第3回去りゆく米軍、拡大する戦場「内戦はもう始まっている」

有料記事勝者なき戦い 米同時多発テロ20年

バンコク=乗京真知
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 自動小銃を構えたターバン姿の男たち数十人が、「アラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫びながら市街地になだれ込む――。

 アフガニスタンの反政府勢力タリバーンのドール・ムハンマド戦闘員(48)から8月6日午後、朝日新聞助手に送られてきた動画の一場面だ。

【連載初回】「105階から生還した男性の9・11 『叫び声、今も』」はこちら

同時多発テロからまもなく20年が経過します。全世界を震撼させた同時多発テロは世界を、そして米国をどのように変えたのか。さらに、米国が始めた対テロ戦争は世界にどのような影響を与えたのかに迫る連載です。連載3回目では、対テロ戦争の主戦場となったアフガニスタンを取り上げます。米軍が撤退することで、空白地が生まれ軍閥や反政府勢力が力を増して混沌とした状況が生じつつある現状を関係者らへの取材で伝えます。

 ムハンマド戦闘員は取材に、「装甲車や弾薬を大量に奪った」と息巻いた。北部ジョズジャン州の州都シベルガンに攻め込んだ際の映像だという。

 翌7日、シベルガンはタリバーンの手に落ちた。

 2001年の米同時多発テロが発生してから9月で20年。テロ容疑者をかくまっているとしてアフガニスタンのタリバーン政権(当時)を攻撃し、崩壊させた米国が、20年を節目に駐留米軍の完全撤退を進めるなか、タリバーンが反転攻勢を仕掛けている。

 タリバーンは全国34州の州都のうちシベルガンを含む北部や南西部、中部などの12州都を8月6~12日に制圧。各地の軍基地や警察署から武器を奪い、刑務所からタリバーン戦闘員を脱走させて、雪だるま式に勢力を増している。

 10州都のなかでも、シベルガンの陥落は衝撃をもって受け止められた。シベルガンは北部の交通の要衝であるだけでなく、意に沿わない勢力の抹殺を広言するドスタム元副大統領、通称「ドスタム将軍」が率いる軍閥の本拠だったからだ。

 アフガニスタンには軍事力を背景に政治力を保つ「軍閥」と呼ばれる民兵組織が各地にいるのだが、ドスタム氏の軍閥はその筆頭格だ。仮にタリバーンが攻め込んで政府軍が逃げても、軍閥が撃退するのではないかとみられていた。

 ところがシベルガンは、タリバーンの猛攻により、わずか数日で陥落した。SNS上には、きらびやかな家財が並ぶドスタム氏の邸宅内を我が物顔で歩き回ったり、ドスタム氏の衣装を盗み出して「コスプレ」に興じたりするタリバーン戦闘員たちの動画が拡散した。

 タリバーン一掃をうたい、療養先のトルコから帰国したドスタム氏の面目は潰された。国内有数の実力者とその軍閥のあっけない敗北で、各地の軍閥に動揺が走った。

有力な軍閥すらも蹴散らして支配範囲を広げるタリバーン。その勢いはどこまで続くのか。記事後半では、タリバーン幹部へのインタビューでその伸長ぶりを伝えます。また、タリバーンと激しい戦闘を続けている軍閥メンバーらへの取材から、若者の窮状ぶりやアフガニスタンの現状を描き出します。

 州都への猛攻は、タリバーン…

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