【読了記録】横山秀夫「ノースライト」感想
今回は話題のミステリー作品を読んでみました。
「半落ち」「クライマーズ・ハイ」など名作を生み続けている横山秀夫さんの新作、「ノースライト」です。
西島秀俊さん主演でドラマ化もされているので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
結末までは書きませんので、未読の方も安心してご覧いただければと思います。
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*>あらすじ<*
一級建築士の青瀬は、信濃追分に向かっていた。たっての希望で設計した新築の家。しかし、越してきたはずの家族の姿はなく、ただ一脚の古い椅子だけが浅間山を望むように残されていた。一家はどこへ消えたのか? 伝説の建築家タウトと椅子の関係は? 事務所の命運を懸けたコンペの成り行きは? 待望の新作長編ミステリー。
タイトルである「ノースライト」とは住居の北側から降り注ぐ自然光のことで、主人公青瀬が設計したY邸の最大の特徴でもあります。
雑誌に選ばれ、「Y邸と同じ家を建てたい」という依頼が来るほどまでに独創的で素晴らしい家だったにも関わらず、一括でY邸を購入した吉野一家は姿をくらましてしまいました。
唯一Y邸に残されていたドイツの建築家、ブルーノ・タウトの作品と思しき椅子をヒントにタウトの足跡を辿りながら吉野へ繋がるヒントを探します。
一方で青瀬が所属するスタッフ5名の小さな事務所は市をあげての一大プロジェクト、「藤宮春子メモワール」のコンペに参加することが決定します。
事務所を大きくする一大チャンスに息を巻くスタッフ一同ですが、コンペ参加の獲得に後ろ暗いやり取りがあったようで……。
吉野一家の捜索と、メモワールのコンペという2つの問題がブルーノ・タウトを通して青瀬にどのような影響を与えていくのかというのがカギになってくるストーリーです。
*>見どころ:ひとりの建築士の代表作を巡る数奇なミステリー<*
実は青瀬はバツイチで、デザイナーの元妻・ゆかりとの間にできた一人娘・日向子と月に一度面会をしています。
離婚の直接的な原因はバブル崩壊により青瀬が職を失ってしまったことでしたが、元を辿ると二人の「住みたい家」の理想が食い違っていたことからすれ違いが生じ始めていました。
大学時代の友人、岡嶋に救われ建築士に復職できたものの、無難でクライアントの顔色を窺うような建物しか建てられなかった青瀬。そんな中「住みたい家を建ててください」という吉野の依頼に火が点き、通常なら南から光を取り込むことが多い住居の常識を覆したノースライトを取り入れるという斬新な家を作りました。
Y邸と吉野陶太の行方は?
青瀬が設計したY邸は「青瀬さんが住みたい家を建ててください」という吉野きっての要望を受けて完成したものでした。
会心の出来にも関わらず、そのY邸を手付かずで放置している吉野に複雑な心境の青瀬は取り残されていたブルーノ・タウトの椅子を唯一の手がかりとし吉野の捜索を始めます。
タウトが日本で過ごした数年間の遍歴を辿りながら、その先に吉野陶太のルーツを見つけます。
- 吉野一家はどこに行ってしまったのか
- 吉野陶太はなぜタウトの椅子を持っていたのか
- なぜY邸を購入したにも関わらず放置してしまったのか
始めは起こっていることすら理解が追いつきませんが、タウトのルーツを辿るうちに吉野の痕跡が断片的に表れてきます。
すべての線が繋がったとき、Y邸は青瀬にとってさらにかけがえのないものとなります。
設計事務所の命運を分けるコンペはいかに?
たった5人で回している設計事務所が大プロジェクト「藤宮春子メモワール」のコンペに参加できたのは、所長である岡嶋の根回しによるものでした。
岡嶋は青瀬の同級生であり友人ですが、設計事務所の中では所長と所属建築士です。
「事務所を大きくしたい」という岡嶋の思いが無茶に走り、コンペの直前に事務所はピンチを迎えます。
- 青瀬と岡嶋の関係性はどう変わっていくのか
- 岡嶋は本当はどういう男だったのか
- コンペと設計事務所はどうなるのか
Y邸の問題とは一見無関係に見えるコンペの話ですが、実はブルーノ・タウトの遍歴を辿るうちに青瀬の建築士としての情熱が呼び覚まされます。
岡嶋の根回しが露呈し事務所がピンチになりますが、この事件を通して青瀬・岡嶋の関係と青瀬の事務所に対する思いが変化していきます。
*>感想:ノースライトの降り注ぐ家に住んでみたい<*
長編ミステリーではありますが、殺人事件が起きたり主人公の身に危険が迫るわけではありません。ページ数もかなり多いです。
それでも常にドキドキ・ワクワクしながら読むことができる魅力的な一冊でした。
タウトと吉野を追うパートと、岡嶋やコンペに関するパートがテンポよく切り替わる上、どちらも気になる展開が続くので私はあまり冗長に感じませんでしたね。
あと、自分の無知にびっくりなのですが、私は最後まで「ブルーノ・タウト」は架空の人物だとばかり思っていました(*ノェノ)
本作を読み終わって最後、参考文献のページを開いたときに驚くべき数のタウト関連書籍があり思わず感嘆のため息が出てしまいました。タウトに関する描写がとても細かく、魅力的な人物に感じられたのも頷けます。
ミステリーではありますが、最終的には「家族」の物語だと感じました。
本作には多くの家族が登場し、それぞれ苦難を抱えています。
当たり前ですが、同じ家に住んでいるから家族です。これから読む人にはこれだけ覚えていてほしいです。
切ない気持ちに胸を締め付けられることもありますが、最後は暖かく前を向けるような形で締めくくられていますので読後感はとてもいい作品だと思います。
ぜひ、ご一読を。
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