桑田佳祐、先達へのリスペクトの中にある音楽人としての背景 「オリジナリティってないんですよね、自分のなかに」
昨年開催された5大ドームを含む全国ツアーから東京ドーム公演の模様を完全収録したライブ映像作品、LIVE Blu-ray & DVD『お互い元気に頑張りましょう!! -Live at TOKYO DOME-』の発売を記念して、FM COCOLOで1DAY企画『桑田佳祐「お互い元気に頑張りましょう!!」やDAY(でー)!!』が5月3日に放送された。企画内の3時間特番「MARK’E MUSIC MODE〜桑田佳祐スペシャル」では、DJ・マーキーによる、桑田へのスペシャルインタビューが実現。ベストアルバム『いつも何処かで』のリリース、全国ツアーなどを行った昨年の活動を振り返りつつ、『お互い元気に頑張りましょう!! -Live at TOKYO DOME-』の見どころ、そして、31年ぶりのオリジナルアルバム『婦人の肖像(Portrait of a Lady)』を発表した原 由子の活動などを自身の口で語った。ソロ35年の節目における桑田佳祐による、おそらく今ターム最後とも思しきメディア稼働にして貴重なインタビューだ。
昨年行われた全国ツアーのタイトル『お互い元気に頑張りましょう!!』にちなみ、桑田佳祐の元気の秘訣についてDJ・マーキーと語らいつつ、話題は「時代遅れのRock’n'Roll Band」に。同曲は昨年5月、桑田佳祐 feat. 佐野元春, 世良公則, Char, 野口五郎の名義でリリースしたチャリティー配信シングルだ。この楽曲の根本にあったのは、桑田のなかにあったTraveling Wilburys(ジョージ・ハリスン、ジェフ・リン、ボブ・ディラン、トム・ペティ、ロイ・オービソン)のようなバンドへの憧憬だったという。DJ・マーキーからの「泉谷しげるさん、忌野清志郎さんとも交流があったそうですが、日本の音楽、これからどうするべきか? と考えていた部分もあったのでは?」という趣旨の質問に対して桑田は、「80年代の終わりごろかな。30代の頃、夢があったり、刺激に飢えていて。『We are the World』(USA FOR AFRICA)などがあるなか、“これでいいのか?”と思った時期だと思いますね」と、日本の音楽シーンの在り方に疑問を持っていたことを示唆。「もうちょっと発言してもいいんじゃないか? というウネリがあったと思います。いまもあると思いますけどね」と言葉を重ねた。
また「スタッフ、メンバー、お客さんのおかげで、自分が何をしたらいいか、やっとわかってきた気がする」とも。「時代遅れのRock'n'Roll Band」もまた、音楽観や活動の変遷、“今、何をすべきか”という思いのなかで生まれた楽曲と言えるだろう。“同級生”(1955年4月〜1956年3月度生まれ)の5人は、ロック、フォークが社会的な影響力を持っていた70年代をリアルタイムで体験している世代。パンデミックや戦争、格差が進む社会のなか、音楽を通してメッセージを伝えることの意義を体感している彼らだからこそ、この楽曲は世の中に響いたのだと思う。堅苦しさはまったくなく、“仲間が久しぶりに集まって、楽しくセッションした”という雰囲気が伝わるサウンドやパフォーマンスも粋だ。
もちろん、昨年行われた全国ツアー『桑田佳祐 LIVE TOUR 2022 「お互い元気に頑張りましょう!!」』にまつわる話題も。“場末のバー”を舞台にしたオープニングなど、シアトリカルな演出を取り入れたステージについて桑田は、「みなさんが期待されてるのはどっちなのかな? って考えるんですよね。かっこよくなのか、ちょっとおどけてなのか。そのへんは一歩先を行くんじゃなくて、“このへんかな”っていう塩梅が多少、この年齢でわかってきたというか」とコメント。
舞台や小説家に対する憧れや、「小劇場の演劇なども勉強になるんですよね」という言葉も。「模倣とか妄想とか。この喋り方だって、誰かを真似しているわけだしね。それは最近、しょうがないと思って。オリジナリティってないんですよね、自分のなかに」「自分らしさを訴えていくのは苦しい。好きな人がいっぱいいるというのが幸せ」という話からも、桑田の音楽観、人生観が感じられた。『桑田佳祐 LIVE TOUR 2022 「お互い元気に頑張りましょう!!」』にも、桑田自身が通ってきたアーティストや音楽、様々なエンタメの影響がたっぷりと反映されていた。ライブ後半で披露された美空ひばりのカバーはもちろん、歌唱や演奏、演出の端々に、ボブ・ディラン、エリック・クラプトン、前川清、ザ・ドリフターズなど、先達へのリスペクトが感じられる。全体にちりばめられた桑田のルーツや嗜好を受け取ることも、彼のコンサートの楽しみであり、魅力なのだ。