1月20日にあったアメリカ大統領就任式で、一人の若い詩人が世界の注目を集めました。アマンダ・ゴーマンさん。22歳にして大役を任され、アメリカ国民に結束を呼びかける内容は、多くの共感を呼びました。しかしなぜ彼女の詩「The Hill We Climb(我らの登る丘)」は私たちの胸を打ったのでしょうか。英米文学に詳しい東京大の阿部公彦教授と読み解いていくと、聞き手をひきつけるためにちりばめられた数々の手法が見えてきました。
――ゴーマンさんはどのような詩人なのですか。
彼女は19歳だった2017年に優れた若手詩人に贈られる「全米青年桂冠(けいかん)詩人」に選ばれています。早熟な詩人としてある程度注目はされてきましたが、まだ若いため、国際的に広く認知された詩人ではありませんでした。しかしこれまで書いてきた詩を見ても「社会派」として有望という位置づけでした。
――そんな彼女が世界的な注目を浴びるまでになりました。
ゴーマンさんは今回、自身の話も交えつつ、黒人の視点から詩を書きました。トランプ前大統領や支持者を非難せず、分断を乗り越えようという前向きで明確な内容です。マイノリティー(少数者)である彼女が個人的な夢を交えて語る内容なのに、これほどの幅広い共感を呼んだのは、トランプ政権の終幕にほっとした人が、この詩を通し立場を超えて感情を共有できたからではないでしょうか。詩の力強さとゴーマンさんのパフォーマンスの見事さ、そしてアメリカの社会的背景が合致し、詩を生きたものにしたのだと思います。
――詩はわかりやすくメッセージ性に富んだ内容でした。どのような手法が使われていましたか。
それでは一つずつ見ていきましょう。まずは音の強弱のつけ方が上手です。たとえば、詩は次のように始まります。
《When》 day 《co》mes we 《as》k our《sel》ves
《Where》 can we 《fi》nd 《ligh》t in this 《ne》ver-《en》ding 《sha》de?
(日が始まる時、私たちは自問する 終わらない影の中、どこに光を見つけられるか)
彼女の朗読を聞くと、《》の部分を強調して読んでいました。英語では「強」が一定のペースで聞こえるように発話するとリズミカルで心地よく聞こえます。加えて、1行目などは「強」「弱」が交互に入れ替わっています。これはシェークスピアの芝居でも使われる韻文の基本形に近く、雄弁で勇壮、着実に語っている印象を与えます。大統領就任式のような公式の場や、晴れの舞台で用いるのにふさわしいリズムです。しかしゴーマンさんの場合、詩が進むにつれてこうした型を自由に崩していきます。
――さまざまな韻を踏んでいるのも印象的でした。
韻には語尾を行末で合わせる「脚韻」と行中の「中間韻」、語頭を合わせる「頭韻」があります。序盤の次の部分では脚韻と頭韻が使われています。
We’ve braved …
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