2019年9月1日の夕方、愛知県春日井市の岡村豊明さん(39)の自宅に女性が訪ねてきた。
「奥さんが吹奏楽の練習中に意識をなくして、病院に運ばれました」
女性は、妻の江美さんが所属していたアマチュア楽団のメンバーで、豊明さんの携帯電話の番号がわからなかったからなのか、直接伝えに来てくれた。
病院にかけつけると、江美さんはベッドの上で人工呼吸器をつけていて意識不明の状態。くも膜下出血だった。
医師からは「意識は戻らない可能性が高い。それほど長くないかもしれません」と告げられた。
大好きな曲は届いていた
中学時代から吹奏楽に打ち込んでいた江美さん。この日はテナーサックスを演奏している途中で具合が悪くなり、休憩していたところ、意識を失った。
「自分に出来ることは祈ることぐらいしかない」。そう思っていた豊明さんに、父親が「調べたら何か刺激を与えたらいいと書いてあったぞ」と教えてくれた。
豊明さんは楽団のメンバーにお願いして練習していた曲を教えてもらった。江美さんが好きだったバンド「DREAMS COME TRUE」の曲も集めた。集中治療室にいる江美さんの耳元に小さなスピーカーを置いて、聴かせようと思ったからだ。
曲を流してみると、特定の曲…