演出・出演 鳳恵弥 舞台『BARON』開幕

事実は小説より奇なり、タイトルの『BARON』は犬の名前、黒いラブラドール犬。家族同然のバロンに起こった本当のお話。ある日、具合が悪くなったバロン、もちろん、獣医のところに連れていくも…。

重い話だが、出だしのオープニングは軽やかに、登場人物(犬も)が全員揃ってダンス。この物語の家族、父、母、娘が2人、息子は1人、仲良しこよしというわけではなさそう。反抗的な次女、ちょっとヤンキー入ってる息子、優等生な長女、しっかり者の母、大病をした父、そんな家族に一匹の犬がやってきた。少々ヤンチャなラブラドール犬、バロン(鳳恵弥)と名付けられ、家族の一員となる。とりわけ父・たかし(亀吉・土田卓Wキャスト)はバロンに「メロメロ」状態。なんとバロンともコミュニケーションが取れるように(笑)、犬と人間が普通に会話(爆)。

飼い主の義務、予防接種、注射は痛い、バロンも他の犬と同様に注射を全力で嫌がる、この嫌がり方が抱腹絶倒。バロンだけでなく、犬をもう2匹飼う、合計3匹の犬、賑やかな家、動物のいる暮らしは楽しく、世話は大変だが、その可愛さを考えれば苦にならない。そして獣医より去勢手術をすすめられて…が大体の流れ。
散歩のシーン、3匹の犬がご飯をめぐっての小競り合い(笑)、迷子になるバロン、楽しいエピソードは、家に犬がいた、今、犬を飼ってる観客なら大きく頷ける場面。犬が家にいる、家族が増える、和みの場面。

だが、去勢手術をしてしばらく経ったある日、バロンが具合が悪くなり、一向によくならない下りは、その後がわかっているだけに胸が痛い。だが、バロンを通じて家族が変化していく。

バロンが亡くなり、悲しみにくれる家族だが、バロンが亡くなった原因、去勢手術、セカンドオピニオンの獣医に診察してもらい、驚愕。愛する家族の死、知ってしまった闇、家族は立ち上がる、こんなことがあってはならない、同じようなことで他の犬が亡くなるのは耐えきれない、誰もそんなことで悲しい思いをしてはいけない、その一心で立ち上がる。ゲネプロでは「愛組」、この家族の父親である谷口たかしは亀吉、涙しながら熱演、芝居を超えて「本当の飼い主さん」に思えてくる。

バロンを演じているのは演出も担う鳳恵弥、みているうちに犬のバロンってこんな感じだったのかな?と思わせてくれる。注射を嫌がり、大暴れするところはお笑いポイントだが、犬ってこんな感じだよねーとしみじみ。注射させまいとジタバタ。また、問題の獣医、注射のシーンでは普通な獣医だったが、誤診療が発覚するとダークな空気感に。自分たちの保身に走りまくり、びっくり発言も。

そして犬を『もの』扱い。「民法」では、動物は有体物として「動産」に含まれている。また、他人が所有する動物を故意に殺傷すれば、「刑法」の「器物損壊罪」に問われることになる。動物愛護法では、動物は「命あるものである」と記されている。裁判(ペットが死亡した事案)の中で、相手方側からは、ペットは「物」なので慰謝料を認めるべきではない、慰謝料を認めるとしても少額に留まるべきである旨の主張がなされることがある。現在の日本の民法では、ペットは「物」として扱われているのが現状。そんな日本の現実に一石を投じた出来事が、このバロンをめぐる事件である。

裁判が終わり、しかしバロンはもう戻ってはこない。だが、ラストシーンは…泣ける、たかしの思いが天に届いたのか、そう思わせるラスト。最後はみんなでダンス!描かれていることは重いが、それを感じさせない舞台、だが、軽いというわけではなく、所々に笑えるシーンを挟みつつの構成、家族のこと、命のことさまざまなテーマを内包。公演は28日まで。

ゲネプロ終了後、会見が行われた。登壇したのは、園田英樹、七葉玲、亀吉、鳳恵弥、土田卓、久保沙由李、西雲アキラ、新葉尚。ちなみに七葉玲、新葉尚は姉妹、伝説のアクションスターで現在闘病中の大葉健二さんの娘さん。
総合監修の園田英樹は立ち上げから関わったそう。「実際の事件を知っていただき、なおかつエンタメにする、脚本の七葉玲さん他、皆さんと一緒に」とコメント。脚本の七葉玲は「初めて舞台の脚本をやらせていただきました。園田先生からお話をいただきながら…なんとか形にすることができました。皆さんが素敵に演じてくださって感動しております」と挨拶。これが初舞台の新葉尚は「初めて舞台に出演し、人前で歌って…先輩方とご一緒に…感謝の気持ちでいっぱいです」とコメント。長女役の西雲アキラは「実際にあったお話ですけど、私自身は猫ちゃんを飼っておりますので没入しやすいお話だなと。素敵な作品だと思います」と語る。母であり妻のみなこを演じた久保沙由李は「実際にあったお話なのでバロンちゃんがどういうわんちゃんだったのか実際にお話を聞くことができて、どういう事件かも調べることができました。わんちゃんの気持ちはなかなか分かりませんが、こういうときにわんちゃんはどう感じるのか…バロンはどう考えているのか、が難しかったです。家族の話で温かい気持ちになりますので、年末最後の舞台として」とコメント。優しい眼差しで家族を見守る姿が印象的。鳳恵弥は「この作品は私が犬をやりたいがために、すごく切望しました(一同、笑)。かなり重たい話になっております。20年前にあった話が忘れ去られることなく、こうやって上演されることによって、不幸に亡くなってしまう命が少なくなればいいと思っています。(「演出家としては?」の声が)演出家としては、『CATS』みたいな王道のものがありますが、人間とのmixものはあんまりないんじゃないかな?と。そのコンビネーション、書いていただきました、そこを楽しんでいただければ」と語った。

Wキャストでたかし役の土田卓は「皆さんが仰ったように、現実に起こった事件…そこのバランスが難しいんじゃないかな?と思いつつ稽古してきました…舞台で人間が犬を演じる、映画でもできない、人間だからこそできる表現で家族のこと、そういうのを表現してお客様に伝える。本当に嬉しいですし、こういう作品を通じて再認識していただけると」と作品意義について語った。今回のゲネプロでたかし役を演じた亀吉は「皆さんが全部言ってくれたので…家族のために…(涙)、家族のために…(涙)戦うというのが本当に大変なことなんだなと。話は辛い内容が多いんですけど、最後は心が温まるので、この寒い季節の年末にぜひ観にきていただけたらと思います」と涙ながらに語った。
犬を演じた鳳恵弥、演じるに当たって参考にした「わんちゃん」は「たくさん観察して結構癒されました。やはりラブラドールに注目して見に行きました。以前、猫をやらせていただきまして、犬は注目してみると結構体幹で表現してる、みたいな。人の顔をジーーっと見ていることが多いですね。動かないので…ちっちゃな仕草とか」犬、あるある。亀吉は「すごくデイスカッションして、稽古場から年齢差関係なくひとつの輪ができた。『いい感じだな』と」と語った。チームワークの良いカンパニー、公演は「愛組」と「絆組」交互に上演。

バロン事件とは
ペットに対する医療詐欺事件として争われた『バロン事件』 去勢手術を受けたラブラドールがその翌年にセルトリ細胞種(睾丸の癌)を発症し、死亡したことに対するこの裁判は当時の獣医師界に蔓延していた闇を暴き出す結果となり4年の法廷闘争を経て2007年ペット裁判としては異例の100万円を超える賠償判決と共にセンセーショナルに報道された。

あらすじ
谷口たかしは50を少し越えたばかりの経営者、経営者とは言っても会社は休業状態。40才を迎えバブルの足音が聞こえる好景気の中で一念発起と会社を起こした、サラリーマン生活との二足の草鞋で昼夜 を問わずに働いてやっと軌道に乗ったのも束の間、息が出来ないほどの胸の苦しみを感じて気づいた時に は病院のベットの上だった。ビニールに囲まれた集中治療室を経て何とか一命を取り留めるが、それこそ 仕事どころではない、先ずは日常生活を何とか送れるように懸命のリハビリを続けるが、大学生になった長女は変わらぬ優等生だが、次女はそんな姿になった自分を馬鹿にし、長男は家族が寝静まる夜になると 遊びに出るようになってしまった。
そんな前途多難なたかしを支えるのは献身的に看病をしつつ、バラバラになりそうな家族を必死に繋ぎとめる妻みなこと、朝夕のリハビリのお供として新しい家族になった黒いラブラドール犬、バロンだった。

概要
『舞台【BARON】』
日程・会場:2023年12月23日 (土) ~ 12月28日(木) サンモールスタジオ
作:七葉玲
演出:鳳恵弥
出演:
鳳恵弥、土田卓、亀吉、久保沙由李
西雲アキラ、新葉尚、猿木清郷、佐藤祐亮
片岡断行、高橋千尋、森元夏美、ランディ井上
神河怜奈、一之瀬岳、若宮恭平、乙花美里
西尾莉奈、尾島穂香

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