第4回「トシくんはモノと違うねん」 女の子の発言に教室は静まりかえった

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 5年2組にはトシくんという知的障害のある男の子がいた。彼をめぐって開かれた1985年9月の学級会のことを、担任だった久保敬は忘れることができない。

 この小学校では、障害のある子も原則として一般学級で学ぶ「原学級保障」という考え方をとっていた。トシくんも担当教員のサポートを受けながら、みんなと一緒に学んでいた。

 言葉で思いを伝えることがほとんどできなかったトシくん。朝は近所の子と集団登校していたが、下校時は毎日の「終わりの会」でトシくんと一緒に帰る子を募っていた。

 ところが1学期も終盤になると、一緒に帰るメンバーが3人の女子に固定されてしまった。それを問題視した久保が開いたのが、その学級会だった。

 タケルが「トシくんとまだ一度も帰ったことのない人がたくさんいる。当番制でトシくんを送ろう」と提案すると、女の子の一人が「私、習い事があるから無理や」と反対した。

 すると、今度はその子に非難が集まった。

 「トシくんのこと考えてへんのちゃうか」

 「毎日都合が悪いなんてことはないやろ」

 やがて、当番制で話がまとまりかけた。久保も内心で、その方が負担が公平でよいだろうと思っていた。

 そのときだった。

「上から目線」の優しさ

 毎日トシくんと一緒に帰って…

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この記事を書いた人
宮崎亮
広島総局次長
専門・関心分野
子ども・若者・教育・差別と人権・自由と抑圧
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    武田緑
    (学校DE&Iコンサルタント)
    2023年4月12日6時20分 投稿
    【視点】

    この連載、圧巻です。大阪の人権同和教育のかつての実践の貴重な記録でもあり、これを掘り起こしてくれた宮崎記者に感謝したいです。(久保さんが当時の記録を全部保管してるのもすごいな...) エピソードで語る力のある久保さんと、現場の生の実践・そ

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    島沢優子
    (ジャーナリスト・チームコンサルタント)
    2023年6月8日10時13分 投稿
    【視点】

    娘とモリキタさんの姿が重なりました。娘が小学4年のとき、廊下で給食を食べさせられたことを思い出しました。 ある日の2時間目の授業中。担任がA君を指して、「君がクラスにいると、みんな迷惑だと思っている」と言いました。 娘は「なぜ、『みんな

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