人生後半の『ほぼ写真日記』

笹の葉8の日々散歩とひとりごと

《ミニチュア写真日記》桜色のワンピース*洋裁店の物語


前回


洋裁店のショーウインドウの片隅に見つけた


不思議な文言


『記憶のほころび繕います』


『思い出の破れた穴を補修します』


さて今回は…


ーーー+ーーー+ーーー+ーーー+ーーー+ーーー+ーーー+ーーー


洋裁店に初めて気づいてから


何度か前を通りかかったが


入店する勇気がわかなかった


口実にしてもまず


依頼して作ってもらいたい物が


さっぱり浮かばないのだ



そんなある日のこと


店内に


完成品の試着とおぼしき


若い女性がいた


女主人は丹念にチェックしている



後ろ姿はどうか



首から肩にかけての均等なフリル



フレアーの流れはエレガントか



バックリボンの仕上がりは可憐か


真剣でありながらも


何やら話しながら進めてゆく


柔和な笑顔の二人


納得ゆく仕上がりらしい



桜色のワンピースは


祖母のアルバムで見たような


とても古風なデザインだけれど



若い女性にとても似合っていた



商談が終わったのか


「お茶を一杯召し上がれ」と
女主人が誘う



若い女性はワンピースは着たままで


このままどこかへ出かけるらしい


おめかしして行く大事な用事が
あるのだろうか



女主人「さぁどうぞ。お好きでしょう?」


漂う紅茶の清々しい香り


若い女性は


目を閉じて胸いっぱいに吸い込んだ




すると


女性の姿は


霞がかかったようにおぼろげになり


とうとう消えてしまった…



女主人は全く驚きもせず


何事もなかったかのように


ティーコージー(Tea Cosy)を
ポットにかぶせた



そう…紅茶がさめないように…




男はあっけにとられ


今自分は一体何を見たのだろうかと


思わず洋裁店のトアを開けたのだった




女主人「いらっしゃいませ」


男「あの…客じゃないのですけれど…」
  
と戸惑いながら


以前ショーウィンドウで見た不思議な文言の事と


今実際に見た若い女性の話をしたのだった。



女主人:ふふっ…あなたには


    あのカードの文字が見えたのですね


    この店を訪れる人は


    カードの文字が見える人と


    見えない人の二通りだけ…



    カードの文字が見えない人には


    桜色のワンピースはずっと


    洋裁用のボディーに


    掛かっていただけですよ


            つづく

  翻译: