宿の方にホタル鑑賞ができるポイントを教えていただいて行ってみた。空がまだ薄明るい頃には見えなかったが、辺りが真っ暗になるにつれてフワリと光って舞い飛ぶホタルを鑑賞することができた。以前はもっと沢山のホタルがいたらしいが近年はかなり数が減っているという。それでも、初めて闇に光るホタルに会えたのは感動だった。
想像では人の気配を感じたら逃げていくものかと思っていたのだが、意外にもフワフワと寄ってきたりハグできるくらい近くに来てくれて、想像以上に明るく幻想的なその光景を静かに味わうことができて満足した。
見上げると、すこし曇った空に北斗七星が輝いていた。
翌日は前日の好天が嘘のような大雨になった。悪天候の中、深い霧に閉ざされた渓谷風景が厳かでいい。天気予報で事前に知っていたのでがっかりすることもなく、この日は予定通りホテル内で温泉に浸かったり全身マッサージチェアに揉まれたりゆっくり読書をしたり部屋に侵入してきた大きな蜘蛛を涙目になりながら追い出したりして過ごす。
この日も夜には雨があがったので、夕食後にもう一度ホタルを鑑賞しに出掛ける。
前日に写真を撮っていて思ったのだが、ホタルは写真に収めてもその幻想的な空気感はあまり記録できない。それよりもしっかりと眼に焼き付けたり、体験として感覚的に堪能することがホタル鑑賞の正解だなぁと感じていたので、撮影もそこそこにして雨上がりの湿った空気にほわりほわりと舞う愛らしいホタルをただただ眺めることにした。
翌朝、朝風呂を愉しみ、晴れた景色を眺めながら朝食と珈琲をゆっくりといただいてから宿を後にした。この日は戸河内ICまで歩いてみると決めていた。徒歩だと2時間ほどの距離だが天候にも恵まれて、気持ちよく歩くことができそうだ。
三段峡を後にする時、近くの民家の庭で飼われている犬さんにめちゃくちゃ吠えられた。ものすごくプロ意識の高い番犬らしく、すごい剣幕で一直線に吠えてくる。「そこまで吠えるかねぇ」という勢いなのがちょっと面白かった。
三段峡から戸河内ICまでの距離を徒歩で移動する旅客なんてほぼいないだろうが、私ははじめての場所はただ歩いているだけでもいろいろな発見があって愉しめる。
途中々々で寄り道をして、謎の祠に手を合わせたり、神社を参拝したり、綺麗な植物に心奪われたり、川で釣りをしている人を眺めながら歩いて、予定通り2時間ほどで戸河内ICの《来夢とごうち》に到着した。レストランで名物らしい漬物焼きそばを食べてから、バスに乗りこんで広島バスセンターに向かった。