シン・クロニクル外伝
『ギ・クロニクル』第二夜
終了
『ギ・クロニクル』は、セガのスマートフォン向けRPG『シン・クロニクル』の外伝コンテンツとしてTwitterを利用して多人数で楽しむ「人狼」風ストーリーエンターテインメント企画です。
『狼』の恐怖を抱えて雪原を旅する6人の男女の運命は、時折発生するTwitterアンケートの結果によって大きく分岐し、多様な結末に辿り着きます。
想い、感情、謎、そして「ギ」がつむぐ唯一無二の物語体験を、心ゆくまでお楽しみください。
ただ、忘れないで下さい。ここは「シン・クロニクル」の世界。
最後にはきっと、涙と血に濡れた「決断」と「選択」から、誰も逃れられないということを。
リアルタイム実況:芹澤 優
電ファミニコゲーマーのTwitter スペースにて同日実施
Twitterスペースをお聞きの方へ:
本コンテンツはリアルタイムの興奮をみなさんと共有するため、声優さんにもあえて脚本を事前にお渡しせず、皆さんとおなじ画面を直接読んでいただいております。
そのため、つっかえや読み間違え等が発生することがあります。
ご不便をおかけしますが、コンテンツの性質としてご承知いただければ幸いです。
発端
ここはヘルドラ最北部、
一年を通じて雪と氷が閉ざす、
過酷な場所。
限られた居住地を除けば
人の生存すら困難な、
吹雪荒れ狂う、死の荒野……
その外れを、
銀色の薄闇に隠れて進む、
ぼろい旅装の一団があった。
「くっ……この吹雪では、
先に進むのも一苦労ですね……」
牢を破った、逃亡者たち。
それが一団の……
僕らの正体だ。
僕らはただ、辺境の『村』で
平和に暮らしてた。
なのに……突如襲われ、
囚われ、虐げられた。
だから脱走したんだ。
『村』の巫女である、
ビョルカさんの導きで。
「ビョルカさん、
無理しないでください!
『護符』があるとはいえ、
こんな吹雪!
女性の身にはきついはず!
どうかこの愚鈍で汚いゴミムシ
童貞野郎を存分に風避けとして
お使いくださィイイ!!!!!」
「いいえフレイグ!
脱出を提案したのも、
皆さんを危険に
晒しているのも私です!
北方騎士団の砦に着くまで、
せめて自ら風を切って
進む所存です!!
あといつも言ってますが!
卑屈はほどほどに!!」
「じゃがのうビョルカ!
風ならともかく、
いきなりバケモンが出たら
どーするんじゃ!
小僧なら多少手足がもげても
平気じゃ!
迷わず小僧を盾にせい!
つべこべ言うとわしゃ小僧に
何するか分からんぞ!」
「手足がもげて平気なわけあるか
サイコジジイィィ!!!
アンタどう転んでも僕を
痛めつける気まんまん
じゃねーかァア!!!」
「当たり前じゃ!!
わしらのビョルカに
最底辺からの異常接近の数々!
ガキならまだ可愛げもあろうが
きさまの歳だと犯罪じゃぞ!!」
「失礼なこと言うな!
僕はただビョルカさんへの
有り余る敬愛の心で
あらゆる苦痛や屈辱をスルー
できる特殊体質なだけだ!!」
【CRITICAL HIT】
「ぎゃああああ!!」
「痛がっとるじゃないか
未熟もん!
敬愛の心とやらを
鍛え直して出直せィ!」
「誰がてめえなんか敬愛するか!
待ってろジジイ今テメーの人生
出直させてやる──」
「ウルじい、フレイグ、
まえ、まえっ!」
「なんじゃゴニヤ、
わしは今日という今日こそ
小僧を返り討ちに──」
ジジイともめてる場合
じゃなかった!
隊列の正面から現れたのは
立ち上がる巨大なクマ。
僕の倍ほどもでかい。
僕は咄嗟にビョルカさんの
前に出た。直後、
そいつの牙と爪が
雪崩のように
僕の眼前に迫り──
──直後、爆発音。
2発。
頭のあたりのシルエットが
はじけ、反動でのけぞった
獣は、そのまま天を仰いで
倒れてゆく。
「頭腐ってるの。2人とも。
才能。ある意味。
この寒さで」
周りの吹雪より冷たい声。
それとともに、
きな臭い硝煙がよぎった。
うちの怖い女子が、
愛用の『銃』を撃ったんだ。
……僕らを客観的にみたら、
どう映るだろう。
うるさくて物騒な、
6人の脱走者たちを。
「老人は短気。あきらめてる。
フレイグ。言い訳不可。
糞以下。肛門野郎」
ヨーズは『村』で
ただ一人の女猟師だ。
歳は僕の1個下。
背は僕よりちょっと高い。
銃の腕前含め、
猟の才能は一級品。
猟師は寡黙なものだけど、
ヨーズはその程度がひどい。
口をきくのも面倒らしい。
あと、『村』でも際立って
口が汚い。
特に、僕に対して。
苦手だ。
「ムウ、ヨーズの言う通りじゃ!
ゴニヤ、ビョルカ、
すまんかったの!
つい熱くなってしもうたわ!
ゲハハハ!」
ウルヴルのジジイは、
僕ら6人の中では最年長だ。
『村』では唯一の鍛冶師
(かじし)で、農具の他に
ときどき武器も打つ。
僕の剣盾やもう一人の槍も、
ジジイ作だ。
荒っぽくて物騒なジジイ
だけど、気風のよさと、
女子供には優しいところが
頼りにされている。
でもいつか闇討ちしてやる。
「んもう!ウルじいったら!
フレイグがビョルカに
くるってるのは
いつものことじゃない!
へんひょうひゃひゃっひゃら
ひょおへんは──」
ゴニヤはジジイと
正反対の存在だ。
まだ10になったばかりで、
『村』では珍しく垢ぬけた、
お姫様みたいな女の子。
『村』では山菜とかを集める
手伝いをしてた。
その辺のものを拾い食いする
悪癖がある。
どこで見つけた。
その干からびたデカいトカゲ。
ウルヴルのジジイが慌てて
出させている。こういうとき
世話を焼くのは、ゴニヤを
孫娘のように甘やかしてる
ジジイの役目で、ゴニヤも
ジジイに一番懐いてる。
じじいは宿敵だが、
この光景の尊さは
認めてやってもいい。
「ヨーズ、ありがとう。
あなたに任せておけば、
前方の安全は確実です。
ウルヴルも、ゴニヤも、
皆のことを思う気持ち、
痛み入ります。
もちろんフレイグ、
あなたの献身にも、ね」
「我らの力と、
信心をもってすれば、
嵐も、獣も、
必ず克服できるはず!
がんばりましょう!
皆さん!
我らを虐げた巨悪の陰謀を
世に知らしめ、
新たな安息の地に至るため!」
これがビョルカさんだ!
清く正しく美しく!
その手の言葉全部が奇跡の結晶
となった我らが巫女!
彼女を『村』の人間ならみんな
愛さないでいられないし彼女も
また皆を愛してるからこそ僕ら
はこの苦難にあっても強く団結
できているわけですよ全く!!
これを『びょるびょるしてる』
と表すことを僕は提唱してるが
全員からスルーされており全く
もって不敬かつ不効率だと思う
がどうか。もっと積極的にびょ
るびょるしていくことで結束と
生存の可能性がさらに深まるこ
とは自明だと思うわけだけど。
僕は誰に熱弁しているんだ。
「ウオオオオー!!
がんばりましょう!!
がんばりましょう!!」
疑念をかき消すため
いっそう声援に熱をこめる、
これが僕、フレイグだ。
役目は、見習いの『勇士』。
いざというとき、剣と盾で
『村』を守る役目だった。
心配いらない。
何も見えてないわけじゃない。
みんな苦笑しつつもノッて
くれてる。
僕は許容されている。
(糞虫噛み顔のヨーズ以外は)
『村』では一切のもめごとが、
特に暴力が嫌われていた。
勇士を見る目も、常に厳しかった。
だから、
ちょっとふざけた振る舞いと、
巫女への絶対忠誠の態度が、
適切となる。
示す必要があるんだ。
剣と暴力が、
巫女の完全な手中にあると。
ひとしきり騒いだのち、
隊列は再び動き出す。
すかさずビョルカさんは歩調を
落とした。
最後の一人と話すためだ。
僕もさりげなく近くに行く。
ビョルカさんを不意の襲撃から
守るのが僕の役目であり
他意は一切ない。
僕は誰に熱弁しているんだ。
「──もちろん、あなたもです。
レイズル。
フレイグともども、
いつも、頼りにしていますよ」
「オッ嬉しいね~。
つって気を使わなくても
いいけどな。
俺とフレイグは、
そういう役回りなんでね」
僕ら6人の、最後のひとり。
隊列から少し離れ、
最後尾を警戒していた、
レイズルさんだ。
暴力や血なまぐさい行いを、
嫌う『村』で、僕同様に、
レイズルさんも汚れ仕事を
担ってたと聞いてる。
詳細は、僕も知らない。
とても微妙な、
難しい役目なんだろう。
「ま、俺の槍は
ヘタクソだかんな。
さっきのフレイグを見習って、
いざとなったら
ちゃんと肉の壁やるさ。
でもフレイグ、
お前はちゃんと戦えるだろ?
ジジイ作の立派な盾が
あんだからさ。
まずは構えようぜ?」
「……そうだった。
肝に銘じます」
真顔で応えると、
レイズルさんは笑って
僕の肩を叩き、
激励してくれた。
小さい頃からレイズルさんには
頭が上がらない。
これが、僕ら6人。
『村』の生き残りの、6人だ。
「……ようやく晴れてきた。
あーあ、全身雪まみれだよ」
僕らの持ち物の大部分は、
牢のやつらの倉庫から
かっぱらったものだ。
武器はなんとか、元の持ち物を
見つけられたけど、
あとは得体のしれないボロ着を
着るしかなかった。
魔術のチカラで辺りを照らす
ランタンも手に入れたけど、
こんなのよそじゃありふれた
シロモノだろう。
そんな装備でも何とか
旅を続けられるのは、
倉庫で『雪渡りの護符』を
手に入れたおかげだ。
この魔術の品を持つ一行は、
極寒の地でも凍える心配が
ないらしい。
魔術ってそんなに便利なもの
だっけ?
ランタンとは比べ物にならない
シロモノに思えるけど……
詳しくないから分からない。
使えるものは使うだけだ。
問題なのは、この『護符』、
開封後3日ほどしか
持たないらしいってことだ。
北方は広い。
3日で抜けるなんて不可能だ。
だからどこか、
友好的な人里に辿り着いて、
まともな装備を手に入れる。
これが当座の目的だ。
「……そこから更に南下して、
ヘルドラ大陸の真ん中。
境界騎士団の砦こそが、
我らの目的地です。
『奈落』との戦いの最前線
ではありますが、あそこなら、
『村』をなくした我らでも、
受け入れてくれるはず」
「まあ、そうなのね!
でるときはあわててたから、
ようやく知れたわ!
ふふっ、
ゴニヤもたたかうのかしら?
フレイグみたいにいさましく?
ヨーズみたいに心ゆかしく?
レイズルみたいに、
えっと、なさけなく?」
「駄目ですよゴニヤ。
レイズルもああ見えて、
一生懸命やってくれて
いるのです。
まあその、さすがに
ユキネズミに噛まれて
狩りから逃げ帰ってきた時は、
ちょっとどうかなと
思いましたが……」
「安心せい、
ゴニヤに戦いなんぞさせん。
戦場には戦うほかにも
仕事があるもんじゃ。
わしが釘やら何やら打って、
ゴニヤはお運びでも
すりゃあええ。
いざとなりゃ、わしが戦って
守ってやるからの、ゴニヤ~!」
「まあ、ウルじいってば、
ゴニヤをいつまでも
子どもあつかいするのね!
ゴニヤだってたたかえるし、
色々できるわ!
けがのお手あてとか、
酒場のお手つだいとか……」
「バカを言うでないわい。
酒場で娘が働くなんぞ、
そりゃあ大変じゃぞ!」
『護符』の力があるとはいえ、
道行きは辛く険しい。
それでも僕らは、
この試練を、明るく元気に
乗り越えようとしている。
なのに、なぜだろう、
この胸騒ぎは。
「汚物人間」
「僕の呼び名だとしたら
絶対やめてくれ。
……なに、ヨーズ」
「予感がする。嫌な。
獣とかじゃない。多分。
その。気を付けて。一応」