『トップガン マーヴェリック』に込められた“続編”以上の意味 トム・クルーズの集大成に

続編以上の『トップガン マーヴェリック』

 公開から36年を過ぎた『トップガン』に対する想いは人それぞれだろう。1986年当時、青春を謳歌していた人はレイバンやフライトジャケット、あるいはKAWASAKIのバイクを買ったかもしれない。それから毎年のように繰り返されたTV放送で初めて観た人や、VHSを擦り切れるまで観た人もいるだろう。1982年生まれの僕は、随分経ってからDVDで初めて観た。1980年代という時代を象徴するようなポップな作りに「こんな時代もあったのだなぁ」と、一時代を参照する以上の気持ちは特段芽生えなかった。

トップガン マーヴェリック

 『トップガン マーヴェリック』は冒頭5分で、1986年に熱狂した者たちと熱い抱擁を交わす。高らかに鳴り響くケニー・ロギンスの「Danger Zone」に、僕はひっくり返りそうになった。続いてトム・クルーズの登場だ。およそ60歳には見えないが、それでも36年を経た顔のしわ、たるみ、変形した鼻の歪みをスクリーンに焼き付ける。そしてマーヴェリックは今もなおレイバンをかけ、あのフライトジャケットに袖を通し、KAWASAKIのバイクを愛用していた!

 それは1986年以来、トップスターであり続けたトム・クルーズのスタンスそのものでもある。この偉大な俳優は青春映画の主人公に過ぎなかったマーヴェリックに、36年分の行間と深みをもたらした。本作で今もなお現役のマーヴェリックは、最新鋭機のテストパイロットとしてマッハ10の壁に挑戦している。この冒頭部で前作『トップガン』よりも重要な引用をされているのが、1983年のフィリップ・カウフマン監督作『ライトスタッフ』だ。アメリカとソ連の宇宙開発競争を描いたこの群像劇で、宇宙に挑むエースパイロット達に託されたのは“Right Stuff=正しい資質”を持った者達によるフロンティアスピリットである。中でも開発競争の主舞台が宇宙に移ってもなお、音速の壁に挑戦し続けたチャック・イェーガー(サム・シェパード)の姿がマーヴェリックにダブる。またこの映画で宇宙飛行士ジョン・グレンを演じていた名優エド・ハリスが、本作ではマーヴェリックに飛行機乗りの行く末を突きつける海軍少将を演じているのも重要だろう。そう、『トップガン』は36年の時を経て“アメリカの空の男の映画”として還ってきたのだ。

『トップガン』(写真提供=Photofest/アフロ)

 では、マーヴェリック=トム・クルーズが飛び続けているのはどこか? それは“映画”の地平である。トムの若々しさに誤解しかねないが、『トップガン マーヴェリック』は歳月を否定する映画ではない。36年を経て合流が叶ったメインキャストはアイスマン役のヴァル・キルマーただ1人であり、実際に咽頭がんを患った彼は声を出すこともできなかった(劇中の音声はキルマーの昔の声と、実子の声をAIが合成したものだという)。ストーリー上、登場しても全くおかしくないメグ・ライアンはとうに一線にはおらず、オリジナル版の映像で回想されるのみである。36年間、“飛び続ける”ことは決して容易くはない。そしてストリーミングサービスが台頭し、コロナによって映画産業の衰退に拍車が掛けられた今日、映画スターという存在も未来に居場所はないのかもしれないのだ。それでもマーヴェリックは言う。「Not Today」と。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる