奈良少年刑務所、本年度中に業務停止 明治のれんが建築保存へ 活用案に博物館やホテル
本年度中に業務を停止し、れんが造りの建物を保存することが決まった奈良少年刑務所=2016年9月7日、奈良市般若寺町
奈良市般若寺町の明治のれんが建築、奈良少年刑務所建物について、法務省はこのほど、受刑者収容業務を本年度末までに停止し、建物の保存と活用を図ることを決めた。地元では、自治会や保存を求める市民団体が、建物の重要文化財指定などを目指す運動を展開してきた。
同省は建物の保存と活用に当たって、民間の資金や手法を生かすPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)方式を検討しており、入札や調達に当たって事前に民間事業者から提案を募る情報提供依頼書を先月、公表した。
同書によると、建物は築100年を超え、経年による老朽化が著しく、刑務所として利用し続けるのは難しい状況にあるという。一方で、歴史的・文化的価値が高い近代建築として、さまざまな方面から保存への関心が高まっているとしている。
保存には耐震改修が必要といい、PFI方式による活用では、民間事業者は自らの負担で改修を行い、その費用には建物を活用した事業からの収益を充てる。事業の種類に制限はないが、博物館やホテル、にぎわい施設などが例に挙がっている。
同刑務所は1908(明治41)年、奈良監獄として建てられた。明治時代、国が監獄施設の近代化を目指して建てた全国の「五大監獄」の一つ。建物全体が現存しているのは同監獄だけという。
情報提供依頼書に添付された参考資料によると、敷地は広さ約10万平方メートル、建物はれんが造り2階建てで延べ床面積9800平方メートル。刑務所の収容定員は696人。明治期のれんが造りの建造物としては、正門や庁舎、舎房、外塀などがある。
地元では、2014年10月に「近代の名建築 奈良少年刑務所を宝に思う会」が、周辺の自治会代表者や市在住の作家、まちづくり団体関係者、建築の専門家らが呼び掛け人になり発足。また、ことし5月には、般若寺町自治会(小井修一会長)と鼓阪地区自治連合会(横田利孝会長)が、建物の保存を求める要望書を宮地重光・同刑務所長に手渡した。
7日、同刑務所付近の住民に取材した。
刑務所前を犬と散歩していた男性(66)は、刑務所内にある受刑者のための理容師養成施設「若草理容室」(8月31日閉店)を長く利用するなど、刑務所は身近な存在だったと語ったが、建物の保存決定には特に感想はないとし、「観光客がどんな形で来ることになるのか。今でも刑務所の前まで車で来て、写真を撮って帰る人がいる。刑務所の前は通学路になっているので車の流れが心配」と話した。
刑務所の前に住む東野正義さん(66)は「刑務所廃止後は住宅地になるのかと思っていた。たくさん人が来たら良いことだと思うが、刑務所をホテルや博物館にして経営が成り立つのか不安がある。保存する以上は多くの人に利用してもらえるようにしてほしい」と話した。