井形慶子さん、50代からの転身 大事なのは年金と「引き返せる道」

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聞き手・佐々波幸子
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 28歳で出版社を立ち上げた井形慶子さん(62)が社長を辞めたのは、55歳のとき。手がけてきた英国情報誌の編集長は続けつつ、年間34日だけ開く洋品店を始めました。30年近く続けた経営者の座を降り、長年の夢への転換。実現するまでの経緯や大事にすべきことを聞きました。

     ◇

 ――働き盛りでの転身でしたが、決断したきっかけは。

 ある日広々としたオフィスを見ながら「もっと年をとったとき、自力でこの会社を畳めるだろうか」と不安に襲われたんです。それが直接のきっかけでした。社長を辞める3年余り前になります。

 当時3カ所にオフィスを構え、総面積は約300平方メートルありました。事業は好調で、本の依頼も続いていましたが、出版社の規模を縮小すると決めました。

 物置と化していた倉庫を解約し、段階を踏んでオフィスは以前の4分の1ほどのフロアに移転。20人超の社員の今後を考え、仕事の柱である英国情報誌「英国生活ミスター・パートナー」は月刊から隔月にしました。

 老前整理をするように会社をダウンサイジングしていく過程で、もう自分がすべての責任を負って走らなくてもいいんだと、徐々に思えるようになり、働き方も変わっていきました。

 ――出版社の社長と雑誌の編集長を兼ねつつ、本の執筆もあり、かなり激務だったかと。

 午前10時には出社して、夜中の12時にタクシーで帰るような生活で、帰宅後、お風呂に入る力が湧かないんですよ。力を振り絞らないと入れない。にもかかわらず、そういう働き方をやめられなかった。

 出した本も100冊を超えましたが、それこそ24時間、頑張っちゃう。ストレスは承認欲求となって表れ、「業績いいですね」「売れ行き好調ですね」という言葉を常に求め、自分の価値基準となっていた。「あなたじゃないとだめだ」という甘やかな言葉を聞くと落ち着くみたいな。

 ――そうした状況を変えるのは、なかなか難しそうですが。

 お手本となったのは、長年取…

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この記事を書いた人
佐々波幸子
文化部|歌壇担当
専門・関心分野
短歌、子どもの本、投稿(生活者の声)
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「人生100年時代」が近づくいま、50歳はちょうど中間地点。変わる身体、働き方、家族との関係……。「Aging Gracefully」(エイジング グレイスフリー)は、家庭や職場、地域で大事な役割を担うミドルエイジの女性たちの「いま」と「これから」を見つめ、自分らしく年齢を重ねていくことを応援する特集です。[もっと見る]