きっかけは些細なことでした。『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』で遊んでいたときに、ふと気になったんですよね。
この広大なハイラルにどれくらいの「こじらせゲルド族」がいるんだろうって。
だってゲルドの街を少し歩いただけで、恋愛教室に通う人とか男性に振られて酔いつぶれる人とか三角関係になる人とか、こじらせている人ばかりが目に入ってくるんですよ。37歳・独身・恋人なしの私としてはとても他人事と思えないじゃないですか。
ということで、さっそく酒場で酔いつぶれているデルタンに話を聞いてみると、どうやら意中の男性がほかの女性と結婚してしまうとのこと。しかも、デルタンに「好き」と言っておきながら、身長などの容姿を理由に振ってきたらしい。
はい出ました、極悪人。厄災ガノンよりまずそいつを封印したほうがよくないか?
怒りに震えた私の右手が思わず背中のマスターソードを抜こうとしたとき、デルタンが「つぎに会ったらひねりつぶす」と言っていたので、そのときは大いに加勢したいと思いました。ゼルダも呼んだら来ると思う。
というかこれ、たぶんだけど、ほかにもこじらせてるゲルド族っているんじゃない…?
そう思った私は、どれくらいの「こじらせゲルド族」がいるのかを実際に自分で調べてみることにしました。ゲルドの街はもちろんのこと、この広大なハイラルにいるすべてのゲルド族ひとりひとりに話しかけて。
私のカウントによるとゲルド族は全部で75人。そのすべては、いわゆるNPC【※】と呼ばれるモブキャラです。それをスプレッドシートにまとめたものがこちら。
※NPC:「Non Player Character」の略称。通行人や商人などプレイヤーが操作しないキャラクターを指す言葉。『ゼルダの伝説』シリーズはNPCの設定がやたら細かい。
調べた項目は、「名前」、「髪型」、「服装」、「役職」、「出現場所」、「特性」、「ほかのキャラクターとの関係性」です。さらに、一部のキャラクターは本編が進むと出現場所や言動が変わってしまうため、3つの世界線から情報を集めました。
まず最初は、本編などをクリアしている平和な世界線。つぎに、新しくセーブデータを作成し、再び「始まりの大地」からゲルドの街へ向かった直後の問題が山積みな世界線。そして最後は、他言語との差異や名称を確認するために本体の言語設定を英語に変えた英語版での世界線。
事実確認のために撮影したスクショは約3000枚。道中いろんなドラマもありました。これはもはや私にとって、こじらせている仲間を探す旅──。こじらせているのは私だけじゃないと思いたい。そんな希望を抱きながら。
本稿ではゲルド族の実態を、恋愛編、戦闘編、服装編に分けて紹介します。しれっと嘘をついているキャラクターを見つけたときは、あまりの設定の細かさに震えました。
だってこれらの設定は『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の本編はおろか、ミニチャレンジ(サブイベント)にすら影響がない小ネタばかりなのですから。
文/柳本マリエ
※この調査は筆者が独自に行ったもので、抜け漏れなどがあったらすみません。加えて、筆者の個人的な感情が大いに含まれておりますことをご了承いただけますと幸いです。また、記事内で使用している『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の画像は、筆者が3000枚ほど撮影したスクリーンショットの一部です。本当はもっと貼りたいけど理性で抑えました。
男子禁制の掟を持つゲルド族は100年に1人しか男性が生まれない
まずはゲルド族の特徴をおさらいしておきましょう。
『ゼルダの伝説』シリーズにはさまざまな種族が登場します。王家に仕えるシーカー族、火山に住むゴロン族、水辺に住むゾーラ族、そして砂漠に住むゲルド族など、どの種族も個性的で目が離せません。
ゲルド族の特徴は、褐色の肌と赤い髪、そして「100年に1人しか男性が生まれない」という点です。ガノンドロフがそのひとり。加えて、同族以外の男性がゲルド族の縄張りに入ることは禁止されてるため、ゲルドの街はすべて女性のみで構成されています。
過去作品『ゼルダの伝説 時のオカリナ』でも、ゲルド族の縄張りに入ると見事な回転斬りで洗礼を受けました。今作では味方になっているため攻撃されることはないものの、ゲルドの街が「男子禁制」であることに変わりはありません。
ところがそうなると、けっこう深刻な問題が出てくるわけです。100年に1人しか男性が生まれない状況で、さらに同族以外の男性が縄張りに入ることも禁じられていたら、ゲルド族の女性は男性と接点を持つ機会がほとんどない。つまり、子孫を残せない…!
しかしながらここがゲルド族の歴史において大きなポイント。じつはゲルド族の女性は、年頃になると男性との出会いを求めて外の世界へ旅に出る風習があります。
その風習は「ヴォーイハント」と呼ばれるもの。ダイレクトに好みの男性を探しに行く人もいれば、運命の人と出会えると言い伝えられている伝説の聖地「ラブポンド」を探しに行く人もいます。
そういった風習が受け継がれている影響で、ゲルド族の女性は日頃から自分磨きを怠りません。運命の男性に出会うことを夢見て、恋愛教室や料理教室に通う人もいるほど。
そのためゲルドの街はエステサロンや宝石の加工など独自のビジネスで栄え、小さな子どもからお年寄りまで恋愛の話ばかりしています。
ちなみに私がどうしていまこのタイミングで執筆しているのかというと、最近になってようやく『ブレワイ』を始めたからです。発売から5年以上も遅れて。
こんなに遅れてしまった理由については、最後に少しだけ弁解させてください。
そんなわけで世界中が5年前に味わったであろう感動を、私はいまこうして噛みしめています。このゲーム、神ですね…!
恋愛教室に通う生徒の「嘘」はひと握りのプレイヤーに向けた「ボケ」
今回の「こじらせゲルド族」を見つける調査で特に興味深いと思った出来事は、ゲルドの街で恋愛教室に通う生徒リッスンのとある発言でした。
リッスンは「恋のABCレッスン」を受けると、帰宅後に自宅で人形を相手に男性との会話を練習します。そのときに「ウチはお酒に弱い家系」と言っているのですが、じつはこれが嘘である可能性が高い。
なぜなら、祖母のネルーが大酒飲みだからです。ネルーは夕方に起きると「寝起きはコレに限るわい」とお酒を流し込み、翌朝まで市場を物色。そこで話しかけると二日酔いに効くレシピや、お酒との食べ合わせについていろいろと教えてくれます。
そしてそれらはネルーが自分の母や祖母から直々に聞いたものとのこと。ということは、ネルーだけでなく先代からお酒を嗜んでいたことが伺えます。
リッスンがお酒に弱いかどうかは語られていません。しかしながら祖母のネルーの飲みっぷりを見る限り、少なくともお酒に弱い家系ではなさそう。
そのためリッスンの「お酒に弱い家系」という発言は嘘である可能性が高いです。
私がこのリッスンの発言に興味を持った理由は、「お酒に弱い家系」という発言がひと握りのプレイヤーにしか伝わらない巧妙な「ボケ」だからです。
本件は、2人の関係性を認識していないとリッスンの嘘を見抜けません。なぜなら、家系に関することなので。ところが、その関係性は明言されていないんです。
ではなぜ私はリッスンの発言を嘘だと思ったのか。
関係性が明言されていなくとも、この2人が祖母と孫であることは間違いないと思っています。ここからは、私がリッスンの嘘にたどり着いた経緯を説明させてください。断片的な情報から、点と点がつながった瞬間を。
たとえば、よろず屋のテドゥーラは多忙な娘の代わりに孫であるカーラとマキュアの世話をしていることを話してくれたり、レンタザラシ屋のコームはフラジィが自分の娘であることを教えてくれます。
ところがリッスンとネルーからお互いの名前が出ることはなく、接触することすらありません。では、2人の関係性を裏づける手がかりはどこに…?
きっかけはリッスンの愚痴でした。ある日たまたま恋愛教室に向かう途中で話しかけたところ、恋愛教室はヴァーバ(おばあちゃん)から言われて通っていることを教えてくれます。
ここで初めてリッスンにおばあちゃんがいることを知ります。さらに別の機会では「ヴァーバが握った塩むすびが好き」ということも言っていました。
リッスンのおばあちゃん…? そんな人いたっけ…?
そこで、「家の前で待ち伏せしていれば会えるかもしれない」というやや危険な発想のもと、24時間ほど張り込みをしてみました。
現れたのはネルーでした。この家に出入りしていたのは、リッスンとネルーの2人だけ。家の中にはベッドが2つあり、ネルーはそのうちのひとつを使用して寝ています。
以上のことから、2人は同居している家族(祖母と孫)で、リッスンが言っていた「ヴァーバ」はネルーを指していると考えられるのではないでしょうか。
こうして2人の関係性が明らかになると、私の脳裏には矛盾する2つのシーンが浮かびました。
ひとつは、寝起きのネルーが酒場で豪快にお酒を流し込んでいる姿。そしてもうひとつは、恋愛教室から帰ったリッスンが人形相手に「ウチはお酒に弱い家系」と言っている姿。
お酒に弱い「家系」じゃないじゃんんんっっっ!!!(語気強め)
これが、リッスンの嘘にたどり着いた経緯です。
リッスンとネルーの関係性を知るまでは「お酒に弱い家系」と聞いたところで「そうなんだ」としか思いませんでした。だからこそ関係性を知ったときに驚いたわけで。
嘘といっても人形相手に男性との会話を練習しているだけなので、だれかを騙しているわけではないですが。
リッスンはこのほかにも、「さりげない天然アピール」や「家まで送ってくれた男性の誘い方」などの練習もしていました。これはだいぶこじらせてるぞ。
ちなみに嘘つながりだと、よろず屋のアージュも商品のキノコが完売すると嘘をつきます。実際には完売して目の前に商品がないにも関わらず、「美人にしか見えないキノコ」と言って堂々と売っていました。
そしてそれにネルーが引っかかっています。かわいい。
このように断片的な情報を集めていると、ほかのキャラクターとの関係性や隠された真実(?)を知ることができます。繰り返しますが、これらはすべてNPC(モブキャラ)。設定が細かすぎて興奮しませんか?
この調子で本当に本編に影響のない小ネタを拾っていきますよ。
三角関係に全身スーツの「妖精さん」が絡んでる…? 「偽名」の真相は…?
つづいては、リッスンが通う恋愛教室の講師ワーシャと、宝飾屋のオーナーアイシャの三角関係について。どうやらこの2人は男性を取り合った過去があるとのこと。
この時点ですでにおもしろいです。これは昼ドラ並みの泥沼劇が期待できるのではないでしょうか。
まずワーシャとアイシャに関しては、明らかにほかのゲルド族と見た目が異なります。ワーシャはゲルド族でひとりだけ髪の色がピンク。アイシャに限ってはもうなにもかもが特別すぎて。さすがに凝りすぎでは?
ワーシャとアイシャの三角関係については、アイシャがオーナーを務める宝飾屋「Star Memories」の従業員マッカラの証言によるもの。
マッカラは三角関係のほかにもアイシャについての秘密をいろいろと教えてくれました。
「なにもしていない」と言いながら週1でエステに通っていること、寝るときはアクセサリーしか身に着けないこと、「アイシャ」は偽名で本名は「ジュエル」ということ、など。
えっ、偽名…? ちょっと情報量が多すぎない…?
まずは三角関係について整理しましょう。
気になるのは相手の男性です。ワーシャは「講師」でアイシャは「オーナー」というキャリアを持つ2人なので、相手の男性も経営者あたりでしょうか。もしくはスポーツ選手とか。あるいは研究者だったり…?
ところが相手の男性は、経営者でもスポーツ選手でも研究者でもなく、「天才シェフ」であることが発覚します。ワーシャの生徒ディショーナの証言によると、ワーシャが愛した相手は天才シェフのラ・タームという人物とのこと。
ということはおそらく、ラ・タームをめぐってワーシャとアイシャのバトルが勃発したのではないかと思われます。なるほど、シェフね。シェフはあり得る。
この街はおしゃべりな人が多くて助かります。
しかしながら、このラ・タームという人物の正体はチンクルかもしれない、という疑惑が浮上するまでそれほど時間はかかりませんでした。つまり、ワーシャとアイシャはチンクルを取り合っていた可能性があります。
そう、よりによってあのチンクルを。
チンクルは、『ゼルダの伝説』シリーズに登場する全身スーツの変態です。「妖精好き」、「無職」、「35歳」などの特徴があり、ラ・タームが残している料理手帳にそれらを示唆する内容が書かれていました。
天才シェフと呼ばれているということは無職ではなさそうですが、手帳内でお金の工面の仕方にやたら詳しい記述があり、過去に無職であったことを彷彿とさせます。
チンクルはスピンオフ作品『もぎチン』こと『もぎたてチンクルのばら色ルッピーランド』で「ルピーが尽きると命も尽きる」という非情な宿命を背負っていたこともありました。
以上のことから、ラ・タームの正体がチンクルである可能性は高いと考えられます。しかし、それを確かめる術はありません。なぜならラ・タームはすでに亡くなっているとのこと。
ちょっとさっきから情報過多ですよね。亡くなっているということは、もしかして痴情のもつれ…? そうなると、放っておけないのがアイシャの「偽名」です。人が亡くなっていて、その関係者が偽名を使っていたら事件性を感じませんか。
アイシャは偽名について「宝飾屋でジュエルはそのまますぎて恥ずかしい」と周りに説明しているようですが、私としては、なぜわざわざその偽名を「アイシャ」にしたのかという点が気になっています。なんだか恋敵である「ワーシャ」に寄せているような気がして。
そもそも2人は本当に恋敵だったのでしょうか。ここまで設定が細かすぎると、「じつは姉妹でじつは共犯」みたいな2時間サスペンス的展開を期待してしまいます。
残念ながら、ラ・タームに関してはこれ以上の情報が出てこなかったため、三角関係がどのようにして幕を閉じたのかは不明です。しかしワーシャとアイシャがなんらかの秘密を抱えていることは確かでしょう。歯切れが悪くてすみません。