知らねぇよ、くそ野郎が
■6月28日(火曜日)
今日、本屋でイカす日記帳を見つけた。バイトや大学にも慣れてきたことだし、日記をつけてみることにする。安心しろ、私、どうせ直ぐに飽きる。
ん~~~、驚くことに三行目にして既に書くことがなくなった。すげぇな、私。まぁいいや。思いつくままに、ダラダラと何か書いてみよう。
コースケが今日も榊先輩にデレデレしてた。ファ●ク! 胸が大きければいいのか。大人っぽければいいのか。ファ●ク! ファ●カー! ファ●ケスト!
死ね。むしろ生きろ。コースケのアホンダラ。お前のカーちゃん、優しいな。
しかし、あのくそムカつく幼馴染と何だって大学まで一緒になってしまったのか。そういやこれ、高校生の頃にも言ってた気がする。保育園から大学まで一緒ってどうなのよ。しかも冴えない、モテない、童貞というあり得ない感じの奴と。
ホワチャー! フォ~~! ホワタァ! アチョォ! アチョチョチョ! もう知らん、中島くんは今日も優しかった。私から三イイネをあげましょう。
■6月29日(水曜日)
ゴリラの学名は、ゴリラ・ゴリラ・ゴリラと言うらしい。今日、どっかの阿呆が自慢げに話してた。サークルで榊先輩から教わったらしい。知るか!
何か腹がたったから、腹に拳をくれてやった。そしたら野蛮な女だと言われた。ファ●ク! 色気がないとも言われた。ファ●ク! 私のスペック、身長百五十二センチ、バスト……うるせぇよ。聞くなよ。死ねよ。
目つき悪くてすいませんねぇ。ショートカットで悪ぅござんした。金髪でごめんなさいねぇ。ピアスの穴たくさん空いてて申し訳ないです。ふんだ。
アーッタッタッタ! アーッタッタッタ! アホォ! アホ、コースケ!
中島くんは今日も優しかった。私を女の子扱いしてくれるのだ。お~。
今日は特別に五イイネを上げましょう。百イイネになったら、ちょっと考える。
■7月1日(金曜日)
今日はミユと買い物三昧だった。古着屋巡り、楽しい。レトロなワンピースとか形のいいパンツとか、ヴィンテージのイカす帽子もあった。ホクホク。
ふと気になって男モノもチェックした。アイツに似合いそうなシャツとかあったよ。教えねぇけどな。ふはは。どっかのダサい奴は、ユニクソがお友達なのだ。
いや、好きだけどもユニクソ。でもあれは足が長い人じゃないと似合わないレーベル(?)なのよ。例えば中島くんみたいな。シンプルさも王子系にはよく似合う。
しかし不思議だ。なぜ中島くんみたいな好青年が、同じサークルだからといってコースケの友達になったんだろう。ひょっとして中島くん、女子か!? アイツを引き立て役にしてるのか!? 女子力たけぇなオイ! スイーツでも行くか!?
今日もミユは中島くんの話に夢中だった。お~い、イソベェ、野球しようぜぇ。
自慢がてら戦利品報告を写真と共にアイツに送った。金の無駄だと言ってきた。
死にさらせぇぇええ!! おどりゃぁぁあ!
刈り取る、絶対にいつか刈り取る。具体的にナニとはいいませんが。
野球少年にも送ったら、とっても褒めてくれたよ。あぁ、中島くんは別に野球少年じゃないけど、流れ的になんとなくね。三イイネをあげましょう。
■7月2日(土曜日)
バイト先の居酒屋に、突然アイツが来た。ミユと中島くん、榊先輩も一緒だった。おほほ、いい度胸してんじゃないか。デスマッカーサー!!(特に意味はない)
ミユは中島くんと話してて、中島くんはウンウンと話を聞いてた。
コースケは榊先輩と話してて、ゲハゲハしてた。
キッモ! クッソ、キッモ! 鼻の下伸ばす幼馴染の顔とか、最高にキッモ! 思い返すだけでイライラしてきた。サービスでレモンの汁を飛ばしてやった。漫画みたいに目に汁がヒット。悶え苦しむがいい。ギャー!! とか言ってたな。
ワロス。お前は漫画の世界の住人か。
腐れラブコメ野郎が。童貞! キモイ! 死ね!
バイト終わりに皆と合流して、カラオケに行った。コースケの音痴な歌が炸裂して、それでも中々に盛り上がった。榊先輩が謎の歌唱力を発揮した。すごかった。
終電前に解散。私はコースケと一緒の電車で帰る。あの馬鹿が眠りこけてて、危うく地元の駅を降り損ねるところだった。酒臭い阿呆に肩を貸し、何とか降りた。
で、そのままホームのベンチに捨てて帰った。がっはっは。いい気味だ。はしゃいでお酒をガブガブ飲むからだよ。あれ、でもアイツ、もう流石に起きたよね。
とか考えてたら、中島くんから連絡が来てたのに気付く。突然押し掛けちゃってごめんね、だってさ。優しいね。六イイネを進呈いたします。
ミユは中島くんと仲良くなれたのかな。お~~い! イソベェ、野球しよぉぜぇ! 馬鹿が電話に出ない。ちょっと駅まで見に行くか。世話の焼ける奴だ。
■7月3日(日曜日)
あ~~~~、あ~~~~~、あ~~~~~。
ん~~~~、ん~~~~~、ん~~~~~。
ビビディバビディブゥ。ビビディバビディブゥ。
んががががががが。んががががが。んががががが。
今日一日、クソゲロ野郎のことが頭から離れない。いかん、整理しよう。
昨日というか今日、あれからホームに行ったら、普通にコースケが寝てた。エ? アノアトニモ電車アッタヨネ? 皆にスルーされたのかよ、哀れな奴だな。
起こそうと思って頬をぶっ叩いた。起きなかった。むしろ笑ってた。幸せそうにニヤニヤしてた。ムカついた。そのまま二発、三発と叩いた。手が痛くなる。
四発、五発と叩いた。まだ起きない。顔を赤く腫らしながら微笑んでた。キモイ。榊さぁん、とか寝言をほざいてやがった。ウザイ。ファ●ク! 死ね。
言っとくけど榊先輩はサークルの皆に、特に後輩に優しいだけだからね。お前はからかわれてんだよ。遊ばれてんだよ。弄ばれてはいないけど。気付けよ。バカ。
水でもぶっかければ起きるかと思い、無人駅の改札口を出て外の自販機に向かう。ミネラルウォーターを買って戻ろうとした時、変な三人組に声をかけられた。自販機の前。顔はあんま思い出せない、ちょっと、というか、かなり怖かった。
地元でもあぁいうことがある。気をつけなくてはいけない。本当、あまり思い出したくない。友達が改札で待ってるんで、とか、そう言って逃げようとした。腕を掴まれた。やっぱ思い出したくもない。怖くて、思わず誰かの名前を叫んでた。
…………何で叫んじゃったかなぁ、私。咄嗟のことだけど、恥ずかしい奴だ。
叫んでも助けに来ることなんてない。そういうのは保育園の頃の話。コースケがまだ格好良く見えてた頃の話。昔、アイツは私が苛められてると、いつでも飛んで来てくれた。今は冴えないただの凡人。童貞野郎。年上の女にデレデレする馬鹿。
そう思ってたのに、しばらくするとピンポーンと改札口から音がした。乗車券をお入れ下さい、そんなアナウンスが続く。終電はとっくに終わってるのに誰かが改札口から出てくる。ピンポーン、乗車券をお入れ下さい。ピンポーン、乗車券を。
呼んだかぁ! とか言って、最高にダサい登場シーンをアイツが披露した。BGMは改札の注意の声。定期券持ってるのに、なんで使わないんだよ。改札口のビート板みたいなのに阻まれながら、必死に押しのけてアイツが視界の内に現れる。
色々と規格外に駄目な感じで現れたコースケを、三人はポカーンと見てた。私はその隙に手を払いのける。ヨタヨタと近づいてくるアイツの後ろに走って回った。
俺の幼馴染に手を出すなぁ、ってアイツが言った。自分に酔ったセリフだった。そういや相当に酔ってた。ちなみにその言葉の意味が分かったのは私だけで、発音としては、オヴェヴォオダダナジニニテホタズナァ! みたいな感じだと思う。
客観的に見て、かなり危ない奴だ。前後不覚なほどに酔った顔の赤い男が、奇声を発しながら近づいてくる。もうその時点で、男三人は十分に引いてた。うわ、変な人来ちゃったよ、的なムードが凄かった。おいでよ、奇人変人の森。
それなのにアイツは、ンジャベロッサクワヌテロンム!(私にも何言ってるか分かんない)とか言って三人に近づき、ゴベルサァ! と言って盛大にゲロった。
あそこまで駄目な人間というのは、そうそういないと思う。オンゲロォッパとか言いながら、オートリバース総取り。幼馴染を助けようとして、地元の駅前で路上に吐瀉物を撒き散らす幼馴染。コースケ、世界にアンタだけだよ、そんな男は。
(色んな意味で)やべぇよコイツ、的な視線を交わし合い、男たちは逃げた。後にはエロエロと虹色噴射状態のコースケと、私が残された。コースケ、アンタ……。
私がそう言うと、アイツは顔を上げてニカッと笑った。グッジョブポーズを取った。そしてまたゲロった。いや、そもそもお前が寝てたのが悪いんだけどな。ん、私が置いてきたのが悪いのか? 違う、元を正せばアイツが酔ったのが悪いんだ。
それでも……。それから落ち着くのを待って、私はコースケの顔面にぶっかける予定だった水を黙って差し出した。仕方ないもんね、一応、助けてくれたし。百五十円奢ってあげる。アイツが笑った。お巡りさんが来た。こっぴどく怒られた。
本当に、散々な一日だったよ。バカ。
■7月29日(金曜日)
学科試験を挟んだりして、日記をサボりがちだった。でも三日坊主は避けられた、十分だ。飽き性の私にしてはよくもった方。しばらく日記は書かない、多分。
夏休み直前。コースケが榊先輩に振られた。私は中島くんに告白された。
これが格差社会というやつだ。はっはっは。アーノルド、シュワルツネガー!
でも、中島くんは私なんかには勿体ない。百イイネも貯まってないし、お友達でお願いした。爽やかに、そっかって言ってた。いつか後悔する日が来るだろうか。
その時に聞いてみた。どうしてコースケなんかの友達やってるの? って。中島くんは淡く笑うだけで、答えなかった。とにかく、ホモじゃなくてよかった。
コースケの残念会を、仕方ないから四人でファミレスで開いてやった(中島くんも来てくれた)。アイツは昔からそうだ、勝手に好きになって勝手に妄想して、勝手に告って勝手に振られる。ば~か、ば~~か! ざまぁみろぉ。ひゅーひゅー!
ミユが中島くんからのポイントを稼ごうと、親身にコースケの話を聞いてた。そっか、わかるよぉ、そうだよねぇ、うん、そっか~、わかるよぉ。そっか~。
ミユはあざといけど、細い煙草を隠れてスパーッと男前に吸うけど、んぁあ、とかオッサンみたいな声をたまに出すけど、結構可愛い部類に属すると思う。ただ、かなり理想が高い。中島くんはミユと付き合えばいいのに。祝福するよ、私は。
その残念会の最中、まぁ初めっから振られるのは分かってたけどね~、と私が言うと、コースケが憤然となって食ってかかって来た。だってアンタ、榊先輩と全然釣り合ってないし、普通に考えて付き合える訳ないじゃん。バカじゃないの。
そこで口喧嘩をした。うるせぇと言われた。お前だって誰も相手してくれねぇ癖にとか言ってきた。ふっふ~ん。鼻で笑ってやった。アンタが知らないだけだよ。
それからもミユがコースケの愚痴に親身に付き合った。チラッチラッと中島くんを見ていた。野球がしたいのだろうか。きっとそうなんだろう。夜の……ごめん、なんでもない。中島君に電話がかかって来た。中島くんが席を外す。
それでね、ミユさん、俺はね。あっ、ごめん、お手洗い行ってくる。
馬鹿が一人にされた。笑いを堪えるのに必死だった。うお~~とか言ってた。
本当、仕方ないコースケだ。昔っから変わらない。アホで馬鹿で、まぁだけど、それなりに真っすぐで、保育園時代が最も格好良かった男。冴えない私の幼馴染。
ねぇコースケ、アンタ、振られるのこれで何回目? そう聞いたら、覚えてないと言った。そもそもアンタ、恋愛の仕方が間違ってるんだよ。幻想持ち過ぎなんだよ。もっと現実見ろよ。そういうことを言ってやった。現実だぁ? とか応えた。
そこでコースケは、ハッとした顔になって私を見た。
え? と思った。突然のことにドギマギした。
俺は大切なことを見落としていたのかもしれない。確かにそう言った。
何でこんなに近くにいたのに、気づかなかったんだろう、って。
私を見てこんなに近くにって、おいおい、ブラザー。ちょっとドキドキした。いや、ドキドキするなんておかしいんだけど。でも正直な話、この駄目な幼馴染の面倒を看れるのは、世界で私だけかもしれないという思いもあった。うん。
それにコイツは私に幻想を持ってないし、私も幻想をアイツに持ってない。
言いたいことを言い合えるし、お互いの汚いところも綺麗なところも知ってる。
真剣な顔でコースケが私を見ていた。あぁ、いいよ、仕方ない、コースケがどうしてもって言うんなら、私が……。とか言いかけたら、アイツはこう言った。
ミユさんって、めっちゃ可愛くね?
前言撤回。知らねぇよ、くそ野郎が。死ね! 阿呆が! 死ね! くたばれ!
そう罵倒して、気付くとその場から駆け出していた。
コースケや中島くん、ミユの声が聞こえた気がしたけど、気にせず店の外へ走る。お金はアイツに払わせておけばいい。ざまぁみろ、お前が悪いんだからな。
というか、どうせそんなことだろうと思ったよ。コースケの馬鹿! ゲロ吐いて幼馴染を守ってんじゃねぇよ! ファ●ク! ファ●カー! ファ●ケスト!
だから、あ~~~もう、やめろ、泣くな、私。
そして頼むから、いい加減終われ、終わってくれ、
私の、初恋。
■8月16日(火曜日)
気付けばあれから二週間が経ってた。
色々あったし、これからも色々あると思うけど、今日で日記を終わらせる。もう書かない。前のとか本当に酷い。いくらなんでも、これはない。読み返したら死にたくなる。これからもっと酷くなりそうだ。だから、ここで終止符を打つのだ。
コースケと付き合うことになりました♡
ほら、さっそく酷いよ。ハートはないだろ私。キッモ! 私キッモ!
だから、はい、おしまい。