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デュピルマブでアトピー性皮膚炎と長期戦!5年間の臨床試験結果を解説

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

【デュピルマブとは?アトピー性皮膚炎治療の革新的選択肢】

アトピー性皮膚炎は、再発を繰り返す慢性の炎症性皮膚疾患です。特に中等度から重度の症状を持つ患者さんにとって、長期的な治療が必要となることが多く、生活の質(QOL)に大きな影響を与えています。

近年、アトピー性皮膚炎の治療に革新をもたらしているのが「デュピルマブ」です。デュピルマブは、IL-4とIL-13という炎症を引き起こす物質(サイトカイン)の働きを抑える抗体製剤です。これらのサイトカインは、アトピー性皮膚炎の病態において重要な役割を果たしています。

従来の治療薬と異なり、デュピルマブはより選択的に炎症を抑えることができるため、全身性の副作用が少ないことが期待されています。日本でも2018年から使用が承認され、多くのアトピー性皮膚炎患者さんの治療に用いられるようになりました。

【5年間の大規模臨床試験で明らかになった安全性と有効性】

このたび、デュピルマブの長期使用における安全性と有効性を検証した大規模な臨床試験「LIBERTY AD」の結果が発表されました。この試験は、28カ国550施設で実施され、2677人の中等度から重度のアトピー性皮膚炎患者さんが参加した、過去最大規模のものです。

試験では、患者さんにデュピルマブを最長5年間投与し、その安全性と有効性を評価しました。当初は週1回の投与でしたが、途中から2週間に1回の投与に変更されています。

安全性に関しては、デュピルマブの5年間の長期使用において良好な結果が得られました。副作用の発生率は時間とともに減少または安定していました。最も多く見られた副作用は、鼻咽頭炎(28.9%)、アトピー性皮膚炎の悪化(16.7%)、上気道感染(13.6%)、結膜炎(10.3%)などでしたが、いずれも重篤なものではありませんでした。

特に注目すべき点として、従来の免疫抑制剤で問題となっていた重篤な感染症や悪性腫瘍の発生率が低かったことが挙げられます。また、アナフィラキシーなどの重篤なアレルギー反応も0.2%と非常に低率でした。

有効性の面では、驚くべき結果が得られました。5年間の治療を完了した患者さんの67.5%で皮膚症状がほぼ消失し(IGAスコア0または1)、88.9%で症状が75%以上改善(EASI-75達成)しました。また、かゆみの改善も顕著で、76.4%の患者さんで大幅な改善が見られました。

さらに、治療開始時と比較して、患者さんの平均EASIスコア(皮膚症状の重症度を示す指標)は16.39から2.75へと劇的に改善しました。これは、多くの患者さんがほぼ正常な皮膚の状態に近づいたことを示しています。

これらの結果は、デュピルマブがアトピー性皮膚炎の長期管理において、安全で非常に効果的な選択肢となることを強く示唆しています。特に、従来の治療では十分な効果が得られなかった患者さんにとって、デュピルマブは大きな希望となる可能性があります。

【日本人患者さんへの影響と今後の展望】

この臨床試験の結果は、日本人のアトピー性皮膚炎患者さんにとっても非常に重要な意味を持ちます。日本では、成人の約3%がアトピー性皮膚炎に悩んでおり、その中でも中等度から重度の症状を持つ方々は長期的な治療に苦慮しているケースが多いからです。

デュピルマブは、日本では現在、既存治療で効果が不十分な中等度から重度のアトピー性皮膚炎患者さんに使用が認められています。今回の研究結果により、より多くの患者さんがこの治療の恩恵を受けられる可能性が高まりました。

特筆すべきは、この治療法が長期的に使用できることです。従来の強力な免疫抑制剤や紫外線療法などは、長期使用による副作用のリスクが懸念されていましたが、デュピルマブはそのような心配が少ないことが示されました。

ただし、デュピルマブはすべての患者さんに適しているわけではありません。治療の開始には、皮膚科専門医との十分な相談が必要です。また、cost-effectivenessの観点から、保険適用の範囲についても今後の議論が必要となるでしょう。

アトピー性皮膚炎の治療は、薬物療法だけでなく、適切なスキンケアや環境調整なども重要です。デュピルマブを含む新しい治療法と、従来からの総合的なアプローチを組み合わせることで、より多くの患者さんのQOL向上が期待できます。

今回の研究結果は、アトピー性皮膚炎治療の新時代の幕開けを告げるものといえるでしょう。今後も、さらなる研究や新薬の開発が進み、より多くの患者さんが症状の改善と生活の質の向上を実現できることを期待しています。

参考文献:

Beck LA, Bissonnette R, Deleuran M, et al. Dupilumab in Adults With Moderate to Severe Atopic Dermatitis: A 5-Year Open-Label Extension Study. JAMA Dermatol. Published online July 10, 2024. doi:10.1001/jamadermatol.2024.1536

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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