菅田将暉が他人に見せたくない“秘密” 役者業セーブ経てスタンスに変化「乗り越えられない問題」への葛藤とは<「百花」インタビュー>
2022.09.04 08:00
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モデルプレスのオリジナル企画「今月のカバーモデル」で2022年9月のカバーモデルを務めた俳優の菅田将暉(すだ・まさき/29)。9日に公開の映画「百花」で女優の原田美枝子とともに主演を務める彼は、結婚という側面からも親子像について描かれる同作を「重なりました」と語る。そんな菅田が家族を軸に進む今作に懸けた思い、そして役者業をセーブしてから感じた変化についても語ってくれた。
菅田将暉・原田美枝子主演映画「百花」
映画プロデューサー・脚本家・小説家として「告白」「悪人」「世界から猫が消えたなら」「君の名は。」など多数の映画を製作してきた川村元気氏。映画製作の一方で、数々の話題作を小説家としても生み出してきた。そんな川村氏が2019年に発表した自身4作目となる小説「百花」(文春文庫刊)。川村自身の体験から生まれたこの小説を、この度、原作者である川村自身が監督・脚本を手掛け、映画化することが決定。今作が初の長編監督デビューとなる。菅田は、記憶を失っていく母と向き合うことで、母・百合子(原田)との思い出を蘇らせていく息子・葛西泉役。第41回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞をはじめとし、数々の映画賞に輝いてきた若手屈指の演技派俳優・菅田が、レコード会社に勤務し、社内結婚をしてまもなく子供が生まれようとしている日常から一変、記憶を失っていく母を目の当たりにして、封印していたはずの過去の記憶に向き合うことなる息子を、繊細かつ力強く演じる。
菅田将暉「重なりました」役柄への思い
― まず、オファーを受けたときのお気持ちを教えてください。菅田:最初に川村さんから「これを一緒にやりたいと思っている」と小説が届いて、原作を読みました。小説を読むと、なぜ監督としてこれを撮るか、実際の家族の“秘密”を映画にすることで、監督自身の覚悟がすごく伝わってきたので、(長編監督としての)ファーストテイクのタイミングで選んでくれたのが嬉しかったです。
― ご自身の役柄への印象はいかがでしたか?
菅田:僕自身に重なりました。泉は結婚して子供ができて、新しく家族を育もうとしているタイミングで、唯一の家族である母の命が少し消えそうな香りがしてくる。生まれてくるものと、しぼんでいくもの、みたいなものが同時に来る。僕が結婚を考え始めた時期や、うちのおばあちゃんの記憶が不確かになっていた時期と同じくらいだったので、重なりましたね。
菅田将暉、役作りは「何もしない」
― 現場で撮影に臨むにあたって、役柄について意識したことはありましたか?菅田:「こういうお芝居にしよう」とかは現場に行けば行くほど無くなっていきました。家で考えても現場に行ったら変わるし、芝居だけじゃなく見せ方を追求しなきゃいけなかったので、監督の作る波に静かに乗って行くような感じ。特別したことと言えば何もしないことなのかな。原田さんとも役のことについて話すことはあまり無かったんですが、監督が何を求めているのかということと、「2人で乗り切ろうね」というような話はずっとしていました。
菅田将暉「俳優陣にやってみて欲しい」シーンとは
― 大変だったシーンや思い入れのあるシーンを教えてください。菅田:実際にやってみると難しさがわかるんですが。5分くらいの1カット長回しで涙をこぼして、その後に吐いちゃうシーンがあるんです。吐瀉物を口に含んだ状態でスタートしなきゃいけないんです。でも、口の中に液体を入れて留まらせておくと、どれだけ感情が溢れても涙が出ないんですよ。人間の体の構造的なものが原因なのかわからないですけど、不思議でした。最後は振り絞って泣けたんですけど、映画を観たら1カットではなくなっていました(笑)。大変でしたが、やって良かったですし面白かったですね。
菅田将暉、“母”原田美枝子の「凄まじかった」演技とは
― 原田さんの印象を教えてください。菅田:本当に素敵でチャーミング過ぎる方でした。ものすごく複雑で難しい役だと思うんですけど、本番に入ったときの原田さんにしかない説得力、集中力はすごかったです。泉と怒鳴り合って感情的になるシーンでは、カットがかかったら僕の胸で原田さんが号泣していて、僕も自然に撫でていて。ハッとして「原田美枝子の頭を撫でている」と。でも、そのときは無邪気な小さい少女にしか見えないから集中力がすごいんだと思います。本人も収まらないような状況だったので、大先輩のこういう姿を見ると、後輩としては頑張らなくては、と痺れました。凄まじかったです。
菅田将暉、長澤まさみとのランチで話したこと
― 長澤まさみさんとは夫婦役を演じられましたがいかがでしたか?菅田:最初は「長澤さんと夫婦役か…」とイメージできなかったんです。一度姉弟役をやっていたのもありどこかでお姉ちゃんのような感じがしていたのですが、現場では長澤さんの包容力と明るさで自然に連れて行ってくれたような感じがありました。
あと長澤さんとは、ロケの合間に1回ランチ行きました。そのときも面白かったですよ。長澤さんはちょっと妊婦姿の状態だったから、疑似夫婦感というか、まるで子供がいるような時間になりました。
― どのようなお話をされたのですか?
菅田:仕事のことだけじゃなく、仕事がストップしたり、人が亡くなったり…コロナ禍の世の中で悲しいことが多かったのでそういうことを喋ったかな。あとは出産シーンのときの会話を覚えています。長澤さんが「どうやったら私産めるかな?」と話していて、本当に産んだ感が出ていました。数日前に産まれたばかりのような本当の赤ちゃんが出演してくれて、その子のお母さんも元気そうで、現代における出産のスピーディーさみたいなのはちょっとびっくりしました。
菅田将暉が他人に見せたくないものとは?
― 記憶を失っていく母・百合子との関係性が“秘密”である日記を知ったことを軸に変化していく様が描かれますが、菅田さん自身はこの家族にどのようなイメージを持っていますか?菅田:難しいな…。倫理観の問題だとは思うんですけど、意外と(どの家族にも)「“あの出来事”については触れないでおこう」みたいなことがあると思うんです。うちの家族の場合は父が「~の話は伏せる」といったことがあるからその感覚はちょっとわかります。まあうちの家はまた違うけど、1つのことを話せないと、2つ3つ…と付随してどんどん話せないことが増えてくるんですよね。やっぱり1個嘘をつかなきゃいけないということは、その瞬間からときが止まっているようなものだから、結果的に全てのことを話せないに等しいと思うんです。ただそういうのは意外とあることだとは思います。
― 菅田さんの人生において忘れられない記憶を教えてください。
菅田:いっぱいあるのかなあ…。「共喰い」(2013)でスイスのロカルノ映画祭に行ったんですけど、その日々は忘れられないです。気候もちょうど良くて、湿気もそんなになくて、ご飯も美味しくて、現地の小学生とか中学生がボランティアで映画祭を手伝っていて。その芸術と人の距離みたいなものが忘れられないです。
― では、今作での日記のような他人に見せたくないような“秘密”はありますか?
菅田:すごくメモを取るんです。歌詞の言葉になりそうなことや、ラジオをやっていたときはそこで話せそうなこととか、あと現場中の出来事は忘れちゃうから何かあったら全部メモるようにしているんで、それは誰にも見せられないです。特にラジオやテレビでエピソードトークをしなきゃいけないときは、詳細に話せば話すほど面白いので、そういうのを書いていました。
― ラジオに関連するお話だと、菅田さん自身は3月末に「オールナイトニッポン」(ニッポン放送)を卒業して、役者業も作品数を抑えているとお話されていました。そういったターニングポイントを経て心境に変化はありましたか?
菅田:以前はとりあえず沢山仕事をするスタンスだったんですが、変化としてはちょっと仕事の仕方を変えました。どうしても作り方の話になってくるんですけど、今は映画やドラマの現場で演者やスタッフがどれだけ頑張っても、乗り越えられない問題があって…多分このままだとテレビドラマは衰退していく気がするんです。現に若い人の家にテレビが無いこともあると思うので…。
だからこそ、単純に1個1個のものづくりを丁寧にやらなくてはいけない、と。やることは変わらないんですけど、一作一作にかける時間を増やすという感じです。今まではオファーを頂いて、台本を読んで、現場に行って、自分のお芝居をすることをしていたけど、それだけじゃなく一度制作側として、どうやって台本を作るのか、どうやってキャスティングをするのか、とか。多分僕はそういうところを知らないといけないというのが今の心境です。変化としては、企画の段階から1回入って作る作業を始めたことです。
菅田将暉が怒りを乗り越えた方法
― モデルプレスの読者の中には今、さまざまな不安を抱えている読者がいます。そういった読者に向けて、菅田さんのこれまでの人生の中で「怒りを乗り越えたエピソード」を教えてください。菅田:乗り越えたエピソードか。年に数回ブチ切れることがあるんですけど、やっぱり悲しかったり怒ったりするときはもうその場じゃどうにもできないことも多いと思うんです。知らず知らずに蔓延していることによるものだと思うから、自分じゃ解決できないんです。
例えば仕事の現場で受けたストレスはそこでしか発散できないと思っているので、プライベートで「買い物をめっちゃしよう」とか「いっぱいご飯食べよう」と思ってもすっきりしない。だからそのとき、音楽とラジオを始めました。表舞台の中で自分が好きにできる遊び場みたいなものを作って、その中で「もう傷ついても良い」というマインドでしんどいことや嫌なことは全部エンターテイメントの中で昇華しようとしていました。ムカついたことをネタにしちゃうということですよね。笑い話にしちゃう。ヘラヘラするわけじゃないけど、「こんなことがあって~」とラジオで話すことによって、皆(リスナー)もリアクションを取ってくれるし、笑いになるんです。
菅田将暉の夢を叶える秘訣
― モデルプレス読者の中には今、夢を追いかけている読者もたくさんいます。そういった読者に向けて、菅田さんの「夢を叶える秘訣」を教えてください。前回のインタビューでは「夢を向かっている人はそのまま向かっていけばいい、持っていて向かってない人はその時点で遅い」や「好奇心を持つこと」ということをお話されていました。菅田:なかなか厳しいこと言っていますね…。夢を叶える秘訣か。でも皆、夢があるんですよね。じゃあやることは決まっているから、叶える秘訣ってなんだろう。でも夢があるんだったら、それに進むしかないですもんね。多分その夢はその人にしかない叶え方をしなきゃいけないから、他人がとやかく言ってもな、とも思いながら…。
例えば料理人という夢があるなら「どんな料理人?」「和食」「和食の中のどんな料亭?」と明確に見えてくるはずだと思います。ということは秘訣として言うのであれば、より細分化していくこと。細かく具体的に書き出してみると今やることが単純に見えるはずです。
― ありがとうございました。
(modelpress編集部)
映画「百花」ストーリー
レコード会社に勤務する葛西泉(菅田将暉)とピアノ教室を営む泉の母・百合子(原田美枝子)は、過去のある「事件」をきっかけに、わだかまりを感じながら時を過ごしていた。そんな中、不可解な言動をするようになる百合子。不審に思った泉は百合子を病院に連れていき、そこで認知症だと診断される。その日から、泉は「記憶を失っていく母」と向き合うことになる。
百合子の記憶がこぼれ落ちていくスピードは日に日に加速し、大好きだったピアノでさえも、うまく弾けなくなり、泉の妻・香織(長澤まさみ)の名前も分からなくなっていった。それでも今までの親子としての時間を取り戻すかのように、泉は献身的に支えていく。
ある日、百合子の部屋で一冊のノートを見つけてしまう。それは、泉が知らなかった母の「秘密」、そして泉にとって忘れたくても忘れることのできない、「事件」の真相が綴られた日記だった…。
心の奥底にしまい込んでいた記憶を、徐々に蘇らせていく泉。一方、百合子は失われてゆく記憶の中で、「半分の花火が見たい…」と何度もつぶやくようになる。「半分の花火」とはなにか?なぜ百合子はそこまで「半分の花火」にこだわるのか。その言葉の「謎」が解けたとき、泉は母の本当の愛を知ることになる。
菅田将暉(すだ・まさき/29)プロフィール
1993年2月21日生まれ、大阪府出身。2009年に「仮面ライダーW」(テレビ朝日系)でデビュー。2013年に映画「共喰い」で第37回日本アカデミー賞 新人俳優賞を受賞、2018年に映画「あゝ、荒野 前篇」で第41回日本アカデミー賞 最優秀主演男優賞を受賞。2017年にはソロ歌手としてデビューし、2019年には「第70回NHK紅白歌合戦」に出場した。2021年もドラマ「コントが始まる」(日本テレビ系)、映画「花束みたいな恋をした」「キャラクター」「キネマの神様」「CUBE 一度入ったら、最後」などに出演し、多彩な役柄で魅了。2022年1月期にはフジテレビ系ドラマ「ミステリと言う勿れ」で主演を飾った。
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