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クドカン脚本『新宿野戦病院』の違和感の正体 “フジテレビらしいドラマ” リアリティと社会性が薄い?

武井保之ライター, 編集者
フジテレビ『新宿野戦病院』公式サイトより

宮藤官九郎がオリジナル脚本を手がけることで注目される『新宿野戦病院』(フジテレビ系)が第2話まで放送された。クドカン脚本ドラマといえば、ここ最近とくに話題作が続いていたが、本作の出足は少し違うようだ。

クドカンへの期待値が高かったためか。それとも本作の物語の舞台とそのテーマ性から予想していた内容とずれているのか。その違和感の正体を考えてみる。

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昔懐かしいテレビドラマの笑いの匂い

本作は、第1話のスタートから外連味あふれるドタバタコメディ要素が全開だった。歌舞伎町の酔っ払いのケンカ、外国人のから騒ぎ、パパ活の話題ではしゃぐおじさん医師たち、酔っ払ってゴミ置き場にダイブするヨウコ・ニシ・フリーマン(小池栄子)などなど。そのどれもが軽くてベタ。昔懐かしいテレビドラマの笑いの匂いがプンプンしていた。

新宿・歌舞伎町の病院が舞台になる物語であれば、トー横キッズや大久保公園を含めたその界隈で起きている近年の社会問題に切り込んでいく、社会性の高いドラマを期待していた視聴者は多かったことだろう。

劇中では、大久保公園に立つ未成年の家出少女たちや、ホストに貢ぐために風俗で働く女性、家庭内での未成年への性的虐待を匂わすくだりなど、実際にそこで起きているだろうことは映している。

ただ、それが表面をなぞっているだけで、そこから切り込んでいかない。オーバードーズした少女や、銃で撃たれた外国人、ビルから転落したホストなどのライトなヒューマンストーリーと懸命の治療を施す医療ドラマのほうに入っていく。どっちつかずの印象なのだ。それが、近年のクドカン脚本ドラマとは異なる違和感につながっている。

アウトロー・ヒーローのドタバタコメディ

令和の過剰なコンプラ社会を昭和おやじが物申した『不適切にもほどがある!』(TBS系)は、阿部サダヲと河合優実が巻き起こす笑いがあり、昭和と令和それぞれの社会へのメッセージがあった。

『季節のない街』(テレビ東京・ディズニープラス)は、災害から12年を経てなお仮設住宅で暮らす人々と、その街のあり方を痛切に描き、さまざまな事情を抱える住民たちの苦悩と再生を痛みをともなう喜劇として描いた。

クドカンと大石静が脚本を手がけた『離婚しようよ』(Netflix)は、不倫した政治家を主人公にしたホームコメディだが、さまざまな事情により離婚への道は険しく、国政選挙の裏側とW不倫のドタバタが同時進行する様をおもしろおかしく描いた。そこには、生き方そのものへのメッセージがあり、夫婦の結末にはカタルシスがあった。

『新宿野戦病院』がこれらのドラマと異なるのは、リアリティと社会性の薄さだろう。登場人物たちのキャラクターの多くがベタであり、ツッコミどころ満載。リアルをともなわない軽さがある。

本作のこのカラーやテイストは、“フジテレビらしいドラマ”と感じる。ドラマ制作の全体の指揮を執るプロデューサーが目指す方向性なのだろう。舞台的な会話劇を多用したアウトロー・ヒーローのドタバタコメディ。それが本作の本質と感じる。

社会の平等にどう切り込んでいくか

そんななかで、小池栄子が光っていた。岡山弁と英語を巧みに操るバイリンガルで、気が強く豪快な性格の日系アメリカ人医師というキャラクターを見事に体現し、ドラマをけん引していた。『ふてほど』の阿部サダヲのように、ドラマの核を担うキーパーソンになっている。彼女ならではの緩急のある持ち味が十分に発揮されており、ドラマの命運がかかるキャラクターだ。

まだドラマははじまったばかり。NPO法人・Not Alone新宿エリア代表の南舞(橋本愛)は「この社会は平等ですか?」と美容皮膚科医・高峰享(仲野太賀)に問いかけていた。本作のテーマは平等になるのだろう。

医師にとって患者は平等かもしれないが、歌舞伎町という街は格差にあふれている。これから社会の平等にどう切り込んでいくのか注目される。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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