指節間関節の解剖と運動:基本情報のまとめ

はじめに

指節間関節 interphalangeal joint の解剖(構造)と運動について基本的なところをまとめます。

第 1 指(母指)では,基節骨と末節骨のあいだで指節間関節(interphalangeal joint : IP 関節)がつくられます。
第 2 〜 5 指では,基節骨と中節骨のあいだで近位指節間関節(proximal interphalangeal joint : PIP 関節)がつくられ,中節骨と末節骨のあいだで遠位指節間関節(distal interphalangeal joint : DIP 関節)がつくられます。

すべて基本的には同じ構造です。

目次

指節間関節を構成する骨と関節面

第 2 〜 5 指の近位指節間関節

  • 基節骨頭(凸面)
  • 中節骨底(凹面),掌側板9)

基節骨頭は,中央の浅い溝によって分けられた,2 つの丸い顆をもちます。
そして,中節骨底には,中央の稜線によって分けられた 2 つの浅い凹面があります。

両関節面の曲率はほぼ等しく,接触面の大きな適合性のよい関節です4)

基節骨頭の関節軟骨は掌側でより中枢側に広がります。

第 2 〜 5 指の遠位指節間関節

  • 中節骨頭(凸面)
  • 末節骨底(凹面),掌側板9)

近位指節間関節と同様に,中節骨頭には 2 つの顆があり,末節骨底には 2 つの凹面があります。
そして,適合性のよい関節です4)

中節骨頭の関節軟骨は掌側でより中枢側に広がります。

第 1 指の指節間関節

  • 基節骨頭(凸面)
  • 末節骨底(凹面),掌側板

第 2 〜 5 指の指節間関節と同様の構造です。

基節骨頭の関節軟骨は掌側でより中枢側に広がります。

関節の分類

    • 可動性による分類:可動関節
    • 骨間に介在する組織の種類による分類:滑膜関節
    • 関節面の形状と動きによる分類:蝶番関節
    • 運動軸による分類:一軸性関節
    • 骨数による分類:単関節

    鞍関節が変化した蝶番関節だとしている文献8)があります。

    関節分類の全体については こちら

    関節面の形状と動きによる分類については こちら

    指節間関節の靱帯

    側副靭帯

    • 近位付着部:近位の指節骨頭の背側4)
    • 遠位付着部:遠位の指節骨底の掌側4),掌側板
    • 靱帯が緊張する動き:不明
    指節間関節の側副靭帯
    図 1: 指節間関節の側副靭帯1)

    それぞれの関節の橈側と尺側にあります。

    おそらくは関節包靱帯ですが,文献には明記されていません。

    索状部と扇状部に分かれます。

    索状部は近位背側から遠位掌側へ斜めに走る線維です。
    索状部は外転と内転を制限します。

    扇状部は背側から掌側へと走る線維です。
    掌側板と結合しており,関節面の接触面積を増やす働きがあります。
    扇状部の別名として,副靱帯16),掌側靱帯4-7),前関節包靱帯9)があります。

    屈曲位で緊張9)します(おそらくは最大屈曲位)。
    中等度の屈曲で弛緩9)しますが,屈曲 10 〜 15° で最も緊張する15)という報告もあります。
    また,全可動域を通して側副靭帯の緊張は変わらないとしている文献1,4,16)もあります。
    中手指節関節の側副靭帯との違いは,伸展時にも緊張を維持することです。

    手綱靱帯 check-rein ligament

    • 近位付着部:基節骨掌側15,16)
    • 遠位付着部:掌側板15,16)
    • 靱帯が緊張する動き:過伸展

    掌側板の近位・外側領域が縦に厚くなった線維組織です1)

    遠位指節間関節にはありません。

    第 1 指に存在するかどうかは不明です。

    関節周囲の結合組織(靱帯以外)

    関節包

    関節包の付着部についての詳しい説明は,教科書等にはありません。

    掌側板

    指節間関節の掌側にある線維軟骨の板です(図 1)。
    遠位の指節骨底の掌側から,近位に向かって伸び,指節骨頭の掌側16)に付着します。

    遠位関節面の凹面を広げる働きがあります。
    指節間関節の過伸展を制限します。

    掌側板には靱帯性腱鞘が付着します。

    滑液包

    • 指の腱鞘:浅指屈筋,深指屈筋が通る
    • 指屈筋の総腱鞘:第 5 指の腱鞘は総腱鞘と交通することが多い
    • 長母指屈筋の腱鞘
    • 指背皮下包:近位指節間関節背側の皮下にある6)

    靱帯性腱鞘

    上述の腱鞘は滑膜性腱鞘であり,その滑膜性腱鞘を固定するのが靱帯性腱鞘です。
    指の屈筋が収縮したときに,屈筋腱が指骨から浮き上がらないよう固定します。

    靱帯性腱鞘は,指節骨と掌側板に固定されています。

    靱帯性腱鞘内部には屈筋滑車が埋め込まれています。
    屈筋滑車には,横走する輪状滑車と斜めに交差する十字滑車があります。
    母指の靱帯性腱鞘は輪状靱帯と斜走靱帯で構成されます。

    指背腱膜

    指の運動に関与する筋腱の線維が指背の皮下で形成する薄い腱膜です。
    指背腱膜は中手指節関節(MP 関節)にも関与します。
    第 1 指の指背腱膜に関しては記載がほとんどありません。

    指背腱膜の背面
    図 2: 指背腱膜の背面17)
    指背腱膜の側面
    図 3: 指背腱膜の側面17)

    中央索は,指伸筋腱から直接延長した線維です。
    近位指節間関節をまたいで,中節骨底の背側に付着し,指伸筋の張力を伝達します。

    側索は,指伸筋腱から分岐し,中央索の両側を走り,1 本に融合して,末節骨の背側に付着します。
    融合する手前では,指三角靭帯により背側で緩くつながっています。
    近位指節間関節と遠位指節間関節をまたぎ,指伸筋,虫様筋,骨間筋の張力を伝達します。

    指背腱膜腱帽は,中手指節関節を背側から覆うような膜です。
    深横中手靱帯5)から指伸筋腱や側索に走ります。
    横走線維と斜走線維があります。
    虫様筋と骨間筋からの力を側索に伝達し,近位指節間関節と遠位指節間関節の伸展に作用します。

    斜支靱帯は,基節骨の掌側と靱帯性腱鞘から始まり,側索に終わります。
    近位指節間関節の掌側と遠位指節間関節の背側をつなぐことになり,両関節の協調性に関与します。
    近位指節間関節伸展位のまま遠位指節間関節を屈曲すると,斜支靱帯は緊張します2)

    矢状索は,指伸筋腱と深横中手靱帯をつないでいます。
    指伸筋腱を中手骨頭上に固定しています。

    指節間関節の運動

    屈曲・伸展が行われます。

    内外転は,2 つの顆があることと,側副靭帯の緊張があることによって制限されます。

    運動軸は近位の指節骨頭を通ります8)
    運動軸にはわずかな傾きがあり,第 3 〜 5 指は斜めに母指の方に向かって屈曲します。

    第 2 〜 5 指の近位指節間関節の屈曲・伸展

    • 屈曲の可動域(他動):100° 3)〜 120° 1)
    • 屈曲の制限因子:中節骨と基節骨の衝突,または中節骨と基節骨の掌側の軟部組織の圧迫,または背側の関節包と側副靭帯の緊張11)
    • 屈曲のエンドフィール:骨性,または軟部組織性,または結合組織性11)

    尺側の方がより屈曲します。
    第 5 指では 135° に達します9)

    • 伸展の可動域(他動):0° 3)
    • 伸展の制限因子:掌側の関節包と掌側板の緊張11),手綱靱帯の緊張1)
    • 伸展のエンドフィール:結合組織性11)

    過伸展は通常はほとんど生じませんが,個人差はあります(ちなみに私は 45° の過伸展が可能です)。

    第 2 〜 5 指の遠位指節間関節の屈曲・伸展

    • 屈曲の可動域(他動):80° 3)または 70 〜 90° 1)
    • 屈曲の制限因子:背側の関節包,側副靭帯,斜支靱帯の緊張11)
    • 屈曲のエンドフィール:結合組織性11)

    尺側の方がより屈曲します。

    屈曲時にわずかに回外します15)

    • 伸展の可動域(他動):0° 3)または 30° 1,9)
    • 伸展の制限因子:掌側の関節包と掌側板の緊張11)
    • 伸展のエンドフィール:結合組織性11)

    自動伸展は 5° という記述9)もあります。

    第 1 指の指節間関節の屈曲・伸展

    • 屈曲の可動域(他動):80° 3)または 90° 9)
    • 屈曲の制限因子:側副靭帯と背側の関節包の緊張,または末節骨(掌側板を含む)と基節骨の衝突11)
    • 屈曲のエンドフィール:結合組織性,または骨性11)

    屈曲には 5 〜 10° の回内が伴います9)

    • 伸展の可動域(他動):10° 3)または 20° 1)
    • 伸展の制限因子:掌側の関節包と掌側板の緊張11)
    • 伸展のエンドフィール:結合組織性11)

    伸展の可動域は個人差が大きく,文献によって,30° 9)となっていたり,5 〜 10° 2)となっていたりします。

    しまりの肢位(CPP)と最大ゆるみの肢位(LPP)

    第 1 〜 5 指のすべてで共通です。

    • CPP:最大伸展位1,4,8)
    • LPP:軽度屈曲位4,8)

    第 1 指の CPP は完全伸展位,第 2 〜 5 指の CPPは完全屈曲位としている文献2)があります。

    関節内圧

    教科書等に記載はありません。

    作用する筋

    主動作筋と補助動筋に分けていますが,その区別の基準は決まっていないようです。
    ここでは基礎運動学11)や徒手筋力テスト15)などを参考にして分けています。
    はっきりしないものは補助動筋にしました。

    第 2 〜 5 指の近位指節間関節の屈曲に作用する筋

    • 主動作筋
      • 浅指屈筋
    • 補助動筋
      • 深指屈筋

    第 2 〜 5 指の近位指節間関節の伸展に作用する筋

    • 主動作筋
      • 指伸筋
      • 示指伸筋
      • 小指伸筋
      • 虫様筋
    • 補助動筋
      • 掌側骨間筋(第 2,4,5指)
      • 背側骨間筋(第 2 〜 4指)
      • 小指外転筋

    第 2 〜 5 指の遠位指節間関節の屈曲に作用する筋

    • 主動作筋
      • 深指屈筋
    • 補助動筋
      • なし

    第 2 〜 5 指の遠位指節間関節の伸展に作用する筋

    • 主動作筋
      • 指伸筋
      • 示指伸筋
      • 小指伸筋
      • 虫様筋
    • 補助動筋
      • 掌側骨間筋(第 2,4,5指)
      • 背側骨間筋(第 2 〜 4指)
      • 小指外転筋

    第 1 指の指節間関節の屈曲に作用する筋

    • 主動作筋
      • 長母指屈筋
    • 補助動筋
      • なし

    第 1 指の指節間関節の伸展に作用する筋

    • 主動作筋
      • 長母指伸筋
    • 補助動筋
      • 短母指伸筋

    短母指伸筋は基節骨に停止しますので,通常は指節間関節には作用しません。
    しかし,長母指伸筋腱を介して末節骨に付着することがあり14),その場合は指節間関節に作用することになります。

    指節間関節の安定化に作用する筋

    教科書等に記載はありません。

    指骨に付着する筋はこちら

    主な血液供給5,6)

    手への血液供給は,橈骨動脈と尺骨動脈によって行われます。
    橈骨動脈は母指と示指橈側部を栄養します。
    その他の指と示指尺側部は主に尺骨動脈によって栄養されます。

    以下の動脈が指節間関節の近くを走ります。

    • 背側指動脈
    • 固有掌側指動脈
    • 示指橈側動脈
    • 尺側小指掌側動脈
    • 橈側母指掌側動脈
    • 尺側母指掌側動脈

    関節の感覚神経支配1)

    ほとんどの場合,手の関節はその表面にある皮膚感覚髄節に分布する感覚神経線維から感覚支配を受けます。
    その原則どおりならおおむね以下のようになるはずです。

    • 第 1 指の指節間関節:橈骨神経(背側),正中神経(掌側),C6
    • 第 2 指の近位指節間関節:橈骨神経または正中神経(背側),正中神経(掌側),C6
    • 第 2 指の遠位指節間関節:正中神経または橈骨神経(背側),正中神経(掌側),C6
    • 第 3 指の近位指節間関節:橈骨神経または正中神経(背側),正中神経(掌側),C7
    • 第 3 指の遠位指節間関節:正中神経または橈骨神経(背側),正中神経(掌側),C7
    • 第 4 指の近位指節間関節:橈骨神経または正中神経(背側の橈側),正中神経(掌側の橈側),尺骨神経(掌背側の尺側),C8
    • 第 4 指の遠位指節間関節:正中神経または橈骨神経(背側の橈側),正中神経(掌側の橈側),尺骨神経(掌背側の尺側),C8
    • 第 5 指の指節間関節:尺骨神経,C8

    おわりに

    指節間関節の構造は中手指節間関節と似ているところがあります。
    中手指節関節に関する記事もあわせて読んでいただければ,理解が深まると思います。

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    関節の分類(広義の関節)

    滑膜関節の分類(関節面の形状と動きに基づいた分類)

    関節運動学(関節包内運動)における関節面の動き

    しまりの肢位とゆるみの肢位

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    参考文献

    1)P. D. Andrew, 有馬慶美, 他(監訳):筋骨格系のキネシオロジー 原著第3版. 医歯薬出版, 2020, pp277-336.
    2)武田功(統括監訳): ブルンストローム臨床運動学原著第6版. 医歯薬出版, 2013, pp237-288.
    3)米本恭三, 石神重信, 他: 関節可動域表示ならびに測定法. リハビリテーション医学. 1995; 32: 207-217.
    4)博田節夫(編): 関節運動学的アプローチ AKA. 医歯薬出版, 1997, pp28.
    5)秋田恵一(訳): グレイ解剖学(原著第4版). エルゼビア・ジャパン, 2019, pp644-663.
    6)金子丑之助: 日本人体解剖学上巻(改訂19版). 南山堂, 2002, pp200, 335.
    7)長島聖司(訳): 分冊 解剖学アトラス I (第5版). 文光堂, 2002, pp134-135.
    8)富雅男(訳): 四肢関節のマニュアルモビリゼーション. 医歯薬出版, 1995, pp63-70.
    9)荻島秀男(監訳): カパンディ関節の生理学 I 上肢. 医歯薬出版, 1995, pp132-165.
    10)中村隆一, 斎藤宏, 他:基礎運動学(第6版補訂). 医歯薬出版株式会社, 2013, pp230-245.
    11)木村哲彦(監修): 関節可動域測定法 可動域測定の手引き. 共同医書出版, 1993, pp60-82.
    12)板場英行: 関節の構造と運動, 標準理学療法学 専門分野 運動療法学 総論. 吉尾雅春(編), 医学書院, 2001, pp20-41.
    13)大井淑雄, 博田節夫(編): 運動療法第2版(リハビリテーション医学全書7). 医歯薬出版, 1993, pp165-167.
    14)津山直一, 中村耕三(訳): 新・徒手筋力検査法(原著第9版). 協同医書出版社, 2015, 167-203, 471.
    15)渡邊政男: 手指の基本的知識とセラピィ. 大阪作業療法ジャーナル. 2011; 24: 46-53.
    16)片岡利行, 菅本一臣: 手指関節のキネマティクス. 臨床リハ. 2014; 23: 618-622.
    17)成澤弘子: 伸筋腱構造の臨床解剖. 関節外科. 2010; 29: 921-925.

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    2022 年 2 月 3 日

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