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「日本人、死なないで欲しい」 アフリカから全身全霊で訴える理由
「世界は広い、アフリカに来い」
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「世界は広い、アフリカに来い」
昨年11月、X(旧Twitter)で、泥だらけのバケツの上に置かれたノートの画像が筆者の目にとまりました。ノートには、黒のマジックペンで、こう書かれていました。
《日本人、過労自殺が多いと聞いた。死なないで欲しい。仕事は辞めていい。世界はとても広い。アフリカに来い》
一見ぶっきらぼうですが、不思議と温かみも感じられる文章。投稿主のアカウント名は「kongbo」(コンボ)。カメルーン西部のデュラという農村から発信をしているようでした。
興味がわいた筆者は、彼のアカウントをフォローし始めました。
この投稿には、感謝のコメントが相次ぎました。
「すごく優しい世界」
「行き詰まったらアフリカにいくのもいいですね」
「ありがとう。そう言ってもらえるだけでも気持ちが楽になるよ」
それ以降も、コンボさんは日本人に向けて様々なメッセージを発信し続けました。
《日本人、今日も労働お疲れ様。あなたはとても頑張った。家でゆっくり休んでください》
《日本人学生へ伝えたい―日本の受験はとても厳しい。あなたはすでに勇敢です。あなたはアフリカに来るな。必ず勝者になってください》
いったいなぜ、会ったこともない遠い島国の私たちに心を寄せ続けてくれるのでしょうか。
本人にオンラインインタビューで聞いてみたいと思い、X上で依頼すると、「クール!!会えるのを楽しみにしているよ!!」と快諾してくれました。
「ミユ・ホンダ!!フォーリンラブ!!イエイ!!」
オンラインインタビューの画面に、ハイテンションで姿を見せたコンボさん(33)=本名サンミ・ファイェニュウォ。
開始早々に「好きな日本人」として名前を叫んだのは、フィギュアスケーターでタレントの本田望結さんでした。
筆者はパワーに圧倒されながらも、仕切り直して本題に入りました。
普段は、カメルーン西部にあるデュラという農村で、養鶏場を経営しています。
発信を始めたきっかけは、2019年、カメルーンの港町で、マル(本圓〈ほんえん〉雅希さん、23歳)という日本人と知り合って意気投合したことです。
当時、マルは大学受験に失敗した直後でしたが、アフリカ諸国を旅行する中で、偶然、芸術活動に励む路上生活者たちと出会い、サポートを始めたところでした。
翌年、マルは京都大学農学部に通い始め、アフリカ諸国を行き来していたので、養鶏場の経営を手伝ってもらうことになりました。
日本にものすごく興味がわき、Google翻訳を使いながら、日本人向けにXとYouTubeで発信するようになりました。
また、養鶏場の経営だけでは収益に限界があったので、オンライン空間でも収入源ができるきっかけになればいいなという気持ちもありました。
日本に関連する本を読む中で偶然、過労自殺のことを知りました。
仕事のことで悩んで自殺するなんて、私の周りではあり得ないことだったので、とても驚きました。
日本人の皆さんに、もっと自分のことを大切にして、仕事が嫌なら迷わずに仕事を辞めてほしいと思い、発信しました。
反響は予想以上で、自殺をしようと考えている人からメッセージが何十件も届きました。
日本と言えば、アフリカ各国でも有名なトヨタ自動車や、ドラえもんなどのアニメで、経済的にも文化的にも豊かな印象がありました。
なぜ自分たちより裕福な環境にいる人たちが、ここまで悩んでいるのか。ショックを受けました。
自殺するな日本人,
— Kongbo (@letejada) November 26, 2023
アフリカに来い pic.twitter.com/Z4TsCSk4po
思った以上に悩んでいる日本人が多いと知り、動画でも励ましたいと考えました。
英語の語りに日本語の字幕をつけて、自分たちの村について「お金がなくても楽しく生活している」「貧しくて一番幸せな場所」と説明しました。
そして、「挫折や失敗は全ての終わりではなくて成功の始まりだと、アフリカ人は信じている。つらいことがあっても、自殺を選ばないで」「日本が合わないなら、アフリカに来い」と呼びかけました。
本当にアフリカに来るかどうかは別としても、世界を見渡すくらい視野を広くしてほしいという意図がありました。
「自殺を考えている」という相談だけでも1日あまりで30件以上届きました。悩みのタネは、職場だけでなく、学校、受験、家庭などさまざまでした。
多くに共通していたのは「一生懸命やっているのに、誰も自分を認めてくれない」という不満でした。
日本人は勤勉で、朝から晩まで必死に働いています。
でも、日本人フォロワーの話を聞いていると、多くの日本企業は労働者に対するリスペクトや感謝が足りないように思いました。
あとは、「失敗したくない」と怖がる日本人も多かったです。
日本社会は戦後、成功が全てだと信じ、成功を追い求めてきました。これは日本が発展できた原動力ですが、大きな問題があります。
成功したら称賛されるのは良いことですが、失敗した時に励ましてくれる人はいるのでしょうか。
私たちのデュラ村とは対照的です。貧しく、いつも順風満帆ではないと覚悟しています。
失敗の可能性を受け入れた上で、その先に成功があると信じているのです。
人生の成功や幸せとは、上っ面の美しさ、つまり金銀財宝に囲まれることではありません。
それは、毎日、私たちがどんな行いをして、他人をどれだけ幸せにできたか、で決まると思うのです。
だから、私の言動によって、日本の皆さんが楽しい気持ちになったり、生きる希望に気づいたりしてくれたのなら、それは私にとってこの上ない喜びであり、幸せです。
日本の皆さんが、会ったこともない私と一緒に喜んだり、悲しんだりしてくれることが何よりの心の支えになっています。
これからも、大好きな皆さんと楽しく交流し続けたいです。
「日本人は失敗が悪いことで、成功が全てだと信じていませんか?」
多くの日本人の悩みに耳を傾けてきたコンボさんから投げかけられた言葉に、筆者は考えさせられました。
デュラ村では毎日のように停電が起き、安定したインターネットがないそうで、今回のオンラインインタビューは都市部で対応してくれました。
インタビュー後、コンボさんや仲間たちはマラリアに感染して命の危機に瀕し、経営する養鶏場には強盗が入りました。
常にさまざまなリスクが隣り合わせにあるデュラ村の人々にとって、トライ&エラーは当たり前のことです。
私たちは恵まれているがゆえに、転んで痛い思いをすることを極端に避けようとしているのかもしれません。
コンボさんは「失敗は悪」との思い込みが自殺につながっていると指摘した上で、「失敗は全ての終わりではない、他にも色々な選択肢があると気づいてほしい」と訴えています。
そんな思いが「アフリカに来い」というストレートな言葉につながっているのでしょう。
ちょっと元気が出ないとき、ひどく落ち込んだとき。コンボさんの言葉を見返すと、色々なヒントがもらえるかもしれません。