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全国のフードバンクで「食料減少」が判明 餓死・貧困の蔓延を防ぐために何ができるか

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(提供:イメージマート)

 物価高騰の影響で、生活困窮者に無償で食料を配布する全国のフードバンクが受け取る食料寄付が大きく減少しているとの調査結果が発表された。今後、支援への影響が懸念される。

 今回、全国調査を実施したフードバンク仙台でも、食品寄付の減少により食料支援に支障が出ており、特に米の在庫が残り1ヶ月分を割り込むなど、支援継続が危ぶまれる事態になっているという。

 その一方で、物価高騰の影響で貧困が広がり、食料支援のニーズはいっそう高まっている。特にこれから猛暑が続くため電気代など出費がかさむ。子育て世代であれば夏休み中は普段より食費も増加する。そうしたなかで、食料支援を行うフードバンクの食料備蓄が尽きてしまえば、食料すら十分に取れない「絶対的貧困」が一気に拡大してしまいかねない

 こうした現状を多くの方に知ってもらおうと、7月23日、フードバンク仙台が記者会見を開き、全国のフードバンクが受け取る食料寄付の減少について報告した。以下では、同団体から提供された資料にもとづいて、全国のフードバンクが直面する支援継続の危機的な現状を報告する。

6割の団体で食料寄付が減少、7割の団体で米の寄付が減少

 フードバンク仙台が実施した「フードバンクへの食品寄付の現状と食料支援事業への影響アンケート」は、2024年7月12日(金)~2024年7月19日(金)の間にGoogleフォームを用いたオンライン調査として実施され、全国各地のフードバンク66団体から回答があったという。

 まずこの間の食料寄付量の推移についてみると、「減少した」が27団体(40.9%)、「大いに減少した」が15団体(22.7%)で、6割以上の団体(計42団体)で食料寄付の減少という事態に陥っていることがわかる。

フードバンク仙台のアンケート調査集計より
フードバンク仙台のアンケート調査集計より

 また、月ごとの寄付量の回答があった37団体の、2023年4月~6月の各月の総食料寄贈量に対する2024年の対応する各月の総食料寄贈量の割合は、以下のようになっている。

  • 2023年4月:239t203kg、2024年4月:212t814kg → 約89%
  • 2023年5月:202t664kg、2024年5月:168t164kg → 約83%
  • 2023年6月:311t780kg、2024年6月:192t193kg → 約62%

 月ごとに変動はあるが、前年同月比で、今年4月11%減、5月は17%減、6月に至っては38%減となっており、大変厳しい状況にあることがうかがわれる。

 こうした食料寄付の減少が、実際に支援活動に影響を及ぼしていることも調査結果からわかる。食料寄付が「減少した」あるいは「大いに減少した」と回答した42団体に、食料提供活動への支障の有無について質問したところ、「支障がある」が16団体(39%)、「大いに支障がある」が18団体(43.9%)と答えている。食料寄付が減少した団体のうち、8割以上の団体ですでに支援活動に支障が出てしまっているのだ。

同上
同上

 さらに、食料のなかでも、とりわけ米の寄付が深刻な減少となっている実態も明らかになっている。米の寄付が「減少した」と回答したのは27団体(40.9%)、「大いに減少した」と回答したのは18団体(27.3%)で、合計すると45団体(68.2%)となる。実に約7割の団体で米の寄付が減少しているのだ。

 米は食料支援の中でも配布がしやすく、栄養(カロリー)も摂りやすい食品だ。多くの人々の食生活の中心にもなっており、その意味でも欠かせない。フードバンクへの米の寄付減少は、食料支援活動の質の低下に直結しかねない。

同上
同上

 食料提供方針の現状と今後の対応についての設問(複数回答可)では、回答した66団体のうち、「渡す食料の量が減少した」と回答したのが36団体、「渡す食品の種類が減少した」のが28団体あり、食料支援活動が大きく制約されていることも明らかになっている。

 さらに、「今後、渡す食品の量を減少させることを検討している」のが19団体、「今後、渡す食品の種類を減少させることを検討している」のが13団体となっており、このまま食品寄付の量が回復しないと、今後いっそう食料支援活動の量や幅が制限されざるを得ない状況であることがうかがわれる。

 全国のフードバンクの中でも、特に深刻な状況にあるのが調査実施団体のフードバンク仙台だ。同団体によれば、フードバンク仙台が受け取る食料寄付総重量の推移は以下の通りであり、昨年比で約5割も減少している。

  • 2023年4月:13224kg → 2024年4月:3815kg
  • 2023年5月:8178kg → 2024年5月:3317kg
  • 2023年6月:2398kg → 2024年6月:4785kg
  • 合計:23800kg →  11917kg

 また、フードバンク仙台の米の在庫状況(2024年7月21日時点)は約900kgにまで落ち込んでおり、約1ヶ月分の支援量相当しか在庫がなくなっているという。

フードバンクを利用する人たちの切実なニーズの実態

 今回の調査では、食料支援を通じて見える、食料支援の利用者の生活状況についても、質問項目を設けている(複数回答可)。その回答からは深刻な生活状況が浮かび上がってきている。

 自団体の食料支援利用者(他の支援機関を通じた間接支援含む)の中に、「栄養不足で心身の健康が大きく損なわれている」人がいるとの回答が23件、「一日一食で過ごしている」人がいるとの回答が39件、「3日以上何も食べていない」人がいるとの回答が25件、「一週間以上何も食べていない」人がいるとの回答が2件となっている。

 こうした回答からは、生存を脅かすほどの極度の貧困状態にある人の生活をフードバンクの食料支援活動がぎりぎりのところで支えていることがわかる。このような状況で、食料支援が止まってしまえば、餓死や自死の急速な拡大を招きかねない。

 また、「料金滞納で電気が止まっている」人がいるとの回答が41件、「料金滞納でガスが止まっている」人がいるとの回答が39件、「料金滞納で水道が止まっている」人がいるとの回答が27件となった。一方で、「上記のような利用者は居ない」という回答は4件にとどまっている。

 自由記述欄には、「現金300円しか持っていない」「雨水を飲んでいる。ビニールハウスに住んでいる。手持ち現金が数百円など」「3日後に電気が止まる」人がいるなどの回答もあった。

 今回の調査実施主体であるフードバンク仙台には、食料支援利用者から次のような深刻な相談も寄せられているという。

【事例1】70代女性 一人暮らし
年金が一月に均して六万五千円。家賃もかかり、部屋の設備が故障するなどの状況が重なり、貯金がなくなり、二週間ほどほとんど食事を取らずカレー粉を溶かして飲んでいる状態でフードバンク仙台に食料支援依頼。依頼時点で所持金は数百円もなく、次の年金支給日は一ヶ月近く先。携帯電話も料金未納であと数日で停止するという状況。
→緊急度が高いため、1/19にフードバンク仙台のスタッフが訪問を行い、2週間分の食料の支援と安否確認を行った。本人は先に区役所に電話で相談していたが、区役所からは窓口に来るように言われ、フードバンク仙台を紹介されたのみだった。本人は足に不調があり、歩くことも困難な状況であり、役所に自力で移動することはできなかった。その後、同団体のサポートによる役所との交渉で、役所の職員が本人宅に来て生活保護申請の手続きが取れるようになり、無事生活保護の利用につながった。

【事例2】40代の一人暮らしの男性
もともと派遣で働いていたが、コロナ以降に仕事が減った際に携帯電話の料金を支払えなくなり、携帯が止まって、派遣の仕事も連絡が取れないので打ち切られてしまった。蓄えも使い果たし、公衆電話からフードバンク仙台に依頼を行った時点での所持金は数百円。2週間以上なにも食べていないという状態だった。
→緊急度が高いため、ボランティアスタッフが自宅を訪問し、声掛けを行いながら食料を手渡した。数日は食事をとっても胃が受け付けず食べられなかったものの、何度かボランティアスタッフが自宅を訪問するうちに徐々に食事を摂って元気を取り戻した。その後、本人が自分自身で生活保護を申請し、受理された。

食料寄付減少をうけてのフードバンクの創意工夫

 もちろん、こうしたピンチのなか、各地のフードバンクもできることをやろうと創意工夫を重ねている。自由記述欄には、新たに寄付をしてくれる農家や企業を探して、減少分を補っているという回答もあった。

「お米ですが、現在とても少ない状況です。県から年度末に米とパックご飯の寄付があったため5月まで何とかなっていましたが、6月で在庫が尽き、近隣の農家や企業、フードバンクから米を提供してもらいしのいでいる状態です」

 また、保管設備がないと管理・提供が難しいために食品ロス分の活用が難しかった冷凍食品の取り扱いを広げていくことで、食品寄付の減少を補おうとしている団体もあった。

「神奈川県は米の生産県でないため、コメ1合運動を実施する等、消費者からの寄付が中心。一方、冷凍食品の保管能力は日本一で、2022年度より冷凍食品の取り扱いを開始し、2022年度の取扱量は22トン、2023年度は48トンと増加傾向にあります」

 さらに、フードバンク仙台では、食料を自分たちでも生産しようと、学生や社会人のボランティアたちが、昨年度より、地元の農家から畑を借りて、野菜を栽培し、困窮世帯や支援団体等に配布している。

参考:学生らが「農業」で困窮者の支援 貧困を救う国の制度が「皆無」という絶望  

 今年度は、畑の面積を2倍に拡大し、ジャガイモや玉ねぎ、ニンジンなどを育てている。昨年はジャガイモを1.5トン収穫、今年6月には玉ねぎを1トン収穫しているという。食料価格が高騰する中で、市場の価格変動に影響を受けない食料の生産を広げることは、生活に困窮しても食料に困らない地域を作っていく上で、非常に有望な試みだろう。

フードバンク仙台の農作業の様子
フードバンク仙台の農作業の様子

同上
同上

 ただし、フードバンク仙台のスタッフによれば、まだまだ農地の試みは始まったばかりで、年間50トン前後は必要となる食料支援物資のうち、農地で年間取れる野菜の量は数十分の一程度だという。今回の調査で明確になった喫緊の食糧不足と生存の危機を乗り越えるためには、市民からの食料品の寄付が非常に重要であることに変わりはないだろう。

 これまで、日本社会では国の社会保障は困窮する人々の生存を十分に守ることができなかった。生活保護制度の捕捉率(生活保護基準以下の所得水準の人々に給付されている割合)は2割程度にとどまり、餓死者が全国で発生している。

 そうした公的な支援の空白地帯を少しでも埋めようと、民間の非営利団体による食料支援が育っていった。フードバンクによる支援は文字通りの意味で「命綱」だといっても過言ではない。

 現在、その民間団体の支援が危機に陥ることで、これまで以上に、生存の危機が広がる恐れが現実のものとなっている。このような事態に対し、現場の支援団体への食料寄付を強化するにせよ、国の社会保障制度の改善を求めるにせよ、実効性のある効果的な取り組みを行うことが今まさに求められているといえよう。

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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