「言葉が課題」 日本人支援者の思い

過激化するヘイトの一方で、川口周辺には外国人の生活支援に取り組むボランティア団体もたくさんある。その一つ「在日クルド人とともに」は毎週日曜の午前、雑居ビルの一室で日本語教室を開いている。

我々が訪れた日はクルド人と日本人が15人ずつほどきていた。顔なじみが多く、日本人女性がクルド人少女たちに冗談めかして話しかけていた。

支援者の女性
「5年生になれるって?ほんとかよー」

明るい雰囲気のなか老若男女が、それぞれのレベルの書き取りや音読に取り組む。みな真剣な表情だ。幼い女の子も、絵本を開いてなにやら一生懸命つぶやいているのが微笑ましい。

団体の代表、温井立央さんは、妻が学校に行っていないクルド人の少女に声をかけたところから活動を始めたという。なぜ支援の軸が、日本語教室なのか。

温井立央さん
「日本語を理解できない状態で暮らしているクルド人も多いと思います。ある一定の自分の思いとかを日本語で表現できる方がいいので、どうフォローしていくのかが課題です」

外国人にとって日本語は非常に難しい。家族でここに足しげく通う男性は、産業廃棄物の処理のテキストを音読していたが「何人」(なんびと)という言葉の読み方で詰まってしまった。

クルド人男性
「どこの人でも。ナニビトも」
ボランティア男性
「ナニビトよりも、なんびとの方がいいな」

隣で聞きながら「何人」を正しく読める人は、果たして何人いるだろうかと思った。この男性は就労が禁じられている「仮放免」だが、こんな思いから勉強を続けているという。

クルド人男性
「産廃処理の資格を取得すれば、もしかしたら、在留資格をくれるんじゃないかなって思ってるわけです」

「友好なんて生まれない 死ね!」ヘイトは支援団体にも

この日は新学年スタートの直前。部屋にはクルド人家庭に提供するランドセルや文具などが山積みになっていた。全て寄付やリサイクル品。少年がカバンを背負うと褒める声があがった。

支援者
「はい、どうぞ!」
「わーぴったり!!」

満面の笑顔を浮かべる少年。その隣では日本人男性がクルド人の子供の名前を聞き取っていた。親にかわって、筆箱、鉛筆、雑巾などに名前を一つ一つ、書き込んでいく。代表の温井さんの妻が、はっぱをかけるように若いクルド人の母親に声をかけた。

温井まどかさん
「勉強、勉強!子供の名前を書けないと、今度困るね、ママ」

一式揃ったところで親は丁寧に頭を下げて帰っていく。よほど嬉しいのだろう、子供たちは誇らしげな顔でランドセルを背負って、跳ねるようにして親を追いかける。

だが、こうした地道な支援にも、ヘイトの矛先が向けられている。代表の温井さんが見せてくれた団体宛てのメールには、クルド人への罵詈雑言を連ねた内容が並んでいた。頻繁だという攻撃の電話の音声も聞かせてもらった。

電話の男性
「友好なんて生まれるわけないじゃないですか、あんな奴ら。かばうお前らクソ日本人がやっぱりクソだと思うんですよ…死ねこの野郎」

正体を明かさない男性の一方的な叫び声に、デモを取材しているときに感じた、暗く、悲しい気持ちが胸に湧く。男性は、川口周辺に住んでいるわけでもなければ、直接クルド人から迷惑を受けたわけではないと話す。こうした攻撃は去年7月の乱闘事件を境に激増したという。

温井立央さん
「実際に何かされたというよりは、ネットの情報を信じてることが多いんですね」

一方でボランティアに参加する人は増えているという。一見してとても若い女性がいたので話を聞いた。

少女
「きょう初めて参加しました。高校1年生です。クルド人をテーマにした本を読んで、私も何かできることはないかなと…皆さん日本を好きになってもらって、色々な人と共生できたらいいなと思っています」

はにかんだような笑顔に救われた気分になって、教室を後にした。