『エイリアン:ロムルス』は原点に立ち返る一作に フェデ・アルバレス監督の手腕を検証
SFサバイバルスリラーの決定版にして代表格といえる、映画『エイリアン』シリーズ。その歴史のなかで『プロメテウス』(2012年)、『エイリアン:コヴェナント』(2017年)と、近年はとくに物語の起源を描こうとする作品が製作されていたが、このほど公開された『エイリアン:ロムルス』は、シリーズ中でも娯楽色の強い内容で、観客に恐怖を与えるという意味で、原点に立ち返る性質を持った一作となった。
世界中で多くの観客を動員し、日本でも週末映画ランキングで洋画No.1スタート切っている『エイリアン:ロムルス』。多くの観客が、このような娯楽スリラー大作としての『エイリアン』を待ち望んでいたということだろう。そんな本作『エイリアン:ロムルス』の、実際の内容は果たしてどうだったのか。ここでは、内容と製作事情の両面から、本作の立ち位置を検証していきたい。
『エイリアン』シリーズは、リドリー・スコット、ジェームズ・キャメロン、デヴィッド・フィンチャー、ジャン=ピエール・ジュネと、それぞれに強い個性を持つ実力派監督によって継承されてきた。こうして並べてみると、いずれも映画界に大きな影響を及ぼし、変革を促してきた才能だということが分かる。また、成立はしなかったものの、ニール・ブロムカンプ監督が続編を手がける企画もあった。
今回のフェデ・アルバレス監督は、『ドント・ブリーズ』シリーズを成功させ、ヒットシリーズの続編を手がけてきた経験がある。これまでの監督たちと比べると、ポップで明快な作風という点ではキャメロン監督に近いともいえるが、作家性の面では、やや小粒に見えてしまうのも確かではある。そういう意味において、現時点でのアルバレス監督にとって、かなりプレッシャーのかかる企画であったはずだ。
そういう状況下では、どのように立ち回れば、失敗を回避し、観客を魅了することができるだろうか。それはやはり、自身の持ち味を存分に発揮し、すでに観客に受け入れられている表現を利用するということになるだろう。そこで監督は、最も自信のあるだろうオリジナルシリーズ『ドント・ブリーズ』の構図を、『エイリアン』の世界観のなかで再現することにしたのではないか。
『ドント・ブリーズ』の第1作(2016年)は、自動車産業が廃れてゴーストタウン化していく街に住む若者たちが、目の見えない退役軍人の家に忍び込んで盗みをしようとするが、逆に異常な人物の恐ろしい反撃に遭ってしまうという設定だった。本作『エイリアン:ロムルス』もまた、SF的な意匠が施されているものの、危険な生物の待つ宇宙ステーションに忍び込んでしまうという、同じような状況が描かれるのである。
本作にはそれだけでなく、これまでの『エイリアン』シリーズの要素も、ふんだんにとり入れられた。ゴシックホラー的な雰囲気や派手なアクション、悪趣味な展開など、複数の監督の持ち味が反映されていたはずの作風が、バランスよく作中にちりばめられたのである。つまり、既存のシリーズの面白い部分、魅力的な部分をパッチワークしたということだ。これによって本作は『エイリアン』シリーズを総まとめするような、盛り沢山なものになったということだ。“一粒で何度も美味しい”のだから、満足度が高いのは当然だ。