奈良県:大淀町公社 購入土地から産廃、撤去費1.2億負担 不法投棄、町が過去に指摘 元所有者への請求断念
大淀町が過去に産業廃棄物の不法投棄を指摘した町内の土地を、町土地開発公社が工業団地の造成を目的に購入し、廃棄物の撤去・処理費用1億2400万円を負担していたことが、「奈良の声」の調べで分かった。公社は廃棄物の存在は聞いていなかったとして、土地の元所有者を相手取り、いったん損害賠償請求訴訟を起こしたが、過去のいきさつから、土地の購入時に廃棄物の存在を知らなかったと言い切れず、訴えを取り下げた。
同費用は公社の損失として計上された。公社の設置者である町は、町議会で請求を断念したことを報告したが、こうしたいきさつがあったことは明らかにしていない。
現場は同町馬佐の町木材工業団地。公社などによると、同団地は町内の製材業者を1カ所に集めるのが狙いで、町が地場産業の製材業の活性化を目的に計画。1994年に完成した。用地取得や造成、販売を公社が行った。広さ約6ヘクタールで、現在9社が操業している。事業資金の10億円は全額町からの融資で、町の一般会計から支出された。
産業廃棄物が見つかったのは団地南西端にある約6800平方メートル区画地の一角。公社から同区画地を買った橿原市の業者が工場建設のため、2009年9月、土地を掘削したところ、地下3~5メートルから出てきた。公社が県廃棄物対策課に提出した報告書によると、がれき類、金属くず、廃プラスチック類、木くず、繊維くず、ガラスくずで量は9000トン余りに上った。
問題の一角は1999年4月、町内の男性から約3600万円で購入した1700平方メートル余りの土地。同区画地を整形するために買い足した。公社は2011年1月、同土地の所有者だった男性を相手取り、産業廃棄物が不法投棄されていることを隠したまま土地を売ったとして、撤去・処理費用などの負担を求めて損害賠償請求訴訟を起こした。ところが、同年12月、突然、訴えを取り下げた。費用は2011年度決算に特別損失として計上された。
男性の関係者によると、男性は訴えの取り下げを受け、2013年1月、町と公社に対し、訴訟に対応するため依頼した弁護士の費用を請求する文書を送付した。請求を放棄した理由について公社から説明がないとの抗議も文面に添えた。これに対し、公社の弁護士から同年2月、文書で回答があったという。内容は、同土地に産業廃棄物が未処理のまま存在することについて、公社が一切知らなかったという主張の根幹に疑義が生じた、というものだった。
回答文書によると、公社が男性から説明を受けたとまでは確認できないものの、町が新たに発見した資料に、1994年から95年にかけて同土地近辺で産業廃棄物の不法投棄や野焼きがあり、町が男性や産業廃棄物の搬入者に対し指導をしたとの情報があったという。一方、購入当時の事情を知っていた可能性のある公社関係者はすでに亡くなっているとした。弁護士費用の請求に対しては、応じなければならない法的責任はないとして拒否した。
男性の関係者は不法投棄について、「土地は公社に売却するまで、大阪の業者に資材置き場として貸していた。その業者が無許可で産業廃棄物を埋めたのだろう。勝手に投棄したことに対し、損害賠償を請求しようにも、その業者は倒産してなくなった。公社への土地売却を言ってきた町議(当時、公社理事の一人)には、産業廃棄物が埋まっているからだめだと言ったが、問題にされなかった」と主張している。
公社理事長の南光昭副町長は取材に対し、「産業廃棄物があることが分かっていたら土地は買わなかった。ただ、男性に不法投棄に関する指導をした時期との間には5年ほどの時間差があり、購入当時の公社関係者は認識していなかったのではないか。一つの同じ組織ではないかと言われればそれまでで、結果的にはそれを知りながら買ったことになるが」と見解を述べた。損失が発生したことに対する責任の所在については「明確に個人の責任を立証できるものがない」とした。
責任の所在不明確、説明責任置き去り
◇視点 土地購入時の公社関係者は産業廃棄物があることを本当に知らなかったのか、これらの関係者には損失発生の責任があるのではないか―。そうした疑問に対し、公社は「公社としてはさまざまな事案があるが、理事会で諮り、意志決定し進めている」と主張する。しかし、責任の所在は不明確なままのうえ、住民への説明責任は置き去りだ。
町の公社に関する認識は、岡下守正町長の2011年12月の町議会定例会での答弁によく表れている。この問題を取り上げた議員の質問に対し、「町行政と公社は別の組織であるため、行政の立場、公社への出資者としての立場から回答させていただく」と切り出し、質問した議員をあきれされた。
公社の9人の理事または監事は、町の部長級職員と町議のあて職で、報酬はない。事務局も町企画政策課内にあり、事務局職員は同課職員の兼務。町木材工業団地の造成・販売のほか、町事業用地の先行取得も行っており、町と一体の法人または町の一機関ともいえる組織だ。ほかの自治体同様、事業を効率的に進めるため、便宜的に別法人にしているにすぎない。
2012年3月の定例会では、さらに不誠実な答弁をしている。「裁判を取り消したといううわさも流れているが、どうなっているか」との質問に対し、当時の副町長は、すでに訴えを取り下げていたにもかかわらず「公社の業務内容は公社理事会で決定した事項なので回答は控えさせていただく」として、そのことを明らかにしなかった。
町は同年6月の定例会で公社の2011年度決算について報告、訴えを取り下げたことに触れた。だが、その理由については「事情が変わり、損害賠償請求を放棄することが最善の策であるとの結論に至ったため」の一言で済ませた。具体的な事情は説明しなかった。
公社は13年4月、ようやく情報公開制度の運用を始めた。開示の対象は運用以降に作成された文書という。そうなると、いまだ経緯の説明がないこの問題に関して住民は知るすべが全くないことになる。運用以前の文書が開示されない情報公開制度は極めて不十分だ。
公社の理事会の決定が正当であるかどうか、住民はその審議の中身が明らかにされなければ判断できない。公社の言い分に従えば、町議会に諮っていることを理由に、町議会を非公開にしているようなもの。通らない理屈だ。欠かせないのは公開と透明性である。