はじめに
第 2 肩関節の解剖(構造)と運動について基本的なところをまとめます。
第 2 肩関節は,構造的には関節ではなく,機能的関節と呼ばれる構造です。
上腕上方関節20)と呼ばれることもあります。
目次
- 第 2 肩関節を構成する骨と関節面
- 関節の分類
- 関節周囲の結合組織(靱帯など)
- 第 2 肩関節の運動
- しまりの肢位(CPP)と最大ゆるみの肢位(LPP)
- 作用する筋
- 主な血液供給
- 関節の感覚神経支配
- その他の特徴
第 2 肩関節を構成する骨と関節面
- 肩甲骨の烏口肩峰アーチ
- 上腕骨大結節
第 2 肩関節とは,烏口肩峰アーチと大結節の関係を関節にみたてた機能的関節です。
軟骨でできた関節面はありません。
烏口肩峰アーチは,肩峰,烏口肩峰靱帯,烏口突起で作られます。
上肢挙上の方向や角度によっては,烏口肩峰アーチと向かい合うのは大結節とは限りません。
第 2 肩関節を構成するのは,大結節ではなく,上腕骨近位骨端の外側部分とする方がいいのかもしれません。
烏口肩峰アーチと上腕骨の間の空間は肩峰下腔と呼ばれます。
関節の分類
- 可動性による分類:非該当
- 骨間に介在する組織の種類による分類:非該当
- 関節面の形状と動きによる分類:非該当
- 運動軸による分類:非該当
- 骨数による分類:非該当
機能的関節ですので,これらの分類を行うことはできません。
しかし,無理矢理分類するとしたら,可動関節,球関節,多軸性関節,単関節になるのかもしれません。
関節分類の全体については こちら。
関節面の形状と動きによる分類については こちら。
関節周囲の結合組織(靱帯など)
烏口肩峰靱帯
肩峰の前方から烏口突起の外側へ走る靱帯です。
帯状であったり,Y 字型で 2 本に分かれたりと,様々なバリエーションがあります17)。
回旋筋腱板
主には上部にある棘上筋腱が関与します。
肩峰下滑液包
烏口肩峰アーチと回旋筋腱板の間にある滑液包です。
肩峰下滑液包の大きさには個人差があります。
肩峰下滑液包が三角筋の下まで広がった部分を三角筋下包と呼ぶ2)場合があります。
また,肩峰下滑液包と三角筋下包が分かれていて,区別できることもあります18)。
図 1 は肩峰下滑液包の広がりの一例です。
第 2 肩関節の安定化に作用する筋
上腕骨頭の上方への並進運動を制御するために,回旋筋腱板と上腕二頭筋長頭腱が重要な役割を担います。
第 2 肩関節の運動
上肢を挙上する際,第 2 肩関節では,大結節が烏口肩峰アーチの下をくぐり抜けます。
そのためには,肩甲上腕関節での外旋が必要です。
しまりの肢位(CPP)と最大ゆるみの肢位(LPP)
記載はありません。
おそらく機能的関節にはしまりの肢位や最大ゆるみの肢位はありません。
作用する筋
基本的には,肩甲上腕関節に作用する筋と同じであるはずです。
今回調べた文献には,作用する筋についての記述はありません。
上腕骨に付着する筋はこちら。
肩甲骨に付着する筋はこちら。
鎖骨に付着する筋はこちら。
主な血液供給
今回調べた文献では分かりませんでしたが,おそらくは肩甲上腕関節と同じです。
肩甲上腕関節に分布する動脈5)は以下の通りです。
- 前上腕回旋動脈
- 後上腕回旋動脈
- 肩甲上動脈
関節の感覚神経支配
烏口肩峰靱帯の mechanoreceptor の神経支配は肩甲上神経16)であるということ以外は分かりませんでした。
その他の特徴
肩峰下インピンジメント症候群
肩峰下腔内の組織が第 2 肩関節(烏口肩峰アーチと上腕骨の間)で,衝突や挟み込みを生じる病態です。
おわりに
一般的な解剖学や運動学のテキスト1-3,5-7)だと第 2 肩関節という用語は使われないことが多いようですが,理学療法士であれば知っておく必要があると思います。
あわせて読みたい
参考文献
1)P. D. Andrew, 有馬慶美, 他(監訳):筋骨格系のキネシオロジー 原著第3版. 医歯薬出版, 2020, pp137-197.
2)武田功(統括監訳): ブルンストローム臨床運動学原著第6版. 医歯薬出版, 2013, pp156-203.
3)米本恭三, 石神重信, 他: 関節可動域表示ならびに測定法. リハビリテーション医学. 1995; 32: 207-217.
4)博田節夫(編): 関節運動学的アプローチ AKA. 医歯薬出版, 1997, pp13-17.
5)秋田恵一(訳): グレイ解剖学(原著第4版). エルゼビア・ジャパン, 2019, pp574-583.
6)金子丑之助: 日本人体解剖学上巻(改訂19版). 南山堂, 2002, pp185-188.
7)越智淳三(訳): 解剖学アトラス(第3版). 文光堂, 2001, pp59.
8)富雅男(訳): 四肢関節のマニュアルモビリゼーション. 医歯薬出版, 1995, pp123-134.
9)荻島秀男(監訳): カパンディ関節の生理学 I 上肢. 医歯薬出版, 1995, pp2-73.
10)山嵜勉(編): 整形外科理学療法の理論と技術. メジカルビュー社, 1997, pp202-213.
11)中村隆一, 斎藤宏, 他:基礎運動学(第6版補訂). 医歯薬出版株式会社, 2013, pp218-224.
12)木村哲彦(監修): 関節可動域測定法 可動域測定の手引き. 共同医書出版, 1993, pp34-45.
13)板場英行: 関節の構造と運動, 標準理学療法学 専門分野 運動療法学 総論. 吉尾雅春(編), 医学書院, 2001, pp20-41.
14)大井淑雄, 博田節夫(編): 運動療法第2版(リハビリテーション医学全書7). 医歯薬出版, 1993, pp165-167.
15)津山直一, 中村耕三(訳): 新・徒手筋力検査法(原著第9版). 協同医書出版社, 2015.
16)山本昌樹: 肩関節複合体の正常運動学. 臨床スポーツ医学. 2019; 36: 132-142.
17)Rothenberg A, Gasbarro G, et al.: The Coracoacromial Ligament: Anatomy, Function, and Clinical Significance. Orthop J Sports Med. 2017; 5: 1-8. doi: 10.1177/2325967117703398.
18)石野辰夫: 肩関節運動における滑液包,とくに肩峰下包および三角筋下包の意義について. 新潟医学会雑誌. 1973; 87: 311-318.
19)牧内大輔, 筒井廣明: 肩関節鏡視に必要な解剖. 関節外科. 2008; 27: 10-16.
20)野村嶬: 関節と靭帯, 標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野 解剖学(第4版). 野村嶬(編), 医学書院, 2018, pp87-161.
2021 年 10 月 18 日
2024 年 7 月 21 日
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