なぜジャパンC夢の3強対決は名勝負になったのか?
最強3冠馬3頭が相まみえた「世紀の大一番」第40回ジャパンカップ(芝2400メートル、G1)は単勝1番人気に支持されたアーモンドアイが有終の美を飾った。勝ちタイムは2分23秒0。自らの史上最多記録を更新する芝G19勝目(うち海外1勝)を挙げ、生涯獲得賞金でも歴代トップに立った。2着がコントレイルで3着がデアリングタクト。無敗の2頭の3冠馬にとって初黒星となったが、3強がワン・ツー・スリーフィニッシュを決める歴史的名勝負となった。
ルメール騎手が投げキッス
競馬の神様は世紀の一戦に最高のシナリオを用意していた。3強のための3強によるドリームマッチだった。 最後の直線。クリストフ・ルメール騎手が左手で鞭を入れたのは、ラスト200メートルになってからだった。アーモンドアイの勝負魂にスイッチが入った。前を行く2頭を力強い反応で抜き去り、ラスト100メートルでアーモンドアイがトップに立った。追うコントレイルを寄せ付けずにゴールを切った。2着には1馬身1/4差届かずディープインパクト最高傑作と言われ史上初の父子無敗3冠を達成していたコントレイル。そして、狭い場所から割って出て意地の鼻差で3着を確保したのが牝馬3冠のデアリングタクトだった。 「引退レースに勝てて凄くうれしい。さすがアーモンドアイ、素晴らしい脚を使ってくれた。彼女はすべてでプロフェッショナルなので自信はありました。絶対、日本で一番強い馬です。きょうはサヨナラパーティーでした。3年間、大きなレースを勝ち続けた彼女に感謝したい」 大仕事を終えたルメール騎手は投げキッスでファンの歓声に応えた。涙でむせんだ天皇賞・秋のレースとは一転、笑顔を振りまいた。 なぜアーモンドアイは勝てたのか。そして、なぜドリームレースは3強決着の名勝負となったのか。
スタート前にアクシデントが起きた。フランス馬のウェイトゥパリスが興奮し、尻っぱねをしてゲート入りを嫌がり、発走が5分ほど遅れた。不穏な空気が漂ったが、それも束の間。アーモンドアイはトップスタートを決めると、ハナを主張したキセキの直後に収まり、ピタリと折り合った。 実は、ここでルメール騎手は外に持ち出すことをせずに馬場の荒れたインコースをあえて選択している。足への負担よりも省エネコースを選び、そして何より、前に馬がいる位置を選ぶことでアーモンドアイのはやる心をコントロールしたのである。 キセキの大逃げで1000メートル通過は57秒9のハイラップ。3強の隊列はアーモンドアイ、デアリングタクト、コントレイルの順となった。 一方、コントレイルとデアリングタクトは、対照的に道中、外に持ち出して荒れていない馬場を選んでいる。 競馬評論家の棟広良隆さんも「意外に3頭がけん制し合わず、それぞれが自分の競馬に徹していた」という。 コントレイルの福永祐一騎手がレース後に「一番プレッシャーがないところで走れていたし、道中もリラックスしていい形で脚をためることができた」と振り返ったようにマイペースで最後の直線を迎えた。デアリングタクトの松山弘平騎手も「折り合いはついていた」と言う。 だが、キセキが20馬身ほど引き離して4コーナーを回ったところからドラマが待っていた。 その名の通り奇跡を予感させたが、名勝負のお膳立てをしたに過ぎなかった。ロスなくインをピタリと回っていたアーモンドアイは、ラストの直線を迎えるとルメール騎手はグローリーヴェイズの外へ持ち出した。馬場のいいポジションに進路を確保すると満を持してストライドをのばした。 プレッシャーのかからない好位の外からコントレイルが追うが、ここで「最後に苦しくなった。左にモタれて走っていた。馬が苦しそうだった」(福永騎手)という場面があった。