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木村昴の『クラスメイトの女子、全員好きでした』がある点でこの夏一番のドラマだったわけ

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

この夏イチのドラマ『クラスメイトの女子、全員好きでした』

この夏、木村昴のドラマ『クラスメイトの女子、全員好きでした』から目が離せなかった。ある意味、この夏一番のドラマでもあった。

『クラスメイトの女子、全員好きでした』は、そのタイトル通りに、主人公が中学一年のとき、クラスメイトの女子が全員好きだったというお話である。まあ、タイトルと主演を見て、ふつうの大人ならあまり見ようとしないだろう。

ドラマ好きならなかなかちょっともったいない。

主人公は剽窃して小説を書き上げる

物語は、25年前からの間違った届き物から始まる。

現在38歳の主人公枝松スネオ(木村昴)は、25年前の中学一年のとき、校庭の片隅にみんなとタイムカプセルを埋めた。主人公は「グチ(愚痴)ノート」を入れたはずなのに、25年後に送られてきたのは女子の字で書かれた『春と群青』という小説ノートだった。

現在アルバイトをしながら小説家をめざしている彼は、悪いとはおもいつつ、その小説から多くを剽窃して、一作を書き上げる。

投稿すると、それが新人賞を取って話題になり、直川賞まで取ってしまう。

大変なことになった。

謎の作者を探す

いきなり注目される作家となり、注目の小説となったのだが、オリジナルは中学同級生の誰かの作品である。

もし当人が名乗り出たり、出版社に訴えてきたら、小説家としての身の破滅である。

受賞直後に担当になった編集者(新川愛優)も事情を知っていながら、全方位ダマでやりすごそうとしている。先に本物の作者を見つけ出してしまえば何となかなるだろうという目論見だが、全然、うまくいかない。

主人公は1人ずつ、クラスメイトと連絡を取り、小説を書かなかったかとそれとなく聞いてまわり、そのたびにその女子との中1のときのエピソードをおもいだす。

受賞後の新連載連作小説の内容という形で、それぞれの彼女のどういうところが魅力的だったのかを語って、物語が進んでいく。

ここがいい。

コメディでミステリアス

基本はコメディ展開である。

毎話、この子かも、と探るが、いつも違っている。

これは最終話までわからないやつだとおもいつつも、でも、途中で出た候補者が最後に改めて出てくることがあるから気をつけないと、とみていた。

それはもう、犯人探しミステリーと同じだ。

同枠前作は『約束―16年目の真実―』

この枠(日本テレビ系列木曜23時59分開始ドラマ)の前作は、中村アンが刑事役の『約束―16年目の真実―』というドラマだった。

こちらは1話ごとに殺人事件の容疑者が入れ替わり、登場人物がすべて怪しく見えて、途中で主人公さえも自分が犯人ではないかと疑うまでなり、犯人はいったい誰なのか、という古典的正統な引きでラストまで持っていた秀逸なドラマであった。

「それは誰なのか」で持たせるドラマ枠

前クールでは「連続殺人犯」は誰なのか、今クールでは「中一のときに小説を書いてタイムカプセルに入れた女子」は誰なのか、探す相手は変わりつつ、正統な引きでドラマを最後まで見せたところに「ドラマ枠」としての強さを感じる。

ちなみに次は飯豊まりえの『オクトー』の続編で、期待である。飯豊まりえはいい。

おもしろさの中心は「中学生の心」にあった

「それは誰」が気になりながら、ドラマのおもしろさの中心は「中学生の心」にあった。

中学生のときにしか抱かない特別な感情は誰しもおぼえがあるもので、その中学生心を突いてくる。

特に男子中学生心を突いてくるドラマであった。

そこが目を離せない。

ベルマーク千枚でキスさせてくれる中一女子

たとえば、一緒にベルマーク係にさせられた谷口さんは集めるのを面倒がって千枚集めたらキスしてあげる、と言ってきたこととか。(うう。魔女だ)

陸上部で仲良くなった橘さんが、プロレス技を練習したいというので振りまわされて投げられたらジャージと一緒に下着も脱げて下半身露出してしまったこととか。

バク転ができるようになったが、クラスで披露するのが恥ずかしくて一番大人しい女子の佐藤さんだけ呼び出して見てもらったら、静かに拍手してくれたこととか。

どれも中学の心がくすぐられて、なかなかにくすぐったくも、とても素敵である。

最終話で犯人が露顕

最終10話で、ついに小説を書いていた少女は誰だったかがわかる。

見ていて、おおお、と声が出てしまった。そういうドラマである。

おもったより、自分の中には「中学生のときの気分」が色濃く残っているものだなとおもう。

新川優愛の魅力が溢れるドラマでもある

出演者もいい。

木村昴は、まあ、いわば期待通りの仕上がりで、だからバディを組んでいる編集者の新川優愛がいい。

彼女は、すましている表情よりも、「あきれているとき」「怒っているとき」がとても魅力的な女優さんで、今回の役どころはだいたい、あきれているか、怒っているか、あとは落胆していることもあったけど、そういうシーンが多かったので、ずいぶんと魅力的に見えた。

同級生に剛力彩芽、野呂佳代、橋本淳、長井短

かつてのクラスメイト女子の現在(だいたい38歳あたり)を演じたのが、野呂佳代に、橋本淳、長井短、剛力彩芽などである。

それぞれになかなか味わいがあった。

やっぱ野呂佳代が出るとドラマが安定するというのがよくわかる。

見るときちんとおもしろかったドラマ

タイトルの『クラスメイトの女子、全員好きでした』というのは、いかにもバカ中学生が言いそうなセリフだし、しかも、それちょっと盛ってるだろ、というところがある。いや、全員じゃないよね、と言いたくなる。

でも、スネオは本当に全員好きだったみたいで、タイトルに嘘はない。まあ、バカそうなのはそのとおりだけれど。でもタイトルで客が引いていった可能性はある。

でも素敵なエピソードが連続していて、魅力的なドラマだった。

タイトルでは舐められていたがきちんと見るとちゃんとおもしろかったドラマとしては一番だとおもう。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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