King Gnu、Vaundy、YOASOBI…ストリーミング時代のアルバムのあり方 作品としての完成度を検証

 音楽の聴き方がストリーミングサービスによって大きく変わったことは、誰もが認める事実だろう。新譜から旧譜まで果てしなく広がる配信カタログのなかで、思わず聴きたくなるような音楽を見つけることは意外に難しい。広大すぎる配信カタログの大地に投げ込まれた私たちは、行くあてを見失い立ちすくんでしまうのだ。

 そこで歩むべき道標を示してくれるのがストリーミングサービスのプレイリスト機能やレコメンド機能、自動選曲機能である。ストリーミングサービスのアルゴリズムがいわばDJの役割を果たしてくれる。これまで出会ったことのない音楽に簡単に出会うことができる点では非常に素晴らしいこれらの機能。しかし、ストリーミングサービスが提案してくれるのは、アルバムではなく楽曲単位であることが多い点に留意したい。しっかり腰を据えてアルバムを聴くことも少なくなったのと合わせて、アーティストの垣根どころか国、ジャンルの垣根を越えて楽曲単位で自らの好みを追求する音楽鑑賞スタイルが主流化しつつあるのは、ストリーミングサービスの功罪でもある。

 そして、このように音楽の受け手であるリスナーを取り巻く環境が変化することに呼応して、音楽の送り手であるアーティスト側にも変化が生じているようだ。これまでアルバム単位で勝負するのがアーティストの矜持であった側面もあるが、ストリーミングサービスの普及により楽曲単位の注目度が高まり、リリースのハードルが低いデジタルシングルが一般化したことも相まってか、シングル重視志向が強まっている。

 さかのぼるとCD全盛期の1990年代、Mr.Childrenが大ヒットを記録した「Tomorrow never knows」「everybody goes -秩序のない現代にドロップキック-」「【es】 〜Theme of es〜」「シーソーゲーム 〜勇敢な恋の歌〜」の4枚のシングル曲を作品の趣旨に合わないという理由でアルバム『深海』(1996年)に収録しなかったことは、当時のアルバム重視志向を象徴する出来事である。一方、ストリーミングサービスが普及した2020年代、米津玄師『STRAY SHEEP』(2020年)やずっと真夜中でいいのに。『沈香学』(2023年)のようなヒットアルバムを見ると、収録曲の間で生まれる楽曲と楽曲の相乗効果や統一感のようなものが希薄で、シングルの集合体が、かろうじてアルバムの体を成しているようにさえ思えてしまう。しかしながらアルバムとしての存在感が希薄化すると同時に、1曲ごとに完結した高い完成度と強度を備えていることもまた確かだ。これは作品の良し悪しの問題ではなく、ストリーミングサービスが主流のこの時代に「どのように音楽を届けていくのか」という問いに対するひとつの回答なのではないだろうか。

 そんななか、シングルを精力的にリリースしながら、アルバムというフォーマットを通して、音楽の届け方についてそれぞれ違った回答を示したのが、今年10月〜11月にかけてリリースされたYOASOBI『THE BOOK 3』、Vaundy『replica』、King Gnu『THE GREATEST UNKNOWN』の3作である。

 まず、YOASOBI『THE BOOK 3』。EPとしてリリースされている本作だが、10曲という収録曲数からしてアルバム的な作品と捉えることが可能だろう。インタールードを除く収録曲のすべてがデジタルシングルの既発曲で構成されており、一見するとアルバム的な統一感から最も遠い存在に見える本作が、アーティストとしてのコンセプトに立ち返ると『THE BOOK 3』が示すYOASOBIなりのアルバムのあり方への回答が見えてくる。YOASOBIは、小説・イラスト投稿サイト「monogatary.com」に投稿された小説を楽曲化するプロジェクトとして始動したコンセプチュアルなユニットである。星野舞夜の小説『タナトスの誘惑』を原作に作詞作曲された「夜に駆ける」をはじめ、これまで“小説”と“楽曲”がしっかり連携するような楽曲制作にこだわってきた。もちろんこのコンセプトは『THE BOOK 3』にも通底しており、特に直木賞作家の島本理生、辻村深月、宮部みゆき、森絵都による小説を原作として制作された楽曲が収録されるなど、当初のコンセプトをさらに突きつめたものとなっている。その結果、『THE BOOK 3』は上質な小説の短編集のような仕上がりになったと言えるだろう。積極的なシングルリリースでしっかり音楽シーンに存在感を示しながらも、ブレることのない一本筋の通ったコンセプトのなかで収録楽曲を構成し、独自の世界観を演出したYOASOBIらしい回答だ。

YOASOBI「勇者」 Official Music Video/TVアニメ『葬送のフリーレン』オープニングテーマ

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