有限の時間や気力を有意義に使うのは極めて難しい。 また、個人が蓄積した知識を管理するのもかなり難しい。 学部生活が終わりに近づき、院生活が見えてきた頃、タスク・知識管理をするモチベーションには以下のようなものがあった。
- 鬱を罹患して使える気力が少ないため、気力を有意義に使いたい。
- 会社に勤めながら研究をすることになるため、どちらにおいても使える時間が少なく、時間を適切に使いたい。
- 自分の記憶だけで予定管理をするとダブルブッキングが遅延が多発する。
- 自分の記憶だけで知識を持つようにすると知識の蓄積の効率が悪い。
鬱を罹患していたり、社会人学生をしているのは比較的特殊な事情だが、「やりたいことに対して気力も時間もまるで足りない」という状況はかなり普遍的だと思う。
このブログでは、M1からD2現在までの4年半をかけてどんな「タスク・知識管理OS v15」を構築したか、どのように段階を踏んでそれを構築したかを記録しておく。
特に、「今どうなってるか」だけでなく「ゼロからどのように習慣を構築したか」はあまりネットにない記録だと思う。このやり方は、複雑でコストのかかる習慣を構築したい人のほとんどにとって参考になるだろう。
現在どうしているか?
複数のツールを組み合わせて包括的にタスク・知識管理をしている。
todoist: 短期タスク管理
直近1,2週間でやるタスクの大部分を入れている。どのくらい大部分かというと、食事とかシャワーを浴びるとか寝るとか以外のほぼ全部である。なので、一日のタスクが終わったら何をしてもよい自由時間になる。
9割以上を繰り返しタスクにしており、「取り掛かるときに」完了チェックをつけている。(終わらなかった場合はタスクを入れなおす)
自由時間のときもやることを決めたら一瞬だけタスクを入れて完了チェックをつけている。ここらへんの挙動はGetting Things Doneというテクニックを参考にしている。
タスクは4段階に優先順位をつけており、(気分が乗らないとか物理的に実行不可能なときでなければ)基本的には上から順番に処理をする。
また、「何をもって完了したか」ではなく、「タスクやるときの最初の30秒でできること」をタスク名にしている。(完了条件は説明に書いている)こうすることで取りかかる際の心理的な障壁を少し下げている。
toggl track: 時間記録
何をいつからいつまでやったのかを記録している。todoistと連携して、タスクを始める時にtodoistの画面から記録を開始したり終了したりすることができる。
feedback sheet: リソース配分フィードバック
toggl trackで記録された時間をもとにgoogle spreadsheetで曜日ごとにどのくらい何をすべきかを計算する。(例:火曜日は学究関連でn時間費やすべきである、など)
情報の取得や計算はgithub actionsとspreadsheetで自動的に行われる。
pomofocus: ポモドーロ(集中時)
比較的長時間まとまって時間をかけて集中したいときは気力の枯渇を防ぐためにポモドーロを回すことがある。
obsidian: 知識ストレージ
テキストベースの情報はobsidianでで管理している。そこそこ軽量でオフラインでも動き、プラグインによる拡張性も高いので便利である。
特に何も制約は付けずに、情報をフォルダで構造化するのではなく、リンクで構造化するようにしている。
デバイス間同期はinfinicloud(webdav)をバックエンドにしたRemotely Saveで行っている。
このブログ記事もobsidianで書いているし、長期的な計画のタスク管理などもこれで行っている。
google keep: 知識キャッシュ + 長期リマインダー
思いついたものをさっと記録したいときに実はobsidianはやや起動が遅く、google keepの方が速いのでそっちを使っている。obsidianへの転記は時間があるときにタスクを積んで行っている。
また、todoistに全部入れてしまうと煩雑になってしまうような数週間~数年に一度発動すればいいリマインダーなどもgoogle keepで運用している。
zotero: pdf管理
言わずと知れた論文管理ソフトだが、pdf管理としても結構使える。デバイス間同期はinfinicloud(webdav)をバックエンドに行っている。
google calendar: ブロッキング予定管理
時間が決まっているタイプの予定はgoogleカレンダーにすべて入れている。どの時間がブロックされているかは会社の他の人間から確認できるようにしてあり、その中でも私用のやつは見えないようにしているはず......(やや自信がない)
v15までの過去の軌跡
段階的にやる
上の習慣は現時点のもので、M1開始直前時点では全く何も使っていなかった。
そして、これをそのまま一気に導入するのはおそらく無理だ。間違いなく負荷が高すぎて定着しない。
自分の場合、4年半をかけて段階的に15回のバージョンアップを経て、上の習慣を構築している。
習慣を構築する際に特に気を付けたのは以下のことだ。
- 習慣化したいものの負荷をとにかく下げ、定着してから難しくしていくこと
- 他のテクニックはこれに比べればすべて枝葉末節であるといっていい。時間はかかるが焦ってはいけない。
- スマホとPCの両方で使えるツールにする。
- 日常的にアクセスできるようにするために必要。
- 新しいツールに生活を適応させる。
- 生活を保ったままツールで便利さを上げるのではなく、ツールの良さを最大限引き出せるように自分の生活を改善していくという心構えのことだ。
- 完璧を目指さない。
- 完璧にしようと思うとツールに縛られてしまう。生活の改善はしつつ、それは段階的に行い、問題があったら対処するという柔軟な姿勢が必要だと思う。
過去の履歴
ということで過去の履歴を見ていく
v1 タスク管理
最初にtodoistですべてのタスクを入れることを目標にした。思えばこれが一番構築に時間がかかった習慣な気がする。優先度はまだこの時点では入れていない。
v2 notion, v3 paperpile
知識管理を導入した。これにより、ある程度頭を空っぽにしても行動はできるようになった。
v4 時間記録, v5 単純フィードバック
時間を記録し、記録を分類する。複雑な計算をしなくても、学究と労働の時間を1:1に保つのは実はそこまで難しくない。
v6 カレンダー管理
会社の都合でカレンダーの運用体制を整えた。修士課程はここらへんで終わった。
v7 複雑フィードバック, v8 フィードバック自動化
博士課程になり、学究の割合を増やす必要が出てきたため、1:1でフィードバックするような単純な方法は使えなくなった。また、日によってどのくらい活動すればいいのかの目安がわからず、活動しすぎたり少なすぎたりしたため、フィードバックシートを構築し、時間記録と連結した。
最初は手動で転記や計算を行い、週一回更新していたが、今では自動化され、毎日更新されるようになっている。
v9 obsidian移行, v10 zotero移行
詳しい理由はここに書いてあるが、利便性の向上のため、obsidian + zoteroに移行をした。
v11 部分的ポモドーロ
適宜ポモドーロを回すようにした。まあまとまった時間が取れることは少ないのでたまにではあるが。
v12 タスクオフロード
実はこの時点まではすべてのタスクがtodoistにあったが、タスク数が多すぎてやる気が低下してきたため、直近で必要でないものをobsidianに隔離して必要に応じてタスクを錬成する方向性に切り替えた。
リマインダーについてはgoogle keepに移動した。 todoistやgoogle keepからobsidianにリンクを張ることができるので、実現は難しくなかった。
v13 トリガータスク化, v14 優先度の導入
todoistの改善。これにより、「今現在の瞬間に気にすべきタスク」の数は1-2個程度まで減少した。「トリガータスク化」とは「タスクやるときの最初の30秒でできることをタスク名にする」ようにしたことだ。小さな変更だが、体感で倍くらいタスクにとりかかりやすくなった。
v15 記録キャッシュ
obsidianがもっさりしてきたので、とりあえず何か書きたいときはgoogle keepを優先的に使うようにした。
これから
いろいろやってきたが、まだ完全ではない。おそらく向こう何年かは改善が続くのだろう。直近で考えているのは以下のことだ。
LLMの補助を汎用的に使いたい
今までの習慣はリソース管理を最適化しているだけであって、自分の能力が拡張されたわけではない。まあこれでもリソース管理がないころに比べて1.5倍以上の生産性は達成できているが、自分が本当に欲しい水準には達していない。
体力を上げるのもそうだが、LLMなどで重要度の低い知的生産を補助できるようになるといいな~と漠然と思っており、今いろいろ試している。
長期的な計画が苦手なのどうにかしたい
今は基本的に空いた時間にできることを順番に消化しているだけであり、「いつまでにここまで終わらせる」というのは苦手としている。予測も難しい。 実際にやるのはともかく、予測はできるようになりたい。
使ってるツール多すぎなので減らしてもいいかも?
使ってるツールが多すぎてこれ自体が負荷になりつつあるので、統合的なwebアプリを自分で作って機能をまとめるのもありな気がしている。車輪の再発明を避けながらやるにはどうしたらいいんだろう......