『下剋上球児』が放つ未来へのエネルギー 鈴木亮平が果たした下剋上の意味
二度と来ない夏の終わりは、まぶしかった。
星葉高校を破り、県大会決勝に進出した南雲(鈴木亮平)と越山高校野球部。『下剋上球児』(TBS系)最終話で、越山は日本一の下剋上を目指す最後の戦いに挑んだ。
甲子園出場を目前にした越山高校の前に立ちはだかった資金力の壁。「優勝しても甲子園には行けません」と校長の丹羽(小泉孝太郎)は町の人々に訴える。農漁業で成り立つ町で3千万円という費用は途方もない金額で、それでも部員たちを気持よく送り出したいと教師たちは頭を下げる。ザン高の野球部は、いつの間にか誰もが応援したいと思う存在に変わっていた。
夏の終わりは3年生にとって引退を意味する。また、高校生の彼らには進路の問題が迫る。夢から覚めた時そこにあるのは現実で、仲間と白球を追った夏は記憶の彼方だ。そんな予感を抱くからなおさら目の前の一瞬が名残り惜しく、かけがえのないものに変わる。
甲子園を目指す部員たちに油断はなかった。円陣の中心にいる椿谷(伊藤あさひ)にとって、キャプテンとしてグラウンドに立っている事実そのものが、重ねてきた努力と鍛錬の日々を物語っている。伊賀商業との決勝では、準決勝に続いて根室(兵頭功海)が先発のマウンドに立った。負傷の久我原(橘優輝)に代わって1番バッターには日沖壮磨(小林虎之介)、2番には椿谷がスターティングメンバーに名前を連ねた。4回まで伊賀商を0点に抑えた根室は、5回に伊賀商打線につかまる。根室は前日130球を投げて疲労が蓄積しており、3点を失ったところで降板。ここでベンチが動いた。
サイドスローの1年生ピッチャー阪(中山翔貴)が後続を打ち取った5回裏。ここまで上位のチームを打ち破ってきた越山には精神的なタフさがあり、試合はここからとばかり反撃に打って出る。下剋上のスリルは勝ち上がった結果ではなく、反転攻勢の瞬間にこそあって、投手のクセを見抜いてダブルスチールで得点圏内にランナーを進めると、9番の根室は先制点を献上した悔しさを晴らすかのように2点適時打を放ち、壮磨のヒットで同点に追いついた。