突然死での遺されて何年か経つと、「せめて最後の言葉が聞きたかった。遺書でもあれば...」と、そんなふうに思うことはありませんか?



死を覚悟した時の人間の言葉にはおそらく真実があります。もう失うものはない、と覚悟した時に人間は嘘をつく必要がないからです。


例え嘘だったとしても、死に際に敢えて遺したい言葉ならそれを真実にしたいという強い想いを感じます。


英国人作家、ヴァージニア・ウルフの遺書は世界で最も美しい遺書と言われています。





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(訳文)

最愛のあなた
また自分の頭がおかしくなっていくのが分かります。私たちはあのひどい時期をもう二度と乗り切ることはできないでしょう。それに今度は治りそうもありません。声が聞こえるようになって集中できないのです。だから最善と思うことをします。あなたは私をこれ以上ないほど幸せにしてくれました。あなたは誰にも代えがたい人でした。二人の人間が私達ほど幸せになれることはないでしょう。この恐ろしい病気が始まるまでは。もう戦うことができません。私はあなたの人生を犠牲にしています。私がいなければあなたは自分の仕事ができるのですから。あなたはできるはずです。もうこの文章さえきちんと書けません。読むこともできない。言っておきたいのは、私の人生の幸せはすべてあなたのおかげだったということです。あなたは私に対してとても忍耐強く、信じられないほどよくして下さいました。他の人たちも分かっています。もし誰かが私を救ったとしたら、それはあなたでした。私にはもう何も残っていませんが、あなたの優しさだけは今も確信しています。これ以上あなたの人生を無駄にするわけにはいかないのです。今までの私たち以上に幸せな二人は他にはありません。 V(レナードに宛てた書き置き)

(出典:wikipedia)


夫、レナードはユダヤ人ですが、ヴァージニアはその言動から反ユダヤ主義的だと批判を浴びることもありました。ヴァージニアが他の男性と恋に落ち、いわゆる不倫 のような関係になった時にもレナードは彼女を支えました。

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彼女が精神を病む根本的原因がどこにあったのかはわかりません。もしかしたら、幼児期の異父兄による性的虐待だったのかもしれませんし、作家としての性だったのかも知れません。



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ただ、彼女の言葉からは自己を肯定しようとする意思が感じられ、自己否定感に苛まれていたという印象は強くはありません。


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遺された夫、レナードは長生きをしました。彼女の遺書は、彼自身がその人生に意味があるとそう思わせるために彼女が魂の全てをかけて書いたものかもしれません。


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彼女の遺書は、皮肉なことに作家としての彼女のどの作品よりも有名です。


若い頃の偽エチオピア皇帝事件などを見ると、ユーモアと行動力に溢れた現代的な女性というイメージですが、その内面にはずっと闇を抱えていたのかもしれません。




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いずれにしても、夫レナードはその闇も含め彼女を愛し支えたのでしょう。


死を選んだ妻から「世界で最も美しい遺書」を受け取った夫の気持ちそんなものだったのでしょうか。


辛かったとは思いますが、それでも手元にそんな遺書のない私は、不謹慎ですが、羨ましいというのが本音です。

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