「ねぇ、西門さん。」
牧野が俺の方に顔を向けた。
「あたしね、お蔭様で元気になってきたみたい。
空っぽなのは相変わらずだけど、どうしようってぐるぐる考えなくなった。
西門さん、言ってくれたでしょ。
手に入れた荷物は全部持ってなくていいって。
必要な物だけ持って、前へ進むんだって。
あの言葉の意味が、段々分かってきた気がするの。
少しずつなんだけどね、あたし、自分の気持ちを整理して、前向きに歩けてる気がするんだ。」
そう話す牧野の表情は落ち着いていて、優しげで。
こんな牧野は初めて見る気がした。
「今手の中にある物を大事にしたらいいとも言ってくれたよね。
あたし、連休中にパパとママのところに行ってきたの。
2人も進も元気で、久し振りに家族団欒っていうのを満喫した。」
くすっと笑う牧野。
それだけで、家族との時間が暖かく楽しいものだったのが伝わってくる。
俺自身は家族の温かさなんて知らないが、牧野にとって家族は掛け替えのない存在だという事は、これまでの付き合いの中で分かっていた。
「良かったじゃん、そんな時間が持てて。」
「うん、あとね、優紀ともちゃんと話した。
あたしがもう道明寺の事想ってないってことを言ったの。
ま、別に、わざわざ宣言するのも、今更どうかと思うけど、ずっと心配かけてきたしさ。」
「優紀ちゃん、何か言ってたか?」
「うーん、特に何も言われなかった気が… あ、新しいスタートにって乾杯してくれたよ。」
「そっか。」
「うん。」
顔をくしゃっとさせて笑う牧野。
少し照れて頬を赤くしているその様は薄紅色の芍薬の花みたいに見えた。
「西門さん、あたし、大事な物ちゃんと持ってるね。
家族も、友達もあたしの宝物。
何もかも失くしちゃって、世界から色も匂いも無くなっちゃったと思い込んでたけど、そんなことなかった。
こうやって風を感じて。
眩い光も、お日様の暖かさも分かる。
緑の葉っぱと土の香りもする。
有り難う、いつも大切な事教えてくれて。
西門さんが言ってくれた言葉、あれ以来、何度も何度も思い出したよ。
それを言いたかったんだ。
今日、こうやって話せて良かった。」
今日一番の笑顔で俺に笑いかける牧野。
芍薬の花は満開に咲き誇ってる。
陽が傾き始めた公園の小道を歩いて、車へと戻る。
「牧野は連休中は何してたんだ?」
「えーっとね、初めの3日間は、パパとママのところでしょ。
真ん中の平日が続いたところは大学に行ってた。
あ、優紀と映画観てご飯食べた日もあったな。
その時に藤祭りに行く約束したんだ。
で、藤を見に行った。
あとの日はのんびり散歩したりしてたよ。」
「そうか。じゃあ、のんびりして英気を養ったろうから、これからはしっかり稽古つけても大丈夫だな。」
「えっ? あ、はい。よろしくお願いします。」
「これからは金曜日以外にもう一回って話だったよな。
お前の予定、決まったらメールで知らせろよ。
それ見て、俺の予定が空いてるところがあったら声掛けるから。」
「うん、でも、ホントに無理しないで。お暇だったら…にしてね。
あたし、お茶のお稽古好きだけど、西門さんの負担にはなりたくないからさ。」
「何言ってるんだよ、つくしちゃん。
俺は、これが仕事なの。
お前こそ変な遠慮すんなよ。
ま、労ってくれるっつーなら、チューの一つや二つ頂くのもやぶさかじゃねぇ…」
と言いつつ、顔を覗き込むと、真っ赤に染まった顔で睨みながら
「…この、エロ門っ!」
とお決まりのセリフを口にする。
ついつい笑いが零れる。
牧野といると飽きないな。
色んな牧野が現れて。
それを見ていると、俺の中に色々な感情が湧き起る。
ついついポーカーフェイスでいられなくなる。
それがなんだか心地いい。
そんな事を思いつつ、西日の中を並んで歩いた。
夜、ワインバーであきらと落ち合った。
先に着いて飲み始めていたあきらは、俺が腰を据えるなり切り出した。
「総二郎、一体どうしたんだよ?」
「は? どうもしねぇ。何だよ、急に。」
「お前、今日あからさまに変な態度だったの、自覚ないの?」
「別に。変な態度なんかとってねぇだろ? 」
「総二郎が女断るなんて、それだけでおかしいって誰でも思うぜ。」
「今、面倒臭いの要らねーんだわ。俺、本気で茶道に邁進してんの。」
「何で突然そうなった?」
「んー、連休前に兄貴と会ったんだよな、6年振りに。で、兄貴は医者の道を極めて、俺は茶の道をひたすら進むと確認し合ったってワケ。」
「へぇ。そんな兄弟の久々のご対面があったんだ。」
グラス片手に何やら含み笑いをしているあきら。
何だよ、何を言いたいんだよ?
__________
またまたあきら登場。
結構切り込んだね(笑)
ぽちっと押して頂けたら嬉しいです!
牧野が俺の方に顔を向けた。
「あたしね、お蔭様で元気になってきたみたい。
空っぽなのは相変わらずだけど、どうしようってぐるぐる考えなくなった。
西門さん、言ってくれたでしょ。
手に入れた荷物は全部持ってなくていいって。
必要な物だけ持って、前へ進むんだって。
あの言葉の意味が、段々分かってきた気がするの。
少しずつなんだけどね、あたし、自分の気持ちを整理して、前向きに歩けてる気がするんだ。」
そう話す牧野の表情は落ち着いていて、優しげで。
こんな牧野は初めて見る気がした。
「今手の中にある物を大事にしたらいいとも言ってくれたよね。
あたし、連休中にパパとママのところに行ってきたの。
2人も進も元気で、久し振りに家族団欒っていうのを満喫した。」
くすっと笑う牧野。
それだけで、家族との時間が暖かく楽しいものだったのが伝わってくる。
俺自身は家族の温かさなんて知らないが、牧野にとって家族は掛け替えのない存在だという事は、これまでの付き合いの中で分かっていた。
「良かったじゃん、そんな時間が持てて。」
「うん、あとね、優紀ともちゃんと話した。
あたしがもう道明寺の事想ってないってことを言ったの。
ま、別に、わざわざ宣言するのも、今更どうかと思うけど、ずっと心配かけてきたしさ。」
「優紀ちゃん、何か言ってたか?」
「うーん、特に何も言われなかった気が… あ、新しいスタートにって乾杯してくれたよ。」
「そっか。」
「うん。」
顔をくしゃっとさせて笑う牧野。
少し照れて頬を赤くしているその様は薄紅色の芍薬の花みたいに見えた。
「西門さん、あたし、大事な物ちゃんと持ってるね。
家族も、友達もあたしの宝物。
何もかも失くしちゃって、世界から色も匂いも無くなっちゃったと思い込んでたけど、そんなことなかった。
こうやって風を感じて。
眩い光も、お日様の暖かさも分かる。
緑の葉っぱと土の香りもする。
有り難う、いつも大切な事教えてくれて。
西門さんが言ってくれた言葉、あれ以来、何度も何度も思い出したよ。
それを言いたかったんだ。
今日、こうやって話せて良かった。」
今日一番の笑顔で俺に笑いかける牧野。
芍薬の花は満開に咲き誇ってる。
陽が傾き始めた公園の小道を歩いて、車へと戻る。
「牧野は連休中は何してたんだ?」
「えーっとね、初めの3日間は、パパとママのところでしょ。
真ん中の平日が続いたところは大学に行ってた。
あ、優紀と映画観てご飯食べた日もあったな。
その時に藤祭りに行く約束したんだ。
で、藤を見に行った。
あとの日はのんびり散歩したりしてたよ。」
「そうか。じゃあ、のんびりして英気を養ったろうから、これからはしっかり稽古つけても大丈夫だな。」
「えっ? あ、はい。よろしくお願いします。」
「これからは金曜日以外にもう一回って話だったよな。
お前の予定、決まったらメールで知らせろよ。
それ見て、俺の予定が空いてるところがあったら声掛けるから。」
「うん、でも、ホントに無理しないで。お暇だったら…にしてね。
あたし、お茶のお稽古好きだけど、西門さんの負担にはなりたくないからさ。」
「何言ってるんだよ、つくしちゃん。
俺は、これが仕事なの。
お前こそ変な遠慮すんなよ。
ま、労ってくれるっつーなら、チューの一つや二つ頂くのもやぶさかじゃねぇ…」
と言いつつ、顔を覗き込むと、真っ赤に染まった顔で睨みながら
「…この、エロ門っ!」
とお決まりのセリフを口にする。
ついつい笑いが零れる。
牧野といると飽きないな。
色んな牧野が現れて。
それを見ていると、俺の中に色々な感情が湧き起る。
ついついポーカーフェイスでいられなくなる。
それがなんだか心地いい。
そんな事を思いつつ、西日の中を並んで歩いた。
夜、ワインバーであきらと落ち合った。
先に着いて飲み始めていたあきらは、俺が腰を据えるなり切り出した。
「総二郎、一体どうしたんだよ?」
「は? どうもしねぇ。何だよ、急に。」
「お前、今日あからさまに変な態度だったの、自覚ないの?」
「別に。変な態度なんかとってねぇだろ? 」
「総二郎が女断るなんて、それだけでおかしいって誰でも思うぜ。」
「今、面倒臭いの要らねーんだわ。俺、本気で茶道に邁進してんの。」
「何で突然そうなった?」
「んー、連休前に兄貴と会ったんだよな、6年振りに。で、兄貴は医者の道を極めて、俺は茶の道をひたすら進むと確認し合ったってワケ。」
「へぇ。そんな兄弟の久々のご対面があったんだ。」
グラス片手に何やら含み笑いをしているあきら。
何だよ、何を言いたいんだよ?
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結構切り込んだね(笑)
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