10月26日、プロ野球のドラフト会議が行われる。だが、そこに「今年のドラフトの目玉」と注目されていた花巻東高校の佐々木麟太郎選手は登場しない。スポーツライターの広尾晃さんは「野球エリートの海外流出は、今後、さらに深刻な問題になるはずだ」という――。
試合開始前、バットを構える花巻東の佐々木麟太郎
写真=時事通信フォト
試合開始前、バットを構える花巻東の佐々木麟太郎=2023年8月13日、甲子園

プロ志望届を出さなかった「ドラ1」候補

今年のプロ野球ドラフト会議は10月26日に行われる。この日を「運命の日」と感じている野球選手はたくさんいるはずだ。

ドラフト会議で球団に指名されるためには、高校生、大学生は「プロ野球志望届」を学校に出さないといけない。学校はこれを取りまとめて日本高野連、全日本大学野球連盟に提出する。

今年は高校生139人、大学生177人の計316人が志望届を提出した。

しかしその中に、花巻東高(岩手県)の佐々木麟太郎(18)の名前はなかった。佐々木は184センチ、113キロ。体重は今夏の甲子園の出場選手980人の中で最も重い。中学時代は大谷翔平の父の大谷徹氏が監督を務める金ケ崎シニアでプレーし、高校は父親の佐々木洋氏が監督で、菊池雄星、大谷翔平を輩出した花巻東高に進んだ。1年春からベンチ入りし、2年春の甲子園にも出場。今夏の甲子園は準々決勝まで進んだ。

高校通算本塁打は140本、屈指のスラッガーとして今ドラフトの目玉の一人と言われていたが、佐々木はプロ志望届を出さず、また国内の大学にも進まず、アメリカの大学に留学すると発表したのだ。

佐々木はアメリカの大学に進んで野球を続ける。21歳になればドラフト指名権を得ることができるから、MLB30球団のドラフト指名を受けて、日本のプロ野球を経由せずMLB球団に入団することになる。

日本より厳しいメジャーの生存競争

MLB球団は、メジャー球団の下にSingle-A/High-A/Double-A/Triple-A/Rookieの5つのマイナーリーグがある。ドラフトで入団した佐々木はこの階層を上っていくことになる。抜群の資質を認められれば1年でこれを駆けあがることもあるが、何年もマイナーリーグでくすぶる選手もいる。

日本ハムファイターズでプレーする加藤豪将(29)はアメリカ生まれだが日本人の両親を持つ。アメリカの高校から2013年MLBドラフト2巡目(全体66位)でニューヨークヤンキースに指名された。当時ヤンキースにはイチローが在籍していたから「すぐにもイチローのチームメイトになるか」と言われたが、加藤は9年間もマイナーリーグでプレー。この間チームもパドレス、ブルージェイズ、メッツと移籍し、メジャーに昇格したのは2022年の4月9日のことだった。

しかしメジャーに定着することはできず、昨年のNPBドラフトで日本ハムが3位で指名し、今季は日本ハムでプレーした。

大谷翔平、藤浪晋太郎、鈴木誠也と同じ1994年生まれの加藤だが、キャリアはまだ始まったばかり。大きな遠回りをした印象がある。