囲気。
牧野から発せられる妙な気配に、俺の心もざわざわする。
「もう西門さんの事好きじゃない。
愛してないの。
別れて下さい。」
なんだ、その安っぽいドラマみたいな台詞は?
全然俺の方見ないし。
言わされてる感満載。
何があったんだよ?
そうは思っても、好きな女にこんな事言われたら、胸にはずきんと痛みが走るし、心臓もギュッと縮み上がる訳で。
必死に冷静を装って、目の前のコーヒーカップに手を伸ばす。
「ふーん。
つくしちゃんは、俺と別れたいと。」
「そう。」
俺の前には牧野の横顔。
車と人が行き交う道路しかない景色の何を見ているのかは定かじゃないけど、ずっと視線は外に向けられてる牧野をじっと見詰める。
「理由は?」
「さっき言った通り。
もう好きじゃないの。」
嘘だ。絶対に嘘だ。
俺がそう信じたいだけか?
いや、そんな筈はないだろ!
「へえ・・・ いやに急な心変わりじゃん。」
「急じゃない。ずっと考えてた。」
それこそ嘘だろ。
お前、この前まで俺の腕の中で笑ってた。
あの時の笑顔は本物だった。
それくらいはこんな事態を招いてしまった俺にだって分かってる。
牧野は頑なに俺を見ない。
そんなに外ばっか見てたら、首痛くなるんじゃねえの?と思う程に、顔を外側に向けている。
怒ってるような、泣かない為に気合を入れているような、硬い表情で。
こんな横顔でも綺麗だな・・・と思ってしまう程に俺はこの女に惚れてる。
「で? 誰に何を言われた?」
「っ・・・!」
一瞬だけ、チラっと俺を盗み見て、また顔を背けた。
どうやら図星らしい。
「お前ね、演技下手過ぎだから。
俺にそんなの見抜けないとでも思ってんのか?」
「・・・・・・・演技じゃない。」
「じゃあ、本気だってのか?
本気で俺のこと嫌いになったのなら、俺の目を見て言ってみろよ。」
出来ないだろ?
目を合わせたら、お前の本当の気持ちが伝わってしまうから。
お前は俺と目を合わせて上手に嘘なんかつける女じゃない。
口を真一文字に引き締めて、大きな目を見開いて。
やっと俺と向かい合った。
でも牧野は口を開かない。
いや、きっと開けない。
俺は怒ってないんだと知らせる為に、表情を和らげて、そっと笑い掛けて見せる。
「なあ、俺ってそんな頼り無いのか?
誰に何を言われたのかは知らないけど。
独りで解決しようとしないで、俺と2人で道を模索しようって、そうは思えないのか?」
そう言ったら、見開いた目から、ぽろりぽろりと涙が零れ落ち始める。
「あー、もー、だからやだったのに・・・」
また顔を背けて、手の甲でぐいぐい顔を拭ってる。
どんだけ化粧が剥げるのか見物だ・・・と思って笑いたくなる自分と。
ほら、やっぱり嘘だったろ・・・とホッとする自分がいた。
牧野は今度は盛大に鼻をすすってる。
だからポケットからハンカチを取り出して、手元にぐいっと押し付けた。
いつかお前が俺にプレゼントしてくれたハンカチ。
ちゃんと大切に使ってる。
これ見たら、お前だってそれに気付くだろ?
「ごめ・・・」
俯きながらそのハンカチを目元や鼻に押し当てて、水分を吸わせてる。
牧野が落ち着くまで、俺はそれを見守ってた。
ウェイトレスを呼んで、冷めきってしまった飲み物の代わりに、温かなミルクティーとコーヒーをもう一杯ずつオーダーする。
それを飲ませると、やっと牧野が話し出した。
「西門さんが今度お見合いするっていう・・・
旧華族の本郷なんちゃらとかいう人の・・・」
あー、そっちか!
西門の方はもう説得済みなのに。
そんな外野から横槍が入るとは。
「見合いはしない!
あっちから勝手に言って来たことで、とっくに断り入れてる!」
「だってあたしはそんなの知らないし!」
「いちいちお前に、どこからの見合いを断った・・・なんて話さないだろ?
お前だって聞きたくないだろうが!」
「聞きたくないけど、知らないと対処のしようもないでしょ!
兎に角、その本郷なんちゃらさんのお家の人ってのがあたしの所に来たのよ。
で、色々捲し立てて帰って行ったの!」
「その時点で俺に言えよ!」
「だって、もう結婚が決まってるような話だったし!」
「だったら余計に俺に話せよ!
俺の事と、その見ず知らずの人間と、どっちを信じるんだよ?
そんなの考えなくたって、分かる事だろ?」
「分かんなくなっちゃったから、こんな事になってるんじゃない・・・」
勢いが途端にダウンし、また泣きそうな風情の牧野。
俺ははあ・・・と溜息を吐く。
「悪かったよ。」
「・・・・・・」
「お前を守り切れなくて悪かった。」
「・・・・・・」
本郷家は政界・財界にも繋がりの多い旧家だ。
あちらから持ち込まれた話を、早々に断ったのも良くなかったのかも知れないし。
俺の事もしっかり身辺調査をして、牧野という存在があると知った上での申し入れは、勝算があっての事だった筈で。
あちらの親の看板なのか、お嬢様のプライドなのかは分からないが、何かに傷が付いたのだろう。
牧野は牧野で、コンプレックスの塊だ。
一般庶民では駄目なのだと、散々道明寺楓にトラウマを植え付けられ、司と別れさせられた過去がある。
そのせいで、西門のように歴史と伝統を重んじる家に嫁ぐ・・・だなんて、道明寺に嫁入りするより無理・・・と思い込んでる。
それを時間掛けて口説いてるところだったのに!
本郷の誰だか知らないが、今すぐ殴り飛ばしてやりたい気分だ。
色々思うところはあるけれど・・・
今日のところは傷付いた牧野のケアをする方が優先だな。
「つーくしちゃん。」
「つくしちゃん言うな。」
こんな時でもそう突っかかって来る牧野にくすりと笑ってしまう。
「ちゃんと話したいから。
ここじゃないところ、行かねえ?
俺達大分好奇の目に晒されてるし。」
「ふえ?」
外を見たり、泣いてばかりいた牧野は気付かなかったらしいが、店の端っことはいえ、女が泣いたり、口喧嘩したりしてるこのテーブルは、ちょーっと注目されている。
騒がしくしてすいませんね・・・の意を込めて、様子を窺ってる2~3人のウェイトレスのお姉ちゃんにちらっと微笑みかけたら、キャーと小さな叫び声が上がった。
オタオタしている牧野を引っ張って店を出て、車に押し込む。
そのままいつも2人で時間を過ごすホテルの部屋に連れ込んだ。
部屋に入ってすることと言えば、話よりも先にキス。
キスの次は、ベッドの上での愛の確かめ合い・・・となるのが自然の摂理で。
夜中に我に返った牧野から、雷が落とされるまで、熱くて幸せな時間を過ごしたんだ。
________________
バレンタインSSなのに、あんまり甘くないなー(苦笑)
最後には甘々な2人になれるように頑張ります!
泣いちゃったつくしにエールを送ってやって下さいね。
続きは明日15日0時に更新予定です。
大きな地震がありましたね。
東北の方は余震も続いているみたいで、不安な夜を過ごされていらっしゃるかと思います。
冬なので停電で暖が取れなくなってしまうのも心配ですね。
これ以上被害が大きくならず、落ち着く事を願っています。
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