氷の礫と熱い涙 3
「類! 静が帰って来るってホントか?」
美作さんがラウンジに入って来るなり、あたしの隣にぺたぁっと寄り添ってる類に言葉を投げ掛けた。
気怠げに美作さんの方に視線だけを向けて、ボソボソと話す、その態度はどーなのよ?
類ってば、最近人とのコミュニケーション能力が更にダウンしてる感じ。
そのせいか、西門さんには八つ当たりされるし。
美作さんには変にやらしい顔でニヤニヤ見られるし。
まるで私のせいみたいじゃないの!
「うん、そうみたいだね。
それにしてもなんであきらが口火を切っちゃうのかなぁ。
俺、その事牧野に話すのは2人きりの時にゆっくりって思ってたのに…」
「ふーん、そりゃお邪魔様。
で、いつ帰って来るんだって?」
「来週位じゃないの? よく知らない…」
不機嫌な顔をしたワガママ王子は、面倒臭さを身体いっぱいで表す為か、長ーいソファにごろりと寝転んだ。
当然のように私の太腿に頭なんか載っけちゃってる。
もー、美作さんの前でこういうのやめて欲しい!
でも無下に頭を落っことせない…
あたしも大概弱いよね。
「パーティーあるんだろ?
まあそのうちに俺達にも声掛かるんだろうけど。
静、勘当解かれたのか?」
「あそこの親父さんが、静を手放せる訳ないでしょ。
親父さんの方が折れて、好きな事しててもいいから、偶には帰って来て欲しいって、静に泣きついたらしいよ。
で、自社のCMにでも静を使って、イメージ回復ってとこじゃない?」
「ふうん。それにしても久しぶりだなー、静に会うの。
いつから会ってなかったんだっけ…」
美作さんは独りごちながら、一人掛けのソファの方に座ってる。
そうなんだ。静さん、帰って来るんだ…
あたしの憧れの人。
そして… 類の好きだった人。
あんな素敵な女性、あたしは他に知らない。
完璧な美貌とスタイル。
知性に溢れ、深く優しい心の持ち主。
大金持ちのお嬢様なのに、そんな立場を捨てて、自分の夢の為にフランスへと移り住んで、勉強に励んでる。
静さんになれる訳はないけれど、ほんの少しでも近付きたいと思って、あたしは大学での勉強に懸命に取り組んでるところがある。
って、勉強以外はどう頑張っても真似出来ないもんね。
類が静さんに対する気持ちは、恋や愛じゃなくて憧れだったと言ってたけれど、小さな頃から一緒に沢山の時間を過ごして、静さんだけを見つめていたら、誰だって静さんを好きになると思う。
静さんはあたしと類が今付き合ってるって知ってるんだろうか?
あたしみたいな雑草… 類の隣にいるの、間違ってるんだろうか?
「牧野。」
いつの間にか類はあたしの膝から身体を起こして、隣に座り直してた。
また耳元に唇を寄せてくる。
そうやって喋られると、くすぐったくて、首がきゅっと縮んじゃうんですけど!
「な、何?」
「何も心配しないで。
俺には牧野だけだから。」
「へ?」
「俺は牧野しか好きにならない。
何があってもね。」
類の甘い囁きは、背筋をぞくぞくさせて、あたしはそれをやり過ごす為にぎゅっと目を瞑る。
「くすっ。真っ赤で可愛いね、ぷくぷくほっぺ。
林檎みたいだよ、牧野。」
今度はくすくす笑いがあたしの耳を刺激する。
類の指先はつんつんとあたしの頬っぺたをつついてる。
慣れない!
この距離感、全く慣れることが出来ない!
それに、不意に聞かされる愛の言葉も!
「ちょっと、類! あたしで遊ばないでよ!」
「遊んでないよ。スキンシップでしょ、恋人同士の。」
美作さんが、半ば呆れ気味にこっちを見てるのに気付いて、もっと顔が熱くなった。
「お前ら、よくやるなぁ。
しっかし、牧野がこんな類の言いなりになるとは思わなかったよ。
司と一緒にいた時は、しょっちゅう恥ずかしがって逃げ惑ってたのに。
牧野も恋する乙女になったって事なのかなぁ。
オニーサンとしては、感慨深いような、寂しいような…」
「あきら… 変な目で牧野を見ないで。」
「何だよ、変な目って。
お前らが俺の前でイチャついてるから目につくんだろ。
見られるの嫌なら、他所でやれ、他所で。」
「ん、そうする。行くよ、牧野。」
「え? どこ行くの、類?
あたし、この後バイトが…」
「ちゃんと時間迄には送って行くから。」
手を繋がれて、ラウンジから引っ張り出された。
何故だか類はご機嫌で「今日のミッション、完了。」なんて呟いてる。
何よ、ミッションって?
類があたしを連れて来たのは、キャンパス内にあるギャラリーだった。
美術学部の優秀作品が展示してあるみたいだけど、人気は無くてしーんと静かだ。
中にあるベンチに並んで腰掛けた。
「ここ、いつ来てもガラガラなんだ。
時々息抜きに来る。」
「しょっちゅう息抜きしてるように見えるけど?」
「ふふふ、まあね。
ちゃんと必要な勉強はしてるから心配要らない。
それより、牧野。静の事なんだけど…」
そう言われてどきりとした。
「うん、静さん、帰って来るんだね。」
「そう。フランスの大学の冬休みに合わせて少しだけね。
親孝行の為だよ。
今、静の親父さんの所と花沢で進めている合同プロジェクトがあって。
その広告塔に静を担ぎあげたいんだよ、親父さんは。
静がまた表舞台に出て来れば、インパクトも大きいし、話題にもなる。
開発途上国の子供への支援に一部の収益を回すからって口説き落とされたんだってさ。
とか言って、俺は静の親父さんは、ただ単に勘当を撤回するんじゃカッコつかないから、言い訳が欲しかったんだと思うんだけど。」
「へぇー、静さんは優しいから、そんなお父さんの気持ちも分かった上で帰って来るんだね。」
「まあ、そうなんだけど。
それで… 俺は気が進まないんだけど…
親父から命令が下っちゃったんだ。
静の帰国祝いパーティーがある。
その席で、合同プロジェクトの広告塔に静が起用されるのも発表される。
そのパーティーの日、静のエスコート役を俺が務めて、藤堂と花沢の二枚看板だと世間にアピールする為の客寄せパンダになれというのが、親父からの命令。」
類が静さんのパートナー。
たった一夜の事だとしても、それがメディアを通して世間に流れたら…
あたしと類はどうなるの?
__________
なかなかラブコメにならん…
やっぱりコメディ向いてないっす!
ぽちっと押して頂けたら嬉しいです!
美作さんがラウンジに入って来るなり、あたしの隣にぺたぁっと寄り添ってる類に言葉を投げ掛けた。
気怠げに美作さんの方に視線だけを向けて、ボソボソと話す、その態度はどーなのよ?
類ってば、最近人とのコミュニケーション能力が更にダウンしてる感じ。
そのせいか、西門さんには八つ当たりされるし。
美作さんには変にやらしい顔でニヤニヤ見られるし。
まるで私のせいみたいじゃないの!
「うん、そうみたいだね。
それにしてもなんであきらが口火を切っちゃうのかなぁ。
俺、その事牧野に話すのは2人きりの時にゆっくりって思ってたのに…」
「ふーん、そりゃお邪魔様。
で、いつ帰って来るんだって?」
「来週位じゃないの? よく知らない…」
不機嫌な顔をしたワガママ王子は、面倒臭さを身体いっぱいで表す為か、長ーいソファにごろりと寝転んだ。
当然のように私の太腿に頭なんか載っけちゃってる。
もー、美作さんの前でこういうのやめて欲しい!
でも無下に頭を落っことせない…
あたしも大概弱いよね。
「パーティーあるんだろ?
まあそのうちに俺達にも声掛かるんだろうけど。
静、勘当解かれたのか?」
「あそこの親父さんが、静を手放せる訳ないでしょ。
親父さんの方が折れて、好きな事しててもいいから、偶には帰って来て欲しいって、静に泣きついたらしいよ。
で、自社のCMにでも静を使って、イメージ回復ってとこじゃない?」
「ふうん。それにしても久しぶりだなー、静に会うの。
いつから会ってなかったんだっけ…」
美作さんは独りごちながら、一人掛けのソファの方に座ってる。
そうなんだ。静さん、帰って来るんだ…
あたしの憧れの人。
そして… 類の好きだった人。
あんな素敵な女性、あたしは他に知らない。
完璧な美貌とスタイル。
知性に溢れ、深く優しい心の持ち主。
大金持ちのお嬢様なのに、そんな立場を捨てて、自分の夢の為にフランスへと移り住んで、勉強に励んでる。
静さんになれる訳はないけれど、ほんの少しでも近付きたいと思って、あたしは大学での勉強に懸命に取り組んでるところがある。
って、勉強以外はどう頑張っても真似出来ないもんね。
類が静さんに対する気持ちは、恋や愛じゃなくて憧れだったと言ってたけれど、小さな頃から一緒に沢山の時間を過ごして、静さんだけを見つめていたら、誰だって静さんを好きになると思う。
静さんはあたしと類が今付き合ってるって知ってるんだろうか?
あたしみたいな雑草… 類の隣にいるの、間違ってるんだろうか?
「牧野。」
いつの間にか類はあたしの膝から身体を起こして、隣に座り直してた。
また耳元に唇を寄せてくる。
そうやって喋られると、くすぐったくて、首がきゅっと縮んじゃうんですけど!
「な、何?」
「何も心配しないで。
俺には牧野だけだから。」
「へ?」
「俺は牧野しか好きにならない。
何があってもね。」
類の甘い囁きは、背筋をぞくぞくさせて、あたしはそれをやり過ごす為にぎゅっと目を瞑る。
「くすっ。真っ赤で可愛いね、ぷくぷくほっぺ。
林檎みたいだよ、牧野。」
今度はくすくす笑いがあたしの耳を刺激する。
類の指先はつんつんとあたしの頬っぺたをつついてる。
慣れない!
この距離感、全く慣れることが出来ない!
それに、不意に聞かされる愛の言葉も!
「ちょっと、類! あたしで遊ばないでよ!」
「遊んでないよ。スキンシップでしょ、恋人同士の。」
美作さんが、半ば呆れ気味にこっちを見てるのに気付いて、もっと顔が熱くなった。
「お前ら、よくやるなぁ。
しっかし、牧野がこんな類の言いなりになるとは思わなかったよ。
司と一緒にいた時は、しょっちゅう恥ずかしがって逃げ惑ってたのに。
牧野も恋する乙女になったって事なのかなぁ。
オニーサンとしては、感慨深いような、寂しいような…」
「あきら… 変な目で牧野を見ないで。」
「何だよ、変な目って。
お前らが俺の前でイチャついてるから目につくんだろ。
見られるの嫌なら、他所でやれ、他所で。」
「ん、そうする。行くよ、牧野。」
「え? どこ行くの、類?
あたし、この後バイトが…」
「ちゃんと時間迄には送って行くから。」
手を繋がれて、ラウンジから引っ張り出された。
何故だか類はご機嫌で「今日のミッション、完了。」なんて呟いてる。
何よ、ミッションって?
類があたしを連れて来たのは、キャンパス内にあるギャラリーだった。
美術学部の優秀作品が展示してあるみたいだけど、人気は無くてしーんと静かだ。
中にあるベンチに並んで腰掛けた。
「ここ、いつ来てもガラガラなんだ。
時々息抜きに来る。」
「しょっちゅう息抜きしてるように見えるけど?」
「ふふふ、まあね。
ちゃんと必要な勉強はしてるから心配要らない。
それより、牧野。静の事なんだけど…」
そう言われてどきりとした。
「うん、静さん、帰って来るんだね。」
「そう。フランスの大学の冬休みに合わせて少しだけね。
親孝行の為だよ。
今、静の親父さんの所と花沢で進めている合同プロジェクトがあって。
その広告塔に静を担ぎあげたいんだよ、親父さんは。
静がまた表舞台に出て来れば、インパクトも大きいし、話題にもなる。
開発途上国の子供への支援に一部の収益を回すからって口説き落とされたんだってさ。
とか言って、俺は静の親父さんは、ただ単に勘当を撤回するんじゃカッコつかないから、言い訳が欲しかったんだと思うんだけど。」
「へぇー、静さんは優しいから、そんなお父さんの気持ちも分かった上で帰って来るんだね。」
「まあ、そうなんだけど。
それで… 俺は気が進まないんだけど…
親父から命令が下っちゃったんだ。
静の帰国祝いパーティーがある。
その席で、合同プロジェクトの広告塔に静が起用されるのも発表される。
そのパーティーの日、静のエスコート役を俺が務めて、藤堂と花沢の二枚看板だと世間にアピールする為の客寄せパンダになれというのが、親父からの命令。」
類が静さんのパートナー。
たった一夜の事だとしても、それがメディアを通して世間に流れたら…
あたしと類はどうなるの?
__________
なかなかラブコメにならん…
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