指先の魔法 -side あきら-
艶々として張りのある真っ直ぐな髪の毛。
日頃触れる事の多い双子達の細くてふわふわとした猫っ毛とは全く違う手触りだ。
丸みを帯びた後頭部をそうっと撫で下ろす。
何度も何度も同じリズムで。
するすると滑っていく指先で、最後に少しだけ髪を梳いて、また上から下へと撫でていると、牧野からはあっさりとすうすうという寝息が聞こえて来た。
よっぽど根を詰めて勉強して疲れてたんだろう。
絵夢や芽夢を寝かし付ける時、繰り返し同じリズムで頭を撫でていると、すうっと入眠するから、牧野の昼寝にも応用してみたら効果覿面だった。
寝入っているんだから、もう寝かし付けは必要ないんだけれど、このさらさらな髪を撫でるのを止めたくないな・・・なんて思ってしまう。
何故だかこうして髪に触れているだけで、牧野に対する愛しさがどんどん上積みされていくみたいだ。
折角眠った牧野の束の間の休息を邪魔してしまうのは本意ではないから、俺は手を引き、そっと席を立った。
ライブラリーの中央に据えられているソファに移動して、そこから窓辺で昼寝している牧野を見遣る。
いつも弾けるようなパワーが全身から滲み出ている牧野だけれど、今はガラス窓越しの柔らかな陽射しと部屋の暖かな空気に守られて、『天使のうたた寝』といった風情だ。
こういうギャップが、妙に胸を締め付けてくるんだよなぁ。
毎日頑張り過ぎる程頑張っている牧野が、ふと力を抜くところを見つけると、余計に目が離せなくなる。
俺のこの手で、ありとあらゆる災厄から守ってあげたいと思うし、それが出来ない立場に歯噛みしたくなる。
なのに、そんな場面をもっと、何度も見ていたいとも願ってしまう。
はぁ・・・、今までこんな気持ちになった事ないんだよ、俺。
絶世の美女でもない。
誰もが羨むようなスタイルの持ち主でもない。
でもそんな事関係ない。
牧野の他に代わりはないと思うばかりだ。
総二郎なんか、『シスコンあきらがまたお兄ちゃま業してんだろ。』とか言ってるけど。
これは絵夢や芽夢を大切に思う気持ちとは、全く別の感情だ。
妹的な存在に『もっと触れたい』とか、『もっと見詰めていたい』なんて、そんな欲望抱かないだろ。
この暖かくて、柔らかな空気に満ちている時間が幸せで。
いつまでも2人でこの空間に閉じこもっていられたらいいのに・・・なんて事を考えていたら、ライブラリーのドアが開く音がした。
入ってこようとしている類に向かって、唇に人差し指を当てて『静かに』のハンドサインを送る。
視線を俺から奥のテーブルでクッションを枕代わりにして眠っている牧野へと移し、類は無表情のままでこちらに向かって歩いてきた。
俺の背後に立って、小声で聞いてくる。
「牧野、寝てるの?」
「昨日の夜、遅くまでレポート書いてたみたいで、疲れ気味なんだよ。
俺が類が来るまで休むように言ったんだ。
フランス語は昼寝から起きてからでいいだろ?」
「それはいいけど・・・。」
そうは言いつつも、類の口振りはどこか不満気だ。
部屋の中は寒くはないけれど、寝入り端は体温が下がるという事を思い出して、俺はソファから立ち上がって、チェストからブランケットを取り出し、牧野の背中からふわりと包んだ。
ソファまで戻ってくると、俺が座っていた所には類が全身を伸ばして寝転がり、これまた昼寝モードだ。
「類も寝るのか?」
「牧野寝てるんだから、する事ないし。
それに、何か気に入らない。
あきらのその優越感に浸ってるような笑い顔。」
「何だよ、ふて寝かよ。」
ふっと苦笑を漏らしてしまった。
俺は、牧野のさらさらとした髪を撫で、それで牧野が眠り込んだのがとても嬉しかったらしい。
俺の指先を嫌がらずに受け入れて、警戒心を解いてくれた事が、類にもばれる程の上機嫌の笑みを浮かべさせていた理由みたいだ。
類なんかいつも牧野の隣を独占して、気軽に触れたり、甘えたりしているのに。
俺がほんの少々牧野に心許されたのを敏感に察知して臍を曲げている。
類の牧野に関するセンサーの感度は尋常じゃないと、改めて思う。
だけど本当は・・・、体温が通わない髪の毛に触れるだけじゃなく、牧野の温もりを感じてみたいよ。
指先で髪を梳くだけじゃなく、あのほんのりと色付いている柔らかそうな頬を指先でそっと撫でたら、どんな気持ちになるんだろうか・・・とか。
乱れた髪を耳に掛けてやって、それから目と目を合わせて見詰めあったら、早鐘のように打つ心臓に自分は大いに戸惑うんだろうか・・・とか。
類がいつも易々と牧野にしている事を、自分もしてみたいと、いつの間にか夢見ている俺。
そんな事口に出してしまったら、この敏感なセンサーを搭載した類にどんな仕打ちをされる事やら。
だから、言葉や思いは飲み込んでおく、今のところは。
とりあえず今は、牧野が眠りから醒めた時の為の紅茶の準備を。
俺が淹れた紅茶を『美味し・・・。』と呟きながら飲んでくれる所から始めるんだ。
_________
まだちょっと肌寒い季節に書いていたのに、気付けば夏日だしー。
遅くなりましたが、あきらver.をお届けします。
いいな。
アタシもあきらきゅんに撫で撫でされて癒されたい。
そんな欲望を詰め込んだお話でした笑
GWですね。
前半はぎゅうぎゅうに用事が詰まっていて。
昨日、今日、明日と平日ですから通常営業。
後半は3日は来客、4日はBBQ、5日は用事。
6日だけ何の予定もないだらーっと出来る日になりそうな気配です。
遠出してらっしゃる方もいるかなー?
ステキな場所ご覧になってきたら「こんなとこ行ったよー。」って教えて下さい!
お出掛けした気分をお裾分けしてもらいたーい。
ぽちっと押して頂けたら嬉しいです!
日頃触れる事の多い双子達の細くてふわふわとした猫っ毛とは全く違う手触りだ。
丸みを帯びた後頭部をそうっと撫で下ろす。
何度も何度も同じリズムで。
するすると滑っていく指先で、最後に少しだけ髪を梳いて、また上から下へと撫でていると、牧野からはあっさりとすうすうという寝息が聞こえて来た。
よっぽど根を詰めて勉強して疲れてたんだろう。
絵夢や芽夢を寝かし付ける時、繰り返し同じリズムで頭を撫でていると、すうっと入眠するから、牧野の昼寝にも応用してみたら効果覿面だった。
寝入っているんだから、もう寝かし付けは必要ないんだけれど、このさらさらな髪を撫でるのを止めたくないな・・・なんて思ってしまう。
何故だかこうして髪に触れているだけで、牧野に対する愛しさがどんどん上積みされていくみたいだ。
折角眠った牧野の束の間の休息を邪魔してしまうのは本意ではないから、俺は手を引き、そっと席を立った。
ライブラリーの中央に据えられているソファに移動して、そこから窓辺で昼寝している牧野を見遣る。
いつも弾けるようなパワーが全身から滲み出ている牧野だけれど、今はガラス窓越しの柔らかな陽射しと部屋の暖かな空気に守られて、『天使のうたた寝』といった風情だ。
こういうギャップが、妙に胸を締め付けてくるんだよなぁ。
毎日頑張り過ぎる程頑張っている牧野が、ふと力を抜くところを見つけると、余計に目が離せなくなる。
俺のこの手で、ありとあらゆる災厄から守ってあげたいと思うし、それが出来ない立場に歯噛みしたくなる。
なのに、そんな場面をもっと、何度も見ていたいとも願ってしまう。
はぁ・・・、今までこんな気持ちになった事ないんだよ、俺。
絶世の美女でもない。
誰もが羨むようなスタイルの持ち主でもない。
でもそんな事関係ない。
牧野の他に代わりはないと思うばかりだ。
総二郎なんか、『シスコンあきらがまたお兄ちゃま業してんだろ。』とか言ってるけど。
これは絵夢や芽夢を大切に思う気持ちとは、全く別の感情だ。
妹的な存在に『もっと触れたい』とか、『もっと見詰めていたい』なんて、そんな欲望抱かないだろ。
この暖かくて、柔らかな空気に満ちている時間が幸せで。
いつまでも2人でこの空間に閉じこもっていられたらいいのに・・・なんて事を考えていたら、ライブラリーのドアが開く音がした。
入ってこようとしている類に向かって、唇に人差し指を当てて『静かに』のハンドサインを送る。
視線を俺から奥のテーブルでクッションを枕代わりにして眠っている牧野へと移し、類は無表情のままでこちらに向かって歩いてきた。
俺の背後に立って、小声で聞いてくる。
「牧野、寝てるの?」
「昨日の夜、遅くまでレポート書いてたみたいで、疲れ気味なんだよ。
俺が類が来るまで休むように言ったんだ。
フランス語は昼寝から起きてからでいいだろ?」
「それはいいけど・・・。」
そうは言いつつも、類の口振りはどこか不満気だ。
部屋の中は寒くはないけれど、寝入り端は体温が下がるという事を思い出して、俺はソファから立ち上がって、チェストからブランケットを取り出し、牧野の背中からふわりと包んだ。
ソファまで戻ってくると、俺が座っていた所には類が全身を伸ばして寝転がり、これまた昼寝モードだ。
「類も寝るのか?」
「牧野寝てるんだから、する事ないし。
それに、何か気に入らない。
あきらのその優越感に浸ってるような笑い顔。」
「何だよ、ふて寝かよ。」
ふっと苦笑を漏らしてしまった。
俺は、牧野のさらさらとした髪を撫で、それで牧野が眠り込んだのがとても嬉しかったらしい。
俺の指先を嫌がらずに受け入れて、警戒心を解いてくれた事が、類にもばれる程の上機嫌の笑みを浮かべさせていた理由みたいだ。
類なんかいつも牧野の隣を独占して、気軽に触れたり、甘えたりしているのに。
俺がほんの少々牧野に心許されたのを敏感に察知して臍を曲げている。
類の牧野に関するセンサーの感度は尋常じゃないと、改めて思う。
だけど本当は・・・、体温が通わない髪の毛に触れるだけじゃなく、牧野の温もりを感じてみたいよ。
指先で髪を梳くだけじゃなく、あのほんのりと色付いている柔らかそうな頬を指先でそっと撫でたら、どんな気持ちになるんだろうか・・・とか。
乱れた髪を耳に掛けてやって、それから目と目を合わせて見詰めあったら、早鐘のように打つ心臓に自分は大いに戸惑うんだろうか・・・とか。
類がいつも易々と牧野にしている事を、自分もしてみたいと、いつの間にか夢見ている俺。
そんな事口に出してしまったら、この敏感なセンサーを搭載した類にどんな仕打ちをされる事やら。
だから、言葉や思いは飲み込んでおく、今のところは。
とりあえず今は、牧野が眠りから醒めた時の為の紅茶の準備を。
俺が淹れた紅茶を『美味し・・・。』と呟きながら飲んでくれる所から始めるんだ。
_________
まだちょっと肌寒い季節に書いていたのに、気付けば夏日だしー。
遅くなりましたが、あきらver.をお届けします。
いいな。
アタシもあきらきゅんに撫で撫でされて癒されたい。
そんな欲望を詰め込んだお話でした笑
GWですね。
前半はぎゅうぎゅうに用事が詰まっていて。
昨日、今日、明日と平日ですから通常営業。
後半は3日は来客、4日はBBQ、5日は用事。
6日だけ何の予定もないだらーっと出来る日になりそうな気配です。
遠出してらっしゃる方もいるかなー?
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