最大のマイノリティー ヒスパニック票を引き裂く「壁」
分極社会
「メキシコとの国境に壁を築く」と訴え、トランプ米大統領が当選してから4年。そのトランプ氏が再選を目指す11月3日の米大統領選では、ヒスパニック(スペイン語圏出身)の有権者の存在感が、かつてないほど高まっている。(テキサス州エルパソ=藤原学思、サンパウロ=岡田玄)
高さ9・1メートルの国境の壁の合間を、ミキサー車が次々と抜けていく。口元を覆った作業員2人が、運ばれたコンクリートで壁の下部をふさぐ。新型コロナウイルスの感染者が増える中でも、建設は止まらない。
メキシコとの国境沿いに位置する米テキサス州エルパソでは、トランプ大統領が建設を約束した「壁」がこれまでにないほど、頑強になっている。
「新しい壁になって、仕事がぐっと楽になった」。10月20日、不法移民を取り締まる米税関・国境警備局(CBP)の若い男性職員は笑った。国境には以前から5・5メートルの金網があったが、破られて越境するケースが相次いでいたという。
男性のルーツはメキシコにあり、自宅ではスペイン語を話す。2012年の大統領選では「マイノリティーのためになってくれるはずだ」と期待し、民主党のオバマ前大統領に投票した。「だが、甘い言葉を口にする単なるナイスガイだった」と感じた。16年は、「正直で、冷徹で、無遠慮」なトランプ氏に託した。今年も一票を入れるつもりだ。
「彼はメキシコ人を強姦(ごうかん)魔と言った。言い過ぎかもしれない。でも実際、私たちが相手にしているのは、薬物の取引や人身売買をしたいメキシコ人たちだ」
同じ壁を目にするたびに、フェルナンド・ガルシアさん(50)はため息が出る。「トランプ氏にとっては実績だろうが、我々には、ヘイトの象徴でしかない」
98年から、エルパソでNPO「人権のための国境ネットワーク」を率いる。CBPの活動を監視し、壁の建設中止を求めて訴訟も起こした。
エルパソは、国境を挟んだメキシコ側の街、シウダフアレスと一体で発展してきた。毎日、メキシコから米国に越境して通勤する人も多い。だが、不法入国ばかりが強調され、壁が築かれてきた。ガルシアさんも、不法入国には賛同しない。ただ、「米国は労働力として不法入国者を必要とし、酷使してきた。そのシステムこそ問題だ」と指摘する。
エルパソは全米で「最も安全な街の一つ」とされるが、昨年8月には白人の男が大型小売店でヒスパニックを標的に銃を乱射し、22人が亡くなる事件が起きた。直前には、白人至上主義を訴える投稿がインターネットにあり、警察は容疑者が書いたとみている。
ヒスパニックの中でも衝突が起きている。家族が国境をはさんで分離され、別のヒスパニックがそれに賛同することもある。ガルシアさんは、「トランプ氏がヒスパニックコミュニティーを二つに引き裂いた。お墨付きを得て、同胞を攻撃してもいいと考える人が増えた」と考える。(エルパソ=藤原学思)
「おじいちゃんが知ったら、口をきいてくれないかも」
16年の大統領選の出口調査によると、ヒスパニックの65%が民主党のクリントン氏、29%が共和党のトランプ氏に投票した。ピュー・リサーチ・センターが今年10月に公表した世論調査でも、支持率は民主党のバイデン氏63%、トランプ氏29%と似た傾向だった。
ただ、考え方を変える人もいる。3月までカリフォルニア州サンフランシスコに住んでいたニカラグア系のハイロ・ロドリゲスさん(35)は「コロナ後、すごい勢いでトランプ支持者が周囲で増えた」と語る。自身も、トランプ氏支持に転じた。
父はニカラグア内戦を逃れ…
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