『虎に翼』雲野の死、認知症、更年期障害も “老い”に向き合う吉田恵里香の脚本
最終回まで残り1カ月を切った『虎に翼』(NHK総合)。第111話では、寅子(伊藤沙莉)が裁判官となって以来、一番の難件と言えるであろう原爆裁判の口頭弁論がついに始まる。 【写真】弁護士として裁判に立つよね(土居志央梨) 前回から4年の月日が流れ、直明(三山凌輝)と玲美(菊池和澄)の間に第一子が誕生。ますます賑やかになった猪爪家では、道男(和田庵)が仕入れから全て任せてもらった寿司を囲んでの祝宴が開かれる。優未(毎田暖乃)は高校生、直人(青山凌大)は司法修習生となり、プロのサックス奏者を目指す直治(今井悠貴)も演奏の機会が少しずつ増えていた。大学生だった星家の長男・朋一(井上祐貴)も今や長崎地裁で判事補をしている。 子供たちが目覚ましい成長を遂げていく中で、百合(余貴美子)には物忘れの症状が見られるようになっていた。孫であるのどか(尾碕真花)の名前がパッと出てこないこともあり、不安を募らせる寅子。そんな寅子も疲れやすくなっており、夏でもないのに一人だけ扇子を仰いでいる。おそらく更年期障害の症状だろう。 更年期障害とは、女性ホルモンが著しく低下することで起きる様々な不調のこと。生理痛と同じく女性にとっては避けて通れない問題であり、脚本家の吉田恵里香はおそらく仕事や日常生活に与える影響もストーリーに盛り込んでくるはずだ。この第23週は、更年期障害も含めた“老い”との向き合い方が一つのテーマとなるのではないだろうか。 自身も老いを実感する中で、寅子は雲野(塚地武雅)が亡くなったという報せを受ける。雲野が原告代理人として携わっていた原爆裁判の約4年にも及ぶ準備手続きが終わった矢先の出来事だった。事前に「私にもしものことがあったら……」とよね(土居志央梨)や轟(戸塚純貴)に協力を依頼していたことからも、以前から自分の健康に不安があったのかもしれない。 だが、年下の岩井(趙珉和)が過労で倒れるほどハードな業務をこなし、死の直前も「まだまだ働かねば」と自分に気合を入れ直していたというのに。「わたしはおにぎりが大好きなんだ」という塚地が『裸の大将』(フジテレビ系)で演じた山下清を彷彿とさせる台詞に笑顔が溢れたのも束の間、雲野は梅子(平岩紙)が握ったおにぎりを持ったまま倒れ、そのまま帰らぬ人となってしまった。 ドがつくほどのお人好しで、自分がたとえ損をしても困っている人を助けることの方を優先してきた雲野。その温かみのある人柄に加え、実績もある彼の死は大きな痛手だった。原爆裁判の原告たちは不安がり、岩井もすっかり気力を失ってしまう。けれど、雲野は最期の瞬間まで、原爆裁判をきっかけに国に対して損害賠償を求める流れが生まれるのを何としてでも阻止しようとする政府と戦おうとしていた。その意志を遺された人たちは受け継いでいかなければならない。 寅子にとっても雲野は恩人だが、「判決に難癖をつけられては困る」というよねの言葉を受け、葬儀には参列しないことを決める。岩井も「あなただって雲野先生の意志をこんなところで途絶えさせたくないはずだ」という轟の訴えにより気持ちを立て直した。そして、日米安保条約の改定により日米の協力体制が強化された翌月の昭和35年2月、原爆裁判の第1回口頭弁論が始まった。 岩井が訴状の骨子を陳述する中、傍聴席に座ったのは記者の竹中(高橋努)だ。彼もまたすっかり年老いており、『あさイチ』(NHK総合)の“朝ドラ受け”ではMCの博多大吉も驚いた様子で「てっきり寿司屋さんが出てきたのかと思いました」と傍聴が趣味の笹山(田中要次)と勘違いしたことを明かしていた。その笹山だが、寅子が彼の名前を出した時に道男の顔が一瞬曇ったのも気になるところ。長らくの間、姿を見せていない笹山もかなりの高齢だろう。果たして元気にしているのか、多方面に心配の種がばら撒かれた回だった。
苫とり子