韓国に尹錫悦(ユン・ソギョル)新政権が誕生し、日韓関係の改善に前のめりとなっています。日本政府にもそれに応じるような動きがあります。
『ハンギョレ(日本語版)』は日韓議員連盟の幹事長である武田良太さんの言葉を引きながら以下のように報じています。記事から一部引用します。
武田幹事長は7日付の毎日新聞のインタビューで、尹錫悦大統領との会談内容を伝えるために岸田首相に会ったところ、「首相も、日韓関係の健全化に向けて期待できると感じているようだ」と述べた。武田幹事長は、先月10日に行われた大統領就任式への参加のためソウルを訪問した翌日、尹大統領と会談した。
(中略)
それとともに、関係改善のためには、韓国の前向きな立場の変化だけではなく、日本の努力も必要だと強調した。武田幹事長は「日本側に協力を求めたいことを伝えてもらえれば、柔軟に対応する用意はある」と述べた。
ただし、「そのためには、2015年の慰安婦合意を速やかに履行してほしい」とし、「首相が当時外相として取り組み、(韓国がこの合意を履行しなければならないという)強い思い入れがある。慰安婦合意の履行と徴用工問題は、クリアしなければならないハードルだということは韓国側も理解していた」と述べた。
(後略)
何度もご紹介しているとおり、尹錫悦(ユン・ソギョル)さんが親米に舵を切っているため、日本としては与しやすくなりましたが、日韓関係が改善に向かうかどうかは不明です。
そもそも「韓国側の甘えに際限なく応えてきた過去の日本をよしとするのかどうか」が問題です。
そのような日本に戻れという韓国側の要求は断固として「No」といわなければなりませんし、もしそのような方向で事態を動かす政治家がいるのなら、日本人はその政治家を選挙で落とすべきです。
政治家が前のめりかもしれませんが、実際にどつき合いを行っている外交の現場はどうかというと、これはまた見事に平行線です(後述)。
しかし、韓国メディアでは非常に前のめりな記事が出ています。
2022年06月08日、日韓の外交次官が会談を行ったのですが、例えば『聯合ニュース』には「日韓外交次官『関係改善必須不可欠…懸案解決緊密コミュニケーション』」というタイトルの記事が出ており、以下のように書いています。
(前略)
強制徴用・日本軍慰安婦(原文ママ:筆者注)など過去の歴史問題や日本の輸出規制(原文ママ:筆者注)など敏感な懸案に意見接近を成し遂げたという信号はまだ表に出ていないが、両国が関係改善糸口を活発に模索しているものと解釈できる。
(後略)
関係改善の糸口は「韓国が日本との約束を守るかどうか」にあります。
韓国が「韓国が日本との約束を守る」という態度を示さない限りは、つまりは原則論を守らない限りは関係改善などあり得ません。日本政府が日和らなければ、ですが。
メディアの観測はともかく、両国が実際に出したプレスリリースを見てみましょう。
両国のプレスリリースが伝える「平行線」具合
以下は、韓国外交部が公表した今回の外交次官級会談の結果――というプレスリリースです。
趙賢東(チョ・ヒョンドン)外交部第1次官は日米韓外交次官協議会に出席するために訪韓中の日本の森健良外務事務次官と 6.8.(水)午後、初の日韓外交次官会談を実施した。
□両次官は最近、厳しい国際情勢下で早急な日韓関係の改善が必須不可欠だという認識を共にした。
特に、最近朝鮮半島の状況をはじめとする多様な地域・グローバル懸案対応において日韓・日米間の緊密な協力を強化していく必要性について意見が一致した。
□趙次官は、日韓関係の改善が相互共同の利益に適合する方向続くように両国が共に努力していかなければならないと強調した。
◦両国は諸問題解決のために外交当局間で緊密に連携し、協議していくことにした。
◦また、趙次官は日韓間の人的交流の再活性化の重要性を強調し、金浦-羽田路線再開など人的交流の制度的基盤が早速整備されるように両国が持続して協議していこうとした。
◦趙次官は東海(原文ママ:筆者注)上海洋調査関連にして、国連海洋法協約など国際法および国内法令に基づく正当な活動であることを再度明らかにした。
□朴振(パク・ジン)外交部長官は本日午前、森次官を接見し、日韓関係及び地域・グローバル協力等について意見を交換し、日韓関係改善のための森次官の役割を要求した。終わり。
⇒参照・引用元:『韓国 外交部』公式サイト「日韓外交次官会談(6.8.)結果」
上掲のとおり、日韓の外交次官が合意しているのは「協議していこう」という部分だけです。
日本の外務省が出したプレスリリースは以下です。
6月8日午後1時頃(日韓時差なし)から約1時間50分、日米韓次官協議に出席するため韓国ソウルを訪問中の森健良外務事務次官は、趙賢東(チョ・ヒョンドン)韓国外交部第1次官との間で協議を行いました。
1.両次官は、ルールに基づく国際秩序が脅かされている現下の国際情勢において、日韓、日韓米の戦略的連携がこれほど必要な時はなく、日韓関係の改善は待ったなしであるとの認識で一致しました。
2.森次官から、1965年の国交正常化以来築いてきた日韓の友好協力関係の基盤に基づき日韓関係を発展させていく必要があり、そのためには旧朝鮮半島出身労働者問題を始めとする日韓間の懸案の解決が急務である旨述べました。
3.両次官は、日韓関係の改善は急務であるとの認識で改めて一致するとともに、日韓間の懸案等について、これらを早期に解決すべく、両政府間で緊密かつスピード感を持って引き続き協議していくことで一致しました。
4.また、森次官から、韓国調査船の事案について、改めて強く抗議しました。
5.両次官は、北朝鮮が核・ミサイル活動を強化していることは、国際社会に対する明白かつ深刻な挑戦であるとの認識を改めて共有した上で、北朝鮮への対応において、日韓・日韓米協力が重要であるとの認識で一致しました。また、森次官から、趙次官に対し、拉致問題について、引き続きの理解と協力を求め、支持を得ました。
⇒参照・引用元:『日本国 外務省』公式サイト「森健良外務事務次官と趙賢東(チョ・ヒョンドン)韓国外交部第1次官との協議」
このように、どちらのプレスリリースでも話は平行線であることが分かります。
岸田政権と外務省を日和らせないよう監視が必要
ただし、日本の外務省のプレスリリースでは、「日韓関係の改善待ったなし」という認識を共有し、「両政府間で緊密かつスピード感を持って引き続き協議していく」としています。
このスピード感という部分に「日本政府(外務省)が日和るのではないか」という危うさを感じさせます。しかし、日和ったとたん岸田政権に対する信認は失われるでしょう。
岸田内閣が「参議院選挙の結果を待って、韓国に対して原則論を曲げたりしないのか」――は注視していなければなりません。
(吉田ハンチング@dcp)