争い)激しくも深追いせず/連載 野鳥~自然を生きる知恵・与名正三…3
激しく争うサシバの若鳥と幼鳥
足払いで転倒するシロチドリ
カラスの攻撃を受けるカモメの幼鳥
空中で争うオオタカのメス同士
カラス2羽に追われるクマタカ
全ての野鳥たちは、厳しい自然を生き抜くため、日々、天敵や仲間たちと争わなければなりません。特に繁殖期は縄張りやヒナを守るため、休む間もなく争いに明け暮れます。ちなみに野鳥同士の戦いはどのような形で始まり、どのような形で終息するのかご存じだろうか。
普段、野鳥たちは縄張り内に天敵や他の仲間が入り込まないよう常に、鳴き声や行動で自分の縄張りを主張しています。しかし、そのような警戒にも関わらず、侵入してくる仲間や天敵は後を絶ちません。そのような状態になったとき、縄張りを守ろうとする野鳥と、侵入した野鳥との間で激しい争いが始まるのです。
最初は両者が対峙(たいじ)し、うなり声を上げながら、にらみ合います。その後、両方が足を前に勢いよく蹴り出し、身体をぶつけるようにして争いが始まるのです。仲間同士の争いは実に激しく、相手の胸ぐらに爪を立てたり、足を引っ張り引きずったり、足払いをして相手を押し倒したりとさまざまです。
争いは5分ほどで終わる場合がほとんどですが、まれに猛禽(もうきん)同士だと、にらみ合いが1時間ほど続き、その後、蹴り合いが始まることもあります。侵入した仲間や天敵が、縄張りから出て行ったところで戦いは終息します。
このような争いによって傷ついた後、そのまま弱って死んでしまう野鳥もいれば、カラスの群れに襲われ、食べられてしまう野鳥もいます。もし万が一死ぬことはなかったとしても、厳しい自然の中では、傷ついた野鳥が十分餌を確保しながら生きていくことは難しく、やがて徐々に弱っていき、死んでしまいます。
また猛禽の仲間オオタカやハヤブサ、ハイタカ、ツミなどは、獲物のほとんどが他の野鳥であるため、獲物より早く飛び、追いかけて捕らえなければなりません。争いによって、けがをしてしまうと飛行能力が落ち、獲物を捕らえることができないのです。やがて餌を食べることができず、衰弱して死んでしまいます。
このような事態を防ぐため、野鳥たちは必死になって鳴き声などで、縄張りを主張しているのです。
野鳥同士の争いは、仲間たちや天敵などと殺し合うのが目的ではなく、あくまでも縄張りを守るのが目的です。したがって、争いの末に相手が縄張り内から撤退すれば、決して深追いはしません。深追いをすることによって、お互いがさらに傷つくからです。このように深追いをせず、できるだけお互いに傷つくリスクを避けようとする行為は、厳しい自然を生をきるための、野鳥たちの知恵ではないだろうか。(よな・しょうぞう=野鳥写真家、月1回更新予定)