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「野呂佳代が出るドラマにハズれなし」説は本当か?

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『西園寺さんは家事をしない』に出演中の野呂佳代 (C)TBS

 かつて『逃げるは恥だが役に立つ』を始め『カルテット』、『恋はつづくよどこまでも』などの名作を生んできたTBSの火ドラ枠で、現在放送中の『西園寺さんは家事をしない』。1・2話とも世帯視聴率は7%を超え、この1年の同枠では一番の数字と、まずまずの出だしとなった。

 仕事はバリバリやるが家事は一切しない西園寺(松本若菜)と、天才エンジニアでシングルファザーの楠見(松村北斗)が同居生活を始める。『逃げ恥』などを思わす展開に、ネットでの視聴者の反応も「わくわくした」などとおおむね好評だ。

 そんな中で「野呂佳代が出るドラマは面白くなる」との声も見受けられる。西園寺の幼なじみの親友役で出演している野呂だが、この説はかねてからメディアでもネットでも出ていた。改めて、野呂の女優キャリアを振り返ってみたい。

元AKB48でバラエティから女優業を増やす

 野呂佳代はAKB48の元メンバー。大島優子らと同期の2期生として、2006年に加入している。メジャーデビューシングルの『会いたかった』で選抜入りしたが、当時から太めの体型で、アイドルの中のお笑い担当のポジション。同期の佐藤夏希とのコンビ「なちのん」でM-1グランプリに2回挑戦し、共に2回戦で敗退した。

 2009年から「ちょっと大人」を謳った新グループ・SDN48に移り、キャプテンも務めたが、2012年に全員卒業という形で解散。野呂もあまり印象を残せないまま、アイドル活動を終えた。最近では「私がAKB48だったことはみんな忘れている(笑)」などと話している。

 卒業後は、『ロンドンハーツ』や『ゴッドタン』などバラエティを中心に活動していたが、佐久間宣行プロデューサーに「コントでの演技力」を評価されていた。ドラマでも単発のゲストから脇役ながらレギュラーと、出演を増やしていく。

『ナイト・ドクター』で「本当にいそう」な看護師に

 「野呂佳代が出るドラマにハズれなし」のイメージの起点となっているのは、2021年の『ナイト・ドクター』だろう。波瑠が主演で、夜間救急専門の医師たちを描いた医療ドラマ。他には田中圭、岸優太(当時King&Prince)、北村匠海、岡崎紗絵らが医師役で出演していた。平均視聴率は11.1%を記録している。

 この作品で、野呂は救命救急センターの看護師を演じていた。緊張感のある夜間の現場で明るい雰囲気を醸し出し、まだ経験の浅い医師たちが切羽詰まっていても、どっしり構えてサポートする姿を見せる。視聴者からは「ああいう看護師さん、本当にいそう」との声が相次いでいた。

 岡田将生と中井貴一が医師でなく看護師役で共演して話題を呼んだ『ザ・トラベルナース』(2022年)でも、野呂は同僚の看護師の1人として出演。井戸端会議と間食が大好きで、院内の噂話はいち早く聞きつけるという役どころだった。

『ブラッシュアップライフ』で同級生との再会が和ます

 2023年には『ブラッシュアップライフ』に出演した。バカリズムが脚本、安藤サクラが主演、人生を何度もやり直す日常系のタイムリープコメディ。平均視聴率は6.2%ながら、コミカルな中で何気ない女性の友情物語が胸を打ち、東京ドラマアウォードの作品賞グランプリと脚本賞など、数々の賞を獲った。

 野呂の役は、安藤が演じた麻美らと小・中学校の同級生の“ごんちゃん”こと美佐。3周目の人生で日本テレビに就職した麻美と、ヘアメイクとして再会している。喫茶店で2人で話し、麻美を「相変わらず明るくて変わってなかった」と和ませていた。

 ドラマの“番手”について愚痴る麻美に、「友情出演って誰の友だちなんだろうと思ってた」と笑ったりも。麻美の4周目の人生では、成人式後のカラオケでAIの『Story』を熱唱し、水川あさみが演じる真里を涙させるシーンがあった。

『アンメット』で記憶障害の脳外科医を温かく応援

 前クールの『アンメット』は記憶に新しい。こちらも平均視聴率は6.0%にとどまったが、レビューサービス「Filmarks」では今年上半期の国内ドラマランキングで1位。無料見逃し配信の再生数は2200万回を突破し、カンテレのドラマで歴代1位など、幅広い支持を集めた。Xでも番組タイトルがたびたび世界トレンド1位に。

 杉咲花が演じた記憶障害を抱える脳外科医、若葉竜也が演じたアメリカ帰りの変わり者の同僚を始め、役者陣のナチュラルでリアリティのある演技により、深みのある医療ドラマとなった。

 その中で野呂が演じたのは、腕の立つベテランの麻酔科医。飄々としながら、杉咲が演じたミヤビが医者として再び手術に挑むのを、温かく応援していた。「ミヤビちゃん、三瓶先生(若葉)より才能あるんじゃない?」と話し掛けたり、困難にも動じない佇まいが言葉がなくても安心感を与えたり。

 終盤では、脳腫瘍で妻のことも忘れていく患者のことを話す中で、「私の場合はもう相手が亡くなってるんだけどね。とっくにいないのに、私の中ではずーっと居座ってるんだよね」と、自身の過去をサラッと打ち明けている。

メインでないところで世界観に貢献

 他には、女子大生の貧困や格差を描いた社会派ドラマ『SHUT UP』で、性暴力被害者のケアをする団体のスタッフ役。「同意のない性的行為はすべて性暴力です。一方的にそういう状況に追い込んだ相手が悪い」と説いた。

 米倉涼子主演で、配信で評判を呼びNHK BSでも放送の『エンジェルフライト』は、海外で亡くなった人の遺体を生前に近い姿に戻し、家族の元へ送り届ける会社が舞台。野呂はギャルふうの手続担当で、各所との連絡や交渉を軽々とこなしていた。

 こうして振り返ると、確かに野呂の出演作には良作が多い。メインキャストではないので、ストーリーにさほど関与しているわけではなく、野呂目当てで観る視聴者も少ないだろう。そういう意味では「ハズれがない」は結果論だが、作品の世界観には貢献している。

ぽっちゃり体型が醸し出す安心感

 主人公らを見守るポジションが多く、温かみや安心感を醸し出す。視聴者も野呂が出てくるとホッとした気持ちになり、物語の箸休めとなっている。そこには、彼女自身の体型も含めたキャラクターが醸し出すものも大きい。

 2022年の『メンタル強め美女白川さん』で、ぽっちゃり体型がコンプレックスのOLを演じた際の取材では、「私がぽっちゃりでなかったら、何も残らなかった可能性があります(笑)。アイドル時代にいろいろ言われましたけど、今はこの体型の私を求めてくれる人がいるので、良かったなと思います」と話していた。

 スタイルのいい美女揃いの女優界の中で、野呂のぽっちゃり体型は代わりが効かない武器になっている。

 一方、『顔だけ先生』(2021年)にゲスト出演した際は、生徒の子どもを妊娠する真面目な先生役。1人で産んで育てようとしていたが、最後の体育館での離任あいさつで相手の生徒の純粋な想いを受け入れ、感動的なシーンを生み出した。大きな役もまっとうできそうな演技力を、持ち合わせていると感じた。

 昨日も『クラスメイトの女子、全員好きでした』2話に出演していたが、そもそも出演作が多い中で「ハズれない」確率が上がっている。制作側がある役柄を、他の誰かでなく野呂に任せたいと考えることも多くなっているようだ。

西園寺さんの親友役でははけ口を担って

 『西園寺さんは家事をしない』で演じる陽毬は、家事代行サービス会社で働いている。1話では、西園寺が買った一軒家の掃除と引っ越し荷物の整理を仕事としてやったあと、同じく幼なじみの洋介(塚本高史)と3人で行きつけのカフェ&バーへ。家事をしない西園寺のポリシーや「仕事が楽しい」という話を聞いていた。

 2話でもこの3人で飲んでいて、西園寺が家の火事で行き場を失くした楠見親子を自宅の賃貸スペースに住まわせている中、気遣いについての愚痴に耳を傾けた。野呂の出番は少ないが、今回は西園寺のはけ口を担うポジションのよう。会社でも、楠見と住む家でもない場所で、視聴者的には西園寺の本音を知るシーンになっている。

 ドラマとして、また野呂の「ハズれなし」は続きそうだ。野呂自身も得難いポジションを確立しつつ、さらにステップアップしていくのも見ていきたい。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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