最近読んだ本『ファミリーランド』（澤村伊智、角川ホラー文庫）

2023/06/29
23:10

　澤村伊智『ファミリーランド』（角川ホラー文庫）を読みました。家族がテーマのＳＦホラー連作集です。

「コンピューターお義母さん」

　IT強者の姑が、IoTデバイスなどを駆使して老人ホームから嫁いびりを続け、嫁が追い詰められていく様子を描いた近未来ＳＦホラー短編です。後半に収録されている「今夜宇宙船の見える丘に」と話が繋がってます。

「翼の折れた金魚」

　嫌な気分になること請け合いの、イヤミスのような近未来ＳＦホラー短編です。薬物を使用して生まれた金髪碧眼で高知能の「計画出産児」が子供たちの大多数になった世界。薬物を使わず生まれた黒髪黒瞳の子供は「無計画出産児」と言われ、「デキオ」「デキコ」と呼ばれて、蔑視されています。主人公の小学校教師は、自分では公平で良識ある大人のつもりのようなのですが、無計画出産児とその親への嫌悪感や差別意識は強烈です。

「マリッジ・サバイバー」

　宗教二世のようなサラリーマン男性が婚活サイトで似たような境遇の女性と知り合い、結婚しますが、GPSや各種センサーなどが内蔵された結婚指輪による相互監視に慣れることができません。指輪による監視が当たり前の近未来の社会で、それに馴染めない彼は精神的に追い詰められますが、電波の通じないオフライン区画で、開放感のあまり、やらかしてしまいます。

「サヨナキが飛んだ日」

　鳥型の看護ロボット「サヨナキ」が家庭に普及している近未来。高機能でかわいいサヨナキとの関係に依存的になる人や、サヨナキを連れて外出する「鳥人」なる人たちが現れます。主人公の女性は、娘がサヨナキとベッタリな関係になっていることを心配し、思い切った行動に出るのですが、本当にヤバイのは主人公の方でした。

「今夜宇宙船の見える丘に」

　近未来の介護と、宇宙人とのファーストコンタクトを取り扱ったブラックなＳＦ短編です。冒頭の「コンピューターお義母さん」と話が繋がっており、主人公の友人は「コンピューターお義母さん」の主人公の夫です。「コンピューターお義母さん」で最後に出てきた「この分野のパイオニア」、「エキスパート集団」は、「今夜宇宙船の見える丘に」では重要な立場で登場します（たぶん）。

「愛を語るより左記のとおり執り行おう」

　バーチャル空間で葬式が行われている22世紀。ドラマディレクターの主人公は、昔ながらのリアルな葬式が行われることを知り、その葬式を手伝いつつ、取材、撮影することになります。誰も見たことがないリアル葬式に悪戦苦闘する様子がユーモラスに描かれたドタバタＳＦでした。

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